(15)
三橋はわざわざ会社の敷地内にある駐車場まで迎えに出てくれていた。
「ご無沙汰いたしております。」
そう言って挨拶をする江島を、三橋は加工工場の中へ案内してくれる。
作業全体が見渡せるように、中二階のような高さに鉄製の回廊のようなものが設置してあって、三橋はその上に江島を案内する。
「右手の手前から3つ目のブースを見て欲しい。斉藤、田辺が金型の基本となる仮型を作っているところだ。2人とも良くやっている。さすがに生田さんや江島さんのところで学んでいた子たちだよ。応用力があるんだ。一ひねりが出来る。」
三橋が指差したブースには、かつて見慣れた顔が並ぶようにして作業をしている。
何より元気そうだし、活気がある。
「それから、・・・・」
三橋が江島の腕を取って回廊の上を巡っていく。
半周ほど行ったところで、5〜6人が大きなミーティングテーブルのようなところで、図面と出来上がった製品とのチェックをやっているように見えた。
その中の1人が、渡辺である。
彼も、三橋に頼んで採用してもらった元部下である。
「あの渡辺は、こんなことを言うと失礼なのだが、拾い物だった。」
三橋はそう言う。
確かに、彼だけは、最後まで三橋が「うん」と言わなかった男なのだ。
大学を出ているのに、何となく自信がないような態度をとることがあった。
江島は何度と無く頭を下げて「何とか頼む」と三橋に懇願した。
「そこまで言うのなら・・・ただ、使えないと思ったら、申し訳ないが退職してもらうことになる。それを覚悟なら。」
三橋も、そう言って、ようやく受け入れてくれた男だった。
「あれは、うちへ来て3ヶ月ぐらいたったころだったかなぁ。生田さんがふらりと見えられて・・・・。」
三橋が思い出話をするように言う。
「生田さんが来られたのですか?」
江島は、初めて聞く話だった。
「うん、私に内緒で、どうやらあの3人の様子を見に来られたらしい。」
「それで・・・?」
「生田さんは、渡辺に、設計図を描けるようになれ、と言われたそうだ。」
「ほう・・・」
「それから、彼が直属上長に、夜間の技術大学へ行かせて欲しいと申し出てきた。私にも報告があって、やる気があるのであれば、それも良いだろうということになった。それで、通わせたんだ。」
「なるほど・・・で、続きましたか?」
「ああ、それで人間までもが変わったようになった。今じゃ、最初の試験的に作る試作品の設計は、あの渡辺が担当しているんだ。」
三橋の顔は嬉しそうであった。
「ところで、わざわざ江島さんが来られるのには、彼らの現状を見るだけのためではないのでしょう?何があったのです?」
三橋がそう切り出した。
さすがに中堅企業の社長をやっているだけのことはある。
江島は、その眼力に頭が下がる思いがした。
(つづく)




