5. 花束をあなたに
食事を終えた後、2人は店を出て静かな街並みを歩いていた。
道路沿いの木々が優しく風に揺れている。
「この辺り、来たことなかったんですけどとてもいい場所ですね」
「そうですね。静かで落ち着くし」
歩きながら、無言の時間が続いた。
ふと真の方を見ると、真もこちらを見つめているのに気づき、驚いて立ち止まった。
「あの…。ずっと自分の気持ちに気づくことができなくて」
「はい」
とうとう、告白の返事をもらえるのだと気づいた。
不安で、体から冷や汗が出る。
「私、斎藤さんのことが好きなんだと思う」
「…え!?!?」
「まだ、他人のことを優先する癖が抜けなくて、自分の気持ちを理解するのにとても時間がかかってごめんなさい。でも、斎藤さんと出会って色々あって、やっと、斎藤さんが自分の大切な人になっていることに気づいたの」
真の緊張している顔を見て、思わず真の手を握り締めた。
真は嫌がることなく、優しく手を握り返した。
「ずっと、その言葉を待ってました。ありがとう」
「…うん」
「天野さんの気持ちが分かって、すごくうれしい、です」
真は斎藤の言葉に安心したように笑顔を見せ、少し照れたように視線を下に向けた。
やがて斎藤が真の手を引いて歩きだした。
前を向くと、夜空に浮かぶ星々が静かに瞬き、輝いていた。
「あれ、斎藤君じゃん」
数日後、仕事の関係でたまたま彰と再会した。
「高野さん、こんにちは」
「そういえば、真にはもう言ったんだけどね」
「はい?」
「じゃーん。俺、結婚することになったんだ」
嬉しそうに左手につけた指輪を見せてきた。
「…え!おめでとうございます!」
「え、ぶっちゃけさ、俺と真が話してるとき、嫌だった?」
「…いや、まあ、そうですけど、もう大丈夫です」
そう言うと、彰の目と口が大きく開く。
「え!?付き合った!?」
彰は大笑いしながら斎藤をからかったが、祝福の言葉をかけてくれた。
「じゃあ、俺の結婚式には2人で来てね、約束」
「…はい!」
「真!お昼一緒に食べてもいい?」
「うん、食べよ」
真と麻衣はいつものように休憩を一緒に過ごしていた。
少し気まずい雰囲気の中で、真が切り出した。
「麻衣、私に気を使ってくれたの」
「ううん。斎藤君と真はとってもお似合いだし、両思いなの分かりやすいから真の背中を押そうと思ってね」
「元々麻衣は来るつもりなかったの?」
「ええ?うーん、どうだろうね」
そう言いながら麻衣は切なそうな表情をしていた。
多分、色々考えた末に、自分の気持ちを押し殺し真のことを応援してくれたのだろう。
「麻衣。ありがとう」
真の言葉に麻衣は照れくさそうに笑った。
「真さん!お待たせしました!」
子犬のように小走りで、入り口で斎藤を待つ真に近づく。
「ふふ、待ってないよ」
「じゃあ、行きましょうか」
斎藤が真と手をつなごうとする。
「ちょっと、今走ったから髪の毛崩れてる」
「え?ほんとだ」
「もう、急がなくていいのに」
2人は目を合わせると、幸せそうに微笑み、手をつないだ。