3. あなたのためにも
今日は会社全体で行うレクリエーションイベントの日だ。
社員同士の交流を深めるためのイベントで普段あまり話さない人とも接点ができる貴重な機会だ。
斎藤は偶然麻衣と同じチームになった。
「…はは、斎藤君じゃん」
「ええ!吉本さんだ!」
一瞬やりづらく感じたが、麻衣が明るく話しかけてくれたことで、その雰囲気はなくなった。
最初のプログラムはちょっとした謎解きゲーム。
チームの中から斎藤、麻衣、そしてもう1人の社員の3人が選出された。
斎藤は元々情報系の大学出身ということもあり、謎解きはすらすらと解いていけた。
「いいね!じゃあ次はこっちに行きましょう」
麻衣が小走りで通路を通った時、足を滑らせてバランスを崩してしまった。
その瞬間、斎藤はとっさに彼女の腰をつかんで支えた。
「うわ!危ないですよ」
「あ、ごめん、ありがとう…」
麻衣は恥ずかしそうに歩いて行った。
その後ろ姿を見て、斎藤は何事もなさそうでほっと息をついた。
後半はビンゴゲーム。
麻衣は真剣にカード睨みつけ、司会の声にいちいち一喜一憂している姿を見て、少し笑いそうになる。
ふと彼女の楽しそうな表情を見ると、目が合った。
「…どうした?」
「いや、ふふ、めっちゃ真剣だなと思っただけです」
「何よ、私の顔そんなに面白い?」
「いやいや、そんなこと」
我慢できずに口角を上げると、麻衣も思わず笑ってしまった。
イベントが終わり、帰り道で麻衣が口を開いた。
「なんだかんだ楽しかったね」
「ですね、吉本さんの真剣な顔すごい新鮮でした」
「いやいやあのさ、私一応先輩なんだから!」
「でも、ちょっと面白かったんですもん」
「もう!」
麻衣は笑いながら軽く肩を叩く。
「なんか、こうやって話していると、吉本さんって良い方だなって」
「…それ、褒めてる?」
「はい、もちろん」
麻衣は小さく笑いながら、少し複雑そうな顔を浮かべた。
「じゃあ、私のこともちょっとは考えてくれると嬉し、いや、何でもない。早く帰りたいから、じゃあね!」
「え、お疲れ様です…」
斎藤は麻衣の後姿をじっと見つめながら、わずかな戸惑いを感じた。
僕は、どうするべきなんだろう。