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「だからなのでしょう?江島さんがどこにも再就職されずに、今日を迎えられたのは?」

三橋は、ここを聞かせろ!というように、身を乗り出してくる。


江島は、また分らなくなった。

三橋は、何を自分に言わせようとしているのか?


「おっしゃっている意味が分らないのですが・・・・・。」

江島は、嘘をついてないという意味で、三橋の目を見つめる。


「またまた、江島さんもお人が悪い。」

三橋が少し不機嫌な顔を一瞬にだが見せた。

江島は怯んだ。


「斉藤達の再就職の際にもあれだけお世話になって、私は三橋社長には足を向けて寝られないと思っております。それだけ信頼もさせていただいております。ありがたいことだと思っております。・・・・・・・」

江島はこの後に続けるべき言葉を準備できていなかった。


「だったら、なおさらじゃないですか。12年もじっと耐えてこられたのですから、今、ようやくその結果としての未来が開けようとしているのですから、腹のうちをお聞かせくださいよ。私でできることでしたら、どんなことでも協力させていただきますから。・・・ねっ、腹を割って、お聞かせください。」

今度は、三橋が江島の目をしっかりと見据えてくる。


2人は、しばらくは、黙ったまま互いに相手を凝視している。


このとき、ようやく2人は、自分達が言っている次元の違いに気がついた。

江島は江島の立場でこの三橋に相談したかった。

そして、三橋は三橋の立場でこれからの江島と連携がしたかったのだ。


何かが違う、どこかがずれている。

2人は、互いにそう感じていた。



その時である。部屋の電話が鳴った。


「あれだけ、何があっても取り次ぐな!と言っておいたのに・・・。」

三橋がそう言いながら、仕方が無い、というように電話を取る。

「私だ・・誰からの電話も取り次ぐなと・・・」

相手は社内の人間のようだが、その相手が何事かを言うと、三橋が態度を一変させた。

「・・・つないでくれ。」


「もしもし、三橋ですが・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「はい、その件で・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「いえ、まだですが・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「あっ!・・・はい、分りました。そのように・・・。では・・・・。」


席に戻った三橋が言う。

「江島さん、ちょっと急用が出来ました。また、2〜3日中にお越しいただけませんか?詳しくは、そのときに。」

江島も同意する。

「お忙しいときに、貴重なお時間を頂戴いたしまして・・・・。では、また改めて・・・ということで、今日はこれで失礼をさせていただきます。」


車のところまで三橋が送ってきた。

江島は、これから行くところがある。


(つづく)




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