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第89話 陛下からの呼び出し

 必死に日々の仕事をこなしていたら、だんだんと慣れてきたのか仕事が減り始めた。もう一息で、普通の仕事時間でものごとが処理できる気がしてきた。溜まった仕事に決着をつけるには、第三騎士団に缶詰になってやっつけてしまえと思うのだが、聖女室に顔を出さないわけにはいかないし、女学校とか王宮にもときどきは行かないといけない。その移動時間がむだである。

 そのムダを省くため、移動の馬車の中でも書類仕事をしてみたら、予想通り吐きそうになった。

 馬車で打ち合わせという手もやってみたが、打ち合わせしないければいけない人が私と同じ行き先になる保証はほぼ無いので、あまり効果がでなかった。

 ブーブー文句を言っていたら、ネリーが話しかけてきた。

「奥様、最近はお忙しくて、殿下との打ち合わせのお時間が取れてないのではないですか」

 その通り、それが一番の問題である。

「それでは奥様、馬車の移動中はステファン殿下との打ち合わせにお使いくださいませ、そもそも殿下は女子教育担当としていらしているのですから、女学校へいらっしゃるときはご同行されるのが自然でしょう」

「ネリー、あなたは天才ですわね」

「お言葉ですが、そのことを奥様が思いつきにならないのが不思議でなりませんでした」

「はあ」

「それだけ激務に耐えていらしたのでしょう。そろそろ休日をお取りください」

「でも」

「聖女様がお休みをお取りにならなければ、お休みがなくなる者もいるのですよ」

「はい」

 私が休みをとらなければ、一番被害をうけるのはネリーだろう。


 そういうわけで、敢えて一日休みをとった。その日はステファンと二人、超電導の勉強をした。超伝導現象などこの世界で実験できるとは全く思えないが、私達がかつての世界で打ち込んできたことを忘れたくなかった。懐かしい方程式を書き、計算していると札幌にいるような気がしてくる。


 お休みのあと仕事にもどったら、今まで見えていなかったものが見えてきた。

 それはどうやら、フローラを筆頭とした仲間たちや聖女室の人たちが私にかくれてなんかやっているらしいことだ。ときどきチラッチラっとこっちを見てくる。見てくるのになんにも報告も相談もあがってこない。まちがいなくなにか企んでいる。


 こういう場合、たとえばフローラとかヘレンに聞いても何も答えてくれないのは間違いない。第三騎士団の人たちは口が固い。聖女室のほうはもう、人として踏んできた場数がちがうので太刀打ちできない。そうなると攻撃対象は、正直者のネリスか後輩で立場が弱いマルスになる。個別に攻撃して恨まれるとあとで面倒なことになるので、いっぺんに呼んだ。

「ネリス、マルス、あんたたちなんか私に隠れてやってるでしょ」

「い、いや、ワシら二人は、なんもやっとらんぞ」

「そうです。僕達二人ではなにもやってません」

「ふーん、二人では、ってことはみんなでなんかやってるのね」

「そ、そうかの。ワシはなんにも言えん」

「言えんということは、知ってるのね」

「んー」

 正直者のネリスは苦悶の表情である。仕方がないのでマルスを攻撃する。

「マルス、あんた私にいっぱいいっぱい、恩があるわよね」

 前世も含めてである。

「せ、聖女様、勘弁してください。僕は無実です」

「怪しい」

「聖女様、マルスをいじめんでくれ。頼む。なにかあるとヘレンが怖い」

「そうです、ヘレン先輩、マジで怖いです」

「ふーん、私より怖いんだ」

「あの、そんなこと答えられるわけないじゃないですか。どう答えたって地獄しか待ってません」

 そこまでして問い詰めるべきことでも無いと信じて、二人への追求はあきらめた。


 そしてある日、私は国王陛下に呼び出された。私とステファンはネリーと一緒の馬車、フローラ、ヘレン、ネリスはもう一台の馬車に乗り、白銀の世界を王都へ向かう。運良く晴天で、キラキラと光る景色は、今日の陛下のお話が決して悪いことでないことを示していると信じさせる。


 陛下との面会は、謁見の間ではなく会議室であった。移動距離が長い分早めに出発したから、私達一行が最初に会議室に着いてしまった。案内されるまま着席すると、ネリーはすっと立って出ていった。ステファンは別の部屋に行ってしまった。ちょっとしたらお茶やらお菓子やらがのったワゴンを押して持ってきた。ヘレンがすぐに手伝いに立ち、私もと思ったら両脇のフローラとネリスが椅子の肘置きの上から私の腕を抑え込んだ。横を見ても二人共顔をまっすぐ前方に向けたまま平静を装っている。

 ネリーとヘレンがお茶菓子を配っていると、女官長のエミリア様もやってきて手伝い始めた。挨拶しようとしたらまた両脇から腕を押さえられ、座ったまま挨拶する。

 腕の押さえがなくなったので、お茶をいただいていいのかなとフローラを見ると、小さく頷いた。

「お茶がいい香りですわね。いただきます」

 なるべく品よくいただく努力をする。するつもりがお菓子のかけらが机にこぼれる。皆の視線が来ていないことを確認してお菓子のかけらをぱぱっと集めてお皿の下に隠す。

 つづいて聖女代理のジャンヌ様、聖女室筆頭のマリアンヌ様もいらした。

「あら、お茶のいい香り。みなさんをお待たせして申し訳ありません」

とジャンヌ様が仰るので、

「いえ、私どもが早く着きすぎました」

と返事する。それからしばらく天候の話をしていた。


 そして国王陛下がステファンを伴って入室された。

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