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「だからこそ、周囲は、あの倒産劇があったとき、これで生田さんも自由になれると誰しもが思っていたのですよ。」

三橋が言葉を続ける。


「自由に・・・ですか?」

江島は、当時の自分の心境からして、その言葉には少なからず抵抗があった。


「そうです。生田さんほどの腕があれば、まさに職人技なのですから、歌ではありませんが“庖丁一本、晒しに巻いて・・・♪”ですよ。あの腕だけで、どこでもあそこ以上の収入が得られた筈です。・・・でも、生田さんは頑なにそれを避けられた。先代社長が亡くなられたとき、もし生田さんが他に移られていたら、もう1年も持っていなかったと思います。でも、生田さんは先代社長への恩を忘れてはおられなかった。」

「生田作業長らしいですね。」

江島は改めて生田の生き様を見たような気がする。


「ですから、だからこそ、倒産のときは、いくら生田さんでもそこまで逝ってしまった会社に義理立ては必要ないでしょう?、と皆が思ったのです。ですから、私の会社も含めて、10社以上からの誘いがあっただろうと思います。でも、生田さんはそれらをすべて断られた・・・・。しかも、何やら仕事を1人だけで続けられている。・・・・・・その仕事の内容は、江島さん、今のあなたがよくご存知の仕事だったようですね。」

「・・・・・どうして、そこまで・・・」

江島は、いくら鋭い眼をもった三橋でも、どうしてそこまで知っているのかを訝った。


「先程、倒産劇のあと、驚くことがあった・・・と言いましたよね。そのことなのです。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

江島には、三橋が言っている意味が分らない。理解できない。


「とある大手の会社がうちにもやってきました。・・・・こう言えば分りますか?・・・・そうなのです。定森金属さんの倒産が公表されてから半月もたっていないときだったと思います。その大手の重役さんが、せび、内密で会いたいと言ってきたのです。一応の話はお聞きしました。でも、到底、言われるような開発が出来る能力は、悲しいかな、うちの会社にはありませんでした。」

三橋は、一瞬だが、悔しそうな顔を見せた。やはり、技術屋のプライドが痛むのかもしれなかった。


「それで、ピンと来たのです。・・・これって、定森さんのところが?・・と恐る恐る訊ねたのです。その重役さんは、苦しげな作り笑いをするだけで、肯定も否定もされませんでした。それで、私は、生田さんがその仕事を、会社が倒産しているのに独力で継続されるようになったのだと知ったのです。」

三橋は、これで私からの話は終わったよ、という顔をした。

今度は、あなたが話す番だと言っている。


「恐れ入りました。そこまでご存知だとは。」

江島は、本音で舌を巻いた。


「でも、そのお話は、私が作業長の跡を継いでやるつもりなのだということを意識されたうえでお聞かせいただいたのですね。有難うございます。」


江島がそう言うと、三橋はにっこりと笑うことで、それに答えた。


(つづく)




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