1. 新たなライバル登場?
先輩がとある事件に巻き込まれてから3カ月が経った。
幸い1か月ほどでケガは治ったが、体が以前通り動くまでリモートで業務を行っていた。
今日は、そんな先輩に久しぶりに会う日だ。
少し髪が伸び、久々の出社に緊張した様子だった。
「先輩、おはようございます!」
「あ、斎藤さん。久しぶりです」
やっと好きな人と仕事ができる、という喜びで、仕事中も休憩中も積極的に話しかけたが、真の反応はどこかぎこちなかった。
「…すみません、久しぶりの出社なのに、はしゃぎすぎました」
「え?あ、別に、大丈夫ですよ?」
「いえ、ちょっとだけ、嫌そうに見えて」
「…まあ、まだ事件のこと、思い出すときがあって、男性に近づくと少し体が強ばっちゃうんです」
「え!?本当にすみません」
「いやいや、気にしないで。斎藤さんは悪くないんで」
ある日、取引先との会議のため、真と2人で外出することになった。
車で向かう予定だったが、運転席で待つ斎藤の姿を見て、真は車のドアを開ける手を止めた。
「…ごめん、ちょっと、私、車が」
青ざめる顔を見て斎藤はすぐに以上に気づき、車から降りた。
「大丈夫です。時間は全然余裕あるんで電車で向かいましょうか」
「…ごめんね」
まだ、真にとって自分が信頼のおける人間になっていないことを痛感し、少しだけ唇を噛んだ。
目的地の会社に到着すると、担当の男性と真が大きく目を見開いた。
「彰くん?」
「え、真?超久しぶり!全然変わんないね」
「彰くんこそ、ここで働いてたんだ」
「そうだよ!あ、初めまして。高野彰と申します」
話を聞くに、どうやら2人は小中高と同級生だったらしい。
高校時代に1回、学級委員として一緒に活動したことがあり、ある程度仲が良かったそう。
2人の会話は自然で、すぐに打ち解け、楽しそうに話していた。
さっきの不安そうな顔とは打って変わって、自分には見せないような明るい笑顔を、真は彰に向けていた。
その後、2人は連絡先を交換した。
その夜、麻衣と久しぶりに飲みに行った。
麻衣は真の入社時からの友人。
事件の際、真が暗い顔をしていると麻衣に何度か相談したことがきっかけで仲が深まった。
「そういえば、今日久しぶりに真と外行ってきたんだっけ」
麻衣には、真が好きだというところまで伝えている。
既に1回告白したことは恥ずかしいので教えていない。
「はい…」
「ええ?めっちゃ何かあったっていう顔してるね」
斎藤は今日あった出来事を話した。
「あー、なるほどね。確かにそれはつらいね」
「まあ、ただの僕の嫉妬なんで」
「ふーん」
話を聞いていた麻衣は、斎藤のグラスを軽く叩きながら冗談めかして言った。
「ねえ、いっそ私にする?なんて」
「…は?」
思わぬ言葉に、斎藤は一瞬固まった。
「半分冗談だけど」
「え、半分…」
「半分は本気かもねえ」
そういいながらわざとらしく視線を逸らす様子を見て、何も言うことができなかった。
その後も気まずさを引きずり、腹が満たされる前にお開きとなった。
家に帰る途中、頭の中では真と彰の笑顔、麻衣の言葉がぐるぐると渦巻いていた。
「僕は、どうすればいいんだ」