アンダー層の番人セオとの出会い
男は静かにフードを下ろす。
銀白の髪。夜のように冷たい琥珀の瞳。
顔立ちは完璧すぎて逆に現実味がない。
(……いや、なにこの人。無駄にかっこよすぎません!?)
「俺はセオ。この層の番人だ」
「ばんにん……?」
「通常、この層には外来者は存在しない。侵入者は排除対象だ」
「ちょっと待ってください!? 私、何も分からないんですけど!?」
スライムがぽよんと跳ねた。
セオはちらりとその様子を見ると、言った。
「……だが。そのスライムが、お前を受け入れた。ならば――」
「な、ならば……?」
セオは一歩、こちらへと近づいてきた。無駄に風が吹いたような気がした。いや、たぶん気のせいだけども。
「お前、餌になれ」
「……言葉の意味をもう一回考えてから口に出してもらえますか!?」
思わず後ずさりながら叫んだ。こちとら転生早々、スライムと仲良くなった?かと思ったら、今度は無駄にかっこいいイケメンから“餌認定”ってどゆこと!?
「……奴を引きつけろ。その間に俺が仕留める」
セオは、背後を指差した。
その瞬間、ぬうっ……と洞窟の奥から、何か巨大な気配が近づいてくる。
「ぐ……るるる……」
「待って、いやほんと待って! モンスター来てるの!? 私、戦ったことないし!?」
「問題ない。ただ走れ。全力で」
「いやぁぁぁぁああああ!!!」
私は叫びながら走り出す。するとスライムが「ぷるん」と跳ねて、小さく一歩だけ前に出た。
「くっ……わかったわよ! 囮、やればいいんでしょ!?」
私は一瞬、デスクワーク時代の鬼上司を思い浮かべてから、全力でモンスターの方に駆け出した。
「おーい! こっちだよ腐肉ぅぅぅ! 追いつけるものならこっちへおいでぇぇぇ! ぜぇっったい逃げ切って見せるけどねぇぇぇ!!!」
ゴゴゴ……と鈍い足音が加速する。
(やっぱ無理ぃいいい!)
振り返ると、セオはすでに剣を構え、静かにこちらへ歩いてきていた。
私の目前には、腕が3本くらいありそうなぐちゃぐちゃの肉塊モンスターが迫ってくる。
「うわぁあああぁああああああッ!!!!」
そのときだった。
ぽよん!
私の肩に、スライムが勢いよく飛び乗った。
「わっ!? だ、だめだって、危ないって……!」
でも、次の瞬間――
「ぺちっ」
スライムが私の頬にぶつかって、その体が一瞬、ぴかっと光った。
(え、今の……なに?)
体の奥が、じん、と熱くなる感覚がした。
セオが、その様子を見て、静かに呟いた。
「……“共鳴反応”か。まさか、適合するとは」
その言葉と同時に、セオは私の横をすれ違いざまに抜け、剣を振りぬいた。
ズバッ――!
モンスターが、目にも止まらぬ速度で斬られ、その身体を崩していった。
……静寂。
砂ぼこりが落ち着く中で、私はただ呆然と立ち尽くしていた。
「……なに今の……」
セオはスライムを見て、小さく首を傾げた。
「この個体、お前に魔力を通したらしい。“共鳴触媒”と呼ばれる現象だ。めったに起こるものではない」
「え?……」
「つまり、お前には魔力の適性があるかもしれん。このまま……しばらく様子を見る。名前は?」
「江入 結衣です。名前がゆいで、ファミリーネームがえいりです。保護してくれるんですか……?」
「……観察のためだ。ユイ=エイルだな。わかった。」
(エイルじゃなくて江入だけど、まあいいか。)
スライムが、私の足元でぴょこぴょこ跳ねた。