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第95話 募集人員

 王都へもどると、もちろん仕事がたくさん待っていた。冬の間に聖女庁と女子大の大まかな構想はできた。第三騎士団・聖女庁・女子大をそれぞれくっつくように配置した。なぜならそれぞれ独立の業務もあるが、共同する業務がたくさんあるからだ。

 私が聖女と第三騎士団長を兼ねているからだけではないのだ。


 聖女が外に出て仕事する場合警護が必要だが、それはもちろん第三騎士団が中心となる。

 各地の天文・気象の観測データは聖女庁が集め、女子大が解析する。

 女子大教育の体育・武道は第三騎士団にお願いする。神学は聖女庁が支援する。

 騎士団の新入団員の教養教育、幹部候補生の教育には女子大が連携する。

 聖女庁の若手職員には、初等教育しか受けていない人でも採用枠を用意する。その人達には女子大が少なくとも中等教育程度のことはする。もちろん目的は、経済的理由で進学を断念する優秀な人材の掘り起こしだ。その人の適性が聖女庁の仕事以外にあれば、出向してもらえば良い。


 忘れてはいけないのは、寮の建設だ。若い女性を多数受け入れるので、しっかりした建物を建て安全を確保しなければならない。


 このような構想のもとに、いろいろと建物が建つ。今やっと、そのための縄張りが始まったところだ。夏の終わりまでに、聖女庁準備室と言う名前の小屋、教室3つ程度の女子大を作る。女子大の新入生のために、騎士団の演習場の一角に寮をつくる。

 女子大1期生は、神学部・法学部・理学部それぞれ15名の少数とし、夏前に女学校の教室を借りて入試を行うことにした。入試問題は全学部共通の教養問題(もちろん算術はいれる)と、面接にした。受験資格は中等教育学校卒業程度とし、出身校からの調査書も考慮に入れる。広く全国から人材を集めたい。


 正式な募集要項はまだだが大まかなものをまとめ、女学校へ意見を伺いに行った。重要な内容なので、仲間四人全員で行く。

 アレクサンドラ校長を始め、ローザ先生、ドーラ先生といった懐かしい先生たちが笑顔で迎えてくれた。アレクサンドラ先生に募集要項案を渡すと、ちょっとしてアレクサンドラ先生の顔が曇った。難しいお顔のままその要項案をつぎつぎと先生たちにまわし、そのたびに皆表情が厳しくなっていく。


 ドキドキしてきた。


「聖女様、これだと大変なことになりますよ」

 意を決したようにアレクサンドラ先生が口をひらいた。

「先生、新しい学校だと、この人数でもしっかりとした教育が提供できないということでしょうか。そうならば、もっと募集人員を絞ったほうがいいでしょうか」

「何を仰っているんですか、逆ですよ。女学校の進路調査によると、現6年生だけでも志望者が百名ほどいますよ。卒業生や地方からの出願者まで考えれば、大変な倍率になります」

「そ、そうなんですか」

「そうです。6年生で志望していないものは、もともと卒業後の進路が明確に決まっている子ばかりです。進学できるものなら進学したいと考えている生徒は、もっといるんです」

「そうですか…… ただ、受け入れの体制のほうがちょっと……」

「女学校のほうでも教員その他の面でサポートしますから、せめて各学部、倍くらいは受け入れていただけないと……」

「ありがたいお話ですが、教室の建設とか、数学や理学の教員となるともう私達しかおりませんので」

「ではせめて、20、各学部20はお願いできませんか。おそらく外国からの留学希望者もでるのではないでしょうか」

「はい……」

と返事を仕掛けたところで、フローラに脇腹を突かれた。

 怖い顔をしている。うかつに請け合うな、ということだろう。

「ではもう一度、受け入れ可能人数を検討いたします。ただ先生、日程とか、選考方法とか、こんな感じで問題ないでしょうか」

「試験なしの推薦枠はないのですか?」

「ゆくゆくは必要でしょうが、とりあえずは試験、面接、調査書の総合選考としたいんです。学力不足では入学してから困りますから」

「それから、入学を熱望しながら残念ながら不合格、となった場合はどうなりますか?」

「そうですね、素直に進路変更、もしくは浪人でしょうか」

「浪人?」

「ええ、一年後の試験に備えて、ひたすら勉強する生活になりますね」

「それは気の毒ですね」

「気の毒ではありますが、受け入れ能力の限界がありますので……」

 今度はネリスが突っついてきた。

「予備校、とか提案したらどうじゃ」

と、小声で言ってきた。

「予備校か」

「うむ、ワシも一年世話になった」

「え、そうだったの?」

「うむ、実は一年年上じゃ」

 衝撃の事実で、その後の相談はあまり身が入らなかった。


 騎士団に帰り、私はマルスを呼び出した。

「マルス、ネリスって一浪してたの知ってた?」

「はい、知ってましたよ。それがどうかしましたか」

「いや、なんでもない」

 あとの話は誤魔化した。

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