吉田のせいで告白もしていないのに失恋したつじっち。今度は知らないところで不戦敗。
「くっくっくっ。悶えてる、悶えてるwww」
夏休み前に付き合い出した山田君と由良。
夏休みが明けて距離がぐんと縮まった感が半端ない。
そんな二人を見て…失恋した辻がえらく悶えていた。
そんな悶える辻を見て…私はほくそ笑んでいた。
同じ中学からこの高校に入学した「辻」と「由良」と「私」
高校に入ってから出会った「山田君」
由良は早いうちに山田君を意識していた。
同じクラスになった山田君と辻はすぐに仲良くなって、よく一緒にいた。
そんな二人を眺めては「山田君が尊すぎて…」なんて顔を赤くして話す由良。
「山田君がそばにいるから、つじっちと話せない」と言って両手で顔を覆う由良。
辻に用があってもなかなか近づかなくなっていた。
そんな由良をチラチラと見やる辻。
由良は気づいていないけど、辻は中学の時から由良の事が好きなのだ。
辻は隠しているし誰にも気づかれていないと思っているみたいだから誰も何も言わなかったけど、辻が由良を好きな事はみんなが知っていた。
そしてその想いは届かない事もみんな知っていた。
知っていて黙っていたのは思いやりだった。
が、そんな時に事件は起きた。
ある日辻に用事があると言って辻の教室に入って行った由良。
もちろんその教室には山田君もいる。
何度も何度も深呼吸してやっとの思いを隠して辻に声をかけた由良に対して、辻と同じクラスの「空気読まない代表」の吉田が由良に発した一言。
「なんだよ白石、つじっちに告白でもすんの?」
最悪な一言。
由良は大好きな山田君に誤解されたくない一心で、即座に本気で否定した。
「ちょっと吉田。そういう冗談マジやめて。怒るよ」
阿修羅の如く怒りオーラ全開の由良。
その一言を聞いた辻の顔……
あれは鈍い辻でもさすがにDeath Wordだった。
頭の付け根「ぼんのくぼ」から、辻の魂がしゅるんと抜けるのをこの目で見てしまった。
由良に話しかけられた辻はなんとか答えていたが…
あれは…
あれは…
ぷぷ…
いや、ゲフン…あれは可哀想だった。
一部始終を見ていた山田君。
スッと立ち上がり無駄のない所作で辻のところまで行くと、向かいに座ってにこやかに辻を慰めていた。
由良が惚れるのもわかる。
山田君は本当にかっこいいのだ。
すらっとした長い手脚。高い身長にアンバランスにも思えるほどの小さな頭が乗っている。
顔をシャープに見せる黒縁のメガネ。
そのメガネを外すと視界が悪くなった彼は目を細め、悪意なくその美顔をすいっと寄せてくるのだ。
想像しているよりも優しい眼差しに柔らかな微笑み。
あの顔に見つめられてオチない女子は居ないと断言できる。
それでいてクールで控えめ。
アイドルの立ち位置ではなく、アイドルを支える敏腕マネージャー。
陰で場を仕切る黒服。
そんな彼のそばにいる辻。
由良の事が大好きなくせに、潔く二人を結んであげたという。
普通であれば由良を奪った山田君ともギクシャクしそうなものだが、辻はそうはならず由良と山田君、大好きな二人を応援している。
そう。辻は本当にいいやつなのだ。
「いいやつ…」
それ以上でもそれ以下でもない、良い人止まり。
「……ミナミ。おい、ミナミ」
「ふぁっ!?へっ?あっ田中…びっくりした…」
突然思考に入り込んだ田中の声によって、回路は絶たれた。
「何だよ。また辻の事見てたのかよ……お前辻の事好きなの?」
「ぶぶっ!!違うって!ほんとやめて!マジでありえないから!」
こちら同じ中学卒組の「田中」
何かと腐れ縁である。
そして昔から、ボッチがちな私の事を気にかけてくれる。
「あ!田中、また今日帰り付き合ってよ」
「…良いけど…ガチャ?」
「うん!新作のレトロぬいぐるみのゾウさんが欲しいの!ゾウさんだけが手元になくて、どーーーしてもゾウさんをゲットしたいの!」
「わかった。じゃあ後で」
「うんっ!よろしく!」
んっふ〜。
レトロぬいぐるみシリーズ大好き❤︎コンプを目指して頑張るぞ!
あんなに悶える辻を見れた日は「大吉日」めちゃくちゃ良い事がありそうだ。
実は私は辻の事を「今日の星占い」レベルで眺めているのだ。
辻が弱っていればいるほど、私には吉日。
これは中学でのやり取りが由来している。
得意教科が真逆の私と辻。
テストの点数を見せ合い、辻が悪いと私が良くて、私が悪いと辻が良い。そんな事からいつしか辻占いみたいに思っていたのだ。
なので今日のガチャは絶対欲しい「ゾウさん」が一発で出る気がしている。
。。。
帰り。
私は田中と近所のリオンモールのガチャコーナーにいた。
「うわ〜!新作ガチャばっかり!あっ!これ!このクリームソーダ!前は売り切れだったやつ!やるやる!」
「…お前ぬいぐるみ目当てじゃねーの?」
「!…そうだった。ぬいぐるみが先だった…」
くそぅ。ついついあれこれ目がいってしまう。
まずはゾウさんをゲットせねば。
「これじゃない?」
田中の声に振り向けば、そこには「レトロぬいぐるみシリーズ」のガチャが!
「そう!これこれ!」
100円玉を4枚入れて…がちゃりと回す。
「ん〜、残念。うさぎさんだった。でもうさぎでもいいや。もう一回!」
「ほら、それ」
「え?」
「空のカプセル。捨ててきてやるから」
「あっ!ありがとう!」
カプセルを渡すと田中は専用のゴミ箱に向かった。
そこで私はまたガチャを回す。
「今度はゾウさんが出ますように!」
ガチャ…出たのはクマさんだった。
あれ?辻占いでは大吉のはずなのに?仕方なくもう一度回す。
「ネコさんだ…」
おかしいなぁ。
首を傾げる私の横に、カプセルを持ったまま田中が戻って来た。
「あれ?ゴミ箱なかったの?」
「いや、カプセルのゴミ箱がゲームになってるからミナミがやるかと思って」
「ゲーム?やる!」
田中についていくと、大きなケースの中、迷路のようなボードがある。手前に付いている小さなハンドルを前後左右に動かしてカプセルを転がし、ゴールの穴に落とすものだった。
ゴールまでの道のり、途中にぽっかり穴が開いている。そこを避けて通りながらゴールへ向かうのだ。
「難しそう」
「だね」
田中がカプセルをスタートに置いた。
私は慎重にハンドルを操作する。
コロコロ…コロ…コロ…ポトリ……
カプセルはゴール手前の穴に吸い込まれた。
「「あーー」」
田中と同時に声をあげる。
「次、田中やってみて!」
私は持っていたカプセルをスタートに置く。
コロ、ポト。
「え?早すぎる」
「うっせーな」
少し顔を赤くして恥ずかしそうな田中。
「もう一個あるよ」
カプセルを渡そうと、差し出した手を田中に捕まれた。
驚いて田中の顔を見る。
そこにはいつものふざけた田中の顔ではなく、真剣な眼差しの田中。
「?…どうしたの?」
「……ミナミ…お前本当に辻の事好きじゃないの?」
「えっ!違うよ!」
「だっていつも辻の事、目で追ってるじゃん」
そう言われて顔に熱が集まるのがわかった。
「う〜…違うの…辻の事はね…」
私は今まで誰にも言ったことがなかった「辻占い」の事を全て田中に話す。
「ぷはっ!何それ!」
田中は盛大に吹き出した。
「だから言いたくなかったのに」
そう言いながらも、二人でひとしきり笑う。
「あ〜…俺、勘違いして無駄な時間過ごしたわ…」
「?」
「俺…好きな子奪われて、辻みたいに冷静にいられる自信ないから」
田中の好きな子…。
その先を聞きたくない自分がいた。
私だって…好きな人が他の誰かと一緒にいるのは見たくない。
田中が誰かと一緒にガチャとかしてたら…
そう考えると胸のあたりがチクリと痛んだ。
「……田中の…好きな子?」
「そう。ミナミ」
「え?」
「俺、ミナミの事が好きだ。ミナミは辻の事鈍い扱いしてるけど、お前も相当鈍いよ。俺だって暇じゃないんだからな?誰とでもガチャ行くわけじゃないんだよ」
そう言うと、私の鼻をきゅっと摘んだ。
「んあっ」
「ミナミ。俺の彼女になってよ」
。。。
あれから私は辻占いをやっていない。
辻を見ている時間がないのだ。
辻を見ているくらいなら…
「ミナミ〜。ガチャ行く?」
「うん!」
大好きな人を見ていたい。
「吉田のせいで。告白もしてないのに俺の失恋が確定した。」
の続編になります。
良かったそちらと併せてお読みいただけると嬉しいです(๑╹ω╹๑ )o
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