(20)
江島は車を運転しながら考えた。
俺は、作業長に仕事を叩き込まれた。
何度も叱られた。
手をあげられたこともある。
だが、それでも必死で食らい付いてきた。
それで、何とかこの腕を自慢できるようになった。
20年も掛かってのことだ。
作業長にはなんでも相談できた。
厳しい人だったが、仕事を離れると優しい包容力のある人だと思っていた。
だから、人間的にも「憧れの人」になった。
目標だった。
「作業長のようになりたい」と常々思っていた。
作業長も俺を可愛がってくれた。
何とか自分の責任で仕事が出来るようになってからは、「良く出来た」と褒めてくれることも多くなった。
嬉しかった。まるで、子供のように嬉しかった。
だから、会社内でも、作業長のことは俺が一番知っていると自負していた。
だが、しかし、・・・・・なのだ。
作業長が、長い間あのような仕事を1人でやっているなどとは夢にも思っていなかった。
もし、そのような仕事があったのなら、「極秘だから他言はするな」という言葉は添えてあっても、必ず俺には教えてくれると勝手に思い込んでいた。
それなのに、まったく教えてももらえなかったし、自分もまったく気がつかなかった。
倒産のこともそうだ。
三橋の話が本当だとすれば、作業長は会社の状況を知っていた筈だ。
危ないかも知れんと分っていたのに、俺には何も言ってくれなかった。
何故だ?
俺は、そこまで信頼されてはいなかったってことか?
そうなのかも知れん。
作業長の口から、昔の話として、刑務所にいたなどということは一切聞いていない。
そりゃあ、自慢できる話ではないから、誰にでも言えることではない。
だが、俺には言ってくれてもよさそうなものではないか。
俺は作業長にとっては、そこまでの間柄だったのか?
会社に入って20数年。
その日々は、一体なんだったんだろう?
喰うために、給料を貰うためにだけ働いてきたのか?
いや、違うだろう!
人間、そんなことのためだけに生まれてきたってことはない筈だ。
だが、・・・・・空しい。
それが、男なのか?
それが仕事というものか?
そんな気持を振りほどきたいためか、江島はアクセルを踏み続ける。
(つづく)




