(21)
江島が海堂がいうセカンドハウスに着いたのは、丁度6時半だった。
時計を確認して、少し迷ったものの、中に入った。
約束の7時にはまだ30分もある。
恐る恐るドアを開ける。
以前に来た時は海堂が一緒だったから何とも思わなかったが、いざ自分ひとりでこうしたところへ入るのは、少なからず勇気が要った。
何といっても、ここは「ヤクザ」が出入りする場所なのである。
ドアの開く音で、若い男が2人、身構えるようにしてこちらを凝視した。
カウンターの中にいた明子が、「あっ、お父さん、いらっしゃい」と言ってくれなかったら、彼らに言い寄られるような感じがした。
「2人とも、ご苦労様。ここはいいから、表で社長が戻るのを待ってて。お客人は来られてますって言うのよ。」
明子が男2人にそう言うと、彼らは黙礼をして、表へと出て行った。
「お客人か・・・・・やはり、普通の言い方じゃないよな。」
江島は、男達が出て行ったのを確認してから、明子にそう言って苦笑いをする。
「ごく普通でしょう?お父さんに偏見があるから、そう聞こえるのよ。」
明子は簡単に答える。
「うちの人が戻るまで、カウンター席にいて。私、あの人がいないときは、できる限りこのカウンターからは出ないように言われているの。」
明子は、そう言って、江島にカウンター席に座るように頼んだ。
「いいけれど、どうしてここを出ちゃあいけないんだ?」
指示されたとおりにカウンターの椅子に腰掛けながら、江島は明子に尋ねた。
「ご想像に任せるわ。いちいち説明することでもないし。」
明子は、両肩を少し上げるようにして、笑った。
「どう?お店の方、うまくいってる?」
珈琲を入れながら、明子が話題を変えてくる。
「ああ、まずまずだ。何とか夫婦2人、食べてはいけてる。」
「そう、それはよかったわね。お母さん、腰が痛いとか言ってたけど、もう大丈夫なの?ちゃんと、お医者さんへ連れて行ってあげてよね、お父さん。」
「どうして、明子がそんなことを知っているんだ?」
「あら、私は、お父さんとお母さんの娘よ。それぐらいのことは知っているし、また、知っていて当然でしょう?同じ街にいるんだから。」
この部分だけを知らない人が聞けば、父と娘の何気ない会話に聞こえるだろうな、と江島は思った。
だが、現実は、娘は「ヤクザな男」に取られたようなものなのだ。
娘の明子と会うのも、あの会社倒産時に同じこの場所で会って以来である。
だから、もう12年も会っていなかったのだ。
「はい、珈琲。お砂糖は少ない目にしか入れてないわよ。お医者さんに控えるよう言われているでしょう?」
明子は、そう言って珈琲カップを前に出してくれる。
その一挙一動を見ていて、わが娘ながら、12年前から殆ど年をとっていないような気がする江島である。
年をとっていくのは、俺たちだけなのか?
ふと、そんなことを思ってしまう。
表のドアが勢いよく開いて、海堂が戻ってきた。
以前より、凄みを増しているような気がする。
「おやっさん、ご無沙汰いたしておりやす。・・・さぁ、こちらへ。」
海堂が江島を奥のボックス席へと案内する。
(つづく)




