『私が悪いの?』
掲載日:2026/08/05
「私が悪いの?」
「約束してたよね?」
ただ、それだけだった。
責めるつもりはなかった。
忘れていたなら、「ごめん」で終わる話だった。
けれど彼女は、少し黙ったあと、決まって同じ言葉を口にする。
「……じゃあ私が悪いの?」
その瞬間、話は終わる。
約束の話ではなくなる。
忘れたことでもなくなる。
「そんなこと言ってない。」
「でも、そういうことでしょ?」
気付けば、慰める側と慰められる側が逆転している。
「そんなつもりじゃないよ。」
「もういい。」
最後は、なぜかこちらが謝って終わる。
何度も、何度も。
ある日、気付いた。
あの言葉は反省ではない。
質問でもない。
責任から逃げるための出口だ。
「私が悪いの?」
そう言えば、相手は否定してくれる。
話題は変わる。
責任は宙に浮く。
だから彼女は、同じ言葉を繰り返した。
だから、もう、その言葉には答えなかった。
「悪いかどうかじゃない。」
「君がしたことの話をしてる。」
その一言で、彼女は黙った。
初めて、逃げ道がなくなったからだ。
責任とは、誰かに押しつけられるものではない。
自分で引き受けるものだ。
それができない人は、一生「私が悪いの?」と、問い続ける。
その責任から逃れ続けるために。




