セオが関心を向けるのは
ーーセオ視点ーー
――これは、想定外だ。
虹色の光を放つ石を、ユイ=エイルが両手に持ったまま、ぽかんと口を開けている。
カインと名乗る勇者候補の青年は「すごいよユイさん!」と顔を輝かせていたが、セオの内心は騒然としていた。
(すべての属性に適性があり、なおかつ“無属性”も併せ持つ……)
それは、伝承の中でのみ語られる存在。
理論上は存在し得るが、現実には一度として確認されたことのない存在――。
(もしかすると、ユイなら瘴気の汚染すら対処できるのではないか――)
彼の脳裏に浮かんだのは、アンダー層第9エリア。
薄暗い天井の下、重く淀んだ空気。
呼吸をするだけで肺を焼くような瘴気。
それでも、アンダー層の住民はその場所から動けない事情がある者がほとんどだ。
(しかし、彼女なら、浄化できるかもしれない)
「……第9エリアへ行こう」
セオが呟くように言ったその言葉に、二人の反応が重なる。
「第9って……今が最深の第10エリアなので、1つ上ってことですか!? でも、なんで!? 今から!?」
ユイが声を上げた。
セオは、あくまで淡々と告げる。
「瘴気が深く、浄化可能か試してほしい。その、、全属性の、ユイの力で」
「待ってくださいよ!」
食い気味に割って入ったのは、カインだった。
「いきなりそんな危ない場所に連れてくなんて、ユイさんはまだ魔法もろくに使えないんですよ! せめて準備をしてからに――」
「試す必要があると言った」
「だからって、急すぎるでしょう!? それに、もし浄化できなかったら、ユイさんが瘴気にやられるかもしれないじゃないですか!」
セオは無言のままカインを見据える。カインも負けじと睨み返してくる。
(……こいつ)
その感情の正体をセオはまだ掴みかねていたが、ただ、彼の中に芽生えている“疑問”を強くさせるには十分だった。
ーユイ視点ー
するとその時――
『わぁ~お! カイン=ルヴァレストとの接触イベント、しっかり記録しましたっ♪』
ぴこんっ!
空中に突然、小さな音とともにアイコンが現れた。ユイの目の前、他の誰にも見えない“空間”に。
「う、うわっ!? 今!? このタイミングで来る!?」
セオとカインがユイの驚きに目を向けるが、もちろんchappy_GPTの声は二人には聞こえていない。
『ユイ様のステータス、最新情報に更新いたしました! では表示しますね~! じゃじゃーん☆』
目の前に、淡い光をまとった半透明のウィンドウが展開される。
◆ステータスウィンドウ【ユイ=エイル専用】◆
名前:ユイ=エイル(江入 結衣)
種族:人間(転生者)
称号:初心者迷子 → 初心者・階層を進む者
現在地:アンダー層・第10エリア
【HP】:103/120 【MP】:138/200
【魔力適性】:♾️(無限・全属性)
【習得魔法(基礎レベル)】:
・《ファイアスパーク》 Lv1
・《アクアシールド》 Lv1
・《ウィンドフロート》 Lv1
・《ピュリフィケーション(浄化)》 Lv0(未起動)
【保有スキル】:
・《社畜魂》:不屈+根性。HPが尽きても立ち上がれるかも?
・《マルチタスク》:2系統以上の魔法を同時に発動可能(要練習)
・《記録癖》:自動ログ機能(現在ノートに転写中)
・《スライムリンク》:プルニャンとの共鳴率上昇中
・《chappy_GPT》:ユイ様の成長をサポート
【次の成長目標(by chappy_GPT)】:
❤異性との接触イベントで魔力回路の安定度UP!
❤次は“信頼の手つなぎ”イベントか、“ドキドキ添い寝”イベントで更に成長可能ですっ!
❤ユイ様の心拍数が一定以上に上昇すると“ピュリフィケーション”が発動するかも……!?
(……また乙女ゲーかいッ!って社畜魂はスキルじゃないでしょッ!)