(14)
「でも、そうしてお仕事をされても、会社は倒産して既になくなっていたのですから、お給料なども出なかったと思いますが・・・・。」
江島は、辛いことを聞いていると自覚している。
だが、これから先、自分がこの仕事を引き継ぐのだとしたら、その辺りの事情は出来る限り知っておきたいと思うのだ。
「そうですねぇ。お給料は入らなくなりました。それは、皆さんも同じだと思います。ですから、私は、主人がそうした作業をするのは、てっきり、残務整理の一環なのだと思っていたのです。最初は。・・・・・・でも、それが何日も続くと、さすがに違和感を覚えまして、主人に訊きました。どうして、会社もないのにあなただけが仕事をされるのですかと。」
奥様はその時の場面を思い出されるような話し振りである。
「それで、作業長はどのように?」
江島は先を急ぐ。
「女が口を出すものじゃない!、その一言でした。」
奥様はさすがに寂しそうにおっしゃる。
「私は、主人の健康状態が心配だっただけなのですが・・・・。」
江島は、これ以上奥様にお聞きするのは酷だと思った。
ただ、今までの話だけでも、作業長が会社倒産後も引き続いて何らかの作業に懸命に取組んでいたことだけは十分に分った。
それでいい、それだけ分れば十分だと思った。
作業長のことだから、それ以上の細かい話は奥様には聞かされていないだろう。
江島は、再度、遺影に向って頭を下げてから、そこを辞した。
その帰り道、娘の明子に電話を入れてみる。
「海堂さんに会いたいんだが・・・」
と連絡を頼んだ。
10分後に、折り返して返事があった。
今日の夜、7時ぐらいからだったら時間が取れるとのことだった。
「うちのセカンドハウスまで来て欲しいって言ってるけれど、お父さん来れる?」
「ああ、じゃあ、7時に寄せてもらうよ。」
そう言って、電話を切る。
時計を見ると、午後の3時半を少し過ぎたところだった。
また、携帯電話から三都金属の社長、三橋義信に電話を入れる。
三都金属は、中堅の金型メーカーで、部下だった斉藤他2名を再就職として受け入れてくれた会社である。
だから、社長の三橋には恩があった。
三橋は会議中だと言ったが、5分後に掛けなおすと言ってくれた。
それではあまりにも申し訳がないので、会社に行っても良いか?だけを訊ねる。
もうすぐ会議も終わるので、それ以降だったらいつでも良いと言う。
江島は、その言葉に甘えることにした。
「それでは、30分後ぐらいにお伺いいたします。」
そう言って、車を急がせた。
(つづく)




