(19)
「だからなのでしょう?江島さんがどこにも再就職されずに、今日を迎えられたのは?」
三橋は、ここを聞かせろ!というように、身を乗り出してくる。
江島は、また分らなくなった。
三橋は、何を自分に言わせようとしているのか?
「おっしゃっている意味が分らないのですが・・・・・。」
江島は、嘘をついてないという意味で、三橋の目を見つめる。
「またまた、江島さんもお人が悪い。」
三橋が少し不機嫌な顔を一瞬にだが見せた。
江島は怯んだ。
「斉藤達の再就職の際にもあれだけお世話になって、私は三橋社長には足を向けて寝られないと思っております。それだけ信頼もさせていただいております。ありがたいことだと思っております。・・・・・・・」
江島はこの後に続けるべき言葉を準備できていなかった。
「だったら、なおさらじゃないですか。12年もじっと耐えてこられたのですから、今、ようやくその結果としての未来が開けようとしているのですから、腹のうちをお聞かせくださいよ。私でできることでしたら、どんなことでも協力させていただきますから。・・・ねっ、腹を割って、お聞かせください。」
今度は、三橋が江島の目をしっかりと見据えてくる。
2人は、しばらくは、黙ったまま互いに相手を凝視している。
このとき、ようやく2人は、自分達が言っている次元の違いに気がついた。
江島は江島の立場でこの三橋に相談したかった。
そして、三橋は三橋の立場でこれからの江島と連携がしたかったのだ。
何かが違う、どこかがずれている。
2人は、互いにそう感じていた。
その時である。部屋の電話が鳴った。
「あれだけ、何があっても取り次ぐな!と言っておいたのに・・・。」
三橋がそう言いながら、仕方が無い、というように電話を取る。
「私だ・・誰からの電話も取り次ぐなと・・・」
相手は社内の人間のようだが、その相手が何事かを言うと、三橋が態度を一変させた。
「・・・つないでくれ。」
「もしもし、三橋ですが・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「はい、その件で・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「いえ、まだですが・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あっ!・・・はい、分りました。そのように・・・。では・・・・。」
席に戻った三橋が言う。
「江島さん、ちょっと急用が出来ました。また、2〜3日中にお越しいただけませんか?詳しくは、そのときに。」
江島も同意する。
「お忙しいときに、貴重なお時間を頂戴いたしまして・・・・。では、また改めて・・・ということで、今日はこれで失礼をさせていただきます。」
車のところまで三橋が送ってきた。
江島は、これから行くところがある。
(つづく)




