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第84話 バカ聖女

 聖女室に帰りネリーさんを女官長様のところに行くよう指示したところで、私はどっと疲れがでた。女官長様の話の内容を思い出すと、ヘレンは女官長様と仕事をしたことがあるようだ。

「ヘレンさぁ、女官長様と、なんか一緒に仕事したの?」

「うん、あんたたちが旅している間にね、女子大のことでいろいろ相談してたんだ」

「女子大?」

「うん、女官として必要な教養とか法律とか、どういうことが必要なのか聞いてた」

「なるほど」

「その間どうしてもあんたの話になるでしょ、ついつい話がはずんでね」

「ちょっと待て、例の効果話してないよね」

「話した」

「女子大に関係なくない?」

「そう? 聖女様の話に実験の話、切り離せないでしょ」

 これはフィリップも噛んでいるに違いない。フィリップをにらんだ。

「いや、今回は俺は何も言ってない。むしろやめとけって言ったんだ」

 めずらしく真剣な顔だから本当のことを言っているのだろう。

「それよりあんた、これから神官長様、女官長様と、ちゃんと打ち合わせといてよね」

「へ」

「結婚式」

 そうだった。ヴェローニカ様の結婚式が近い。ヘレンが女官長様と面会していた本当の目的は結婚式の準備で、ついでに女子大関係の話もしていたのだと漸く気づいた。

「あ~、いろいろやってもらったんだね。ありがと」

「ホント大変だったんだからね」

「ありがとうございます。フィリップも、ありがと」

「ハハハハハ」


 最近は旅の疲れもあってか、その日その日、ヘレンとかマリアンヌ様に言われたスケジュールを淡々とこなしているだけだった。そろそろ精神的休暇を終え、仕事モードに入っていかないといけない。そう考えた私は、まず積極的にヴェローニカ様の結婚式についてかかわることにした。


 ヴェローニカ様とミハエル殿下の結婚式は宮廷教会の主礼拝堂で行われる。ヴェローニカ様は結婚式の直前に第三騎士団長の任を解かれ、私が代理となる。警備の責任者は近衛騎士団長を兼ねる武官長だ。これは第三騎士団としてはしっかりと協力体制を築かなければならない。

「ヘレン、結婚式の警備だけど、第三騎士団としては近衛騎士団とうまくやんなきゃいけないじゃん。だから私、武官長様と近々に打ち合わせしといたほうがいいかな」

「馬鹿かあんたは。そんなことはソニア様にまかせておいて、あんたは神官長様と儀式の準備に集中しなよ。警備の方は責任だけ取ればいいんだよ、聖女様は」

「そうだった」

 この会話は聖女室で行われた。天下の聖女様をバカよばわりするあまりのものの言いように、聖女室は笑いにつつまれた。マリアンヌ様はともかく、ジャンヌ様まで目に涙を浮かべて笑っていた。

 ジャンヌ様は、

「聖女様をバカと言って許されるのは、この世に3人しかいないでしょうね」

といいながらまだ笑っている。まあその3人は、ヘレンとフローラ、それにネリスだろう。それを言ったらネリスは、

「ワシは聖女様をバカとは呼ばん」

と言う。すると今度はマリアンヌ様が、

「ではステファン殿下かしら」

と言う。私としては、

「ステファンはそんなこと言わないもん」

と言っておいた。

「では必要に応じて私が申し上げましょう」

と言ったのは、聖女室に出向が正式にきまったばかりのネリーだった。

「必要はあるだろうな」

と、フローラも呟いた。


 ついでに言っとくと、ヴェローニカ様は私をバカとは呼ばない。フフンと鼻で笑うのだ。


 とういうわけで私は早速、神官長様に面会を申し込んだ。こないだのネリーの件でこりているから、いきなり宮廷に押しかけたりはしない。ただ、使いの人は行ったり来たりする羽目になるから気の毒である。電話が欲しい。

 電話といえば糸電話ではなく、電気の力でやりたいものである。


 考えてみれば、電気関係の研究は全然進んでいなかった。理由はいろいろとある。

 まず、電源だ。かつての世界ではコンセントから簡単に交流100Vがとれたし、電池も相当発達していた。こっちはなんにもない。

 直流電源としては化学電池が考えられるが、これには異なる種類の金属が必要だ。ないわけじゃないが、アルミニウムとか純銅とかはない。電気精錬が必要だからだ。となると高い電圧、安定した電圧は望めないだろう。直流電源は静電気を貯める方式もある。こちらは安定した電圧を出させるのは難しそうだ。

 発電機をつくることも一応考えられる。水力を用いれば発電機の回転は安定させることができるだろう。ただごく短い時間でみると、直流発電機というものは一定の電圧を発生させるわけではない。何個かの直流発電機をうまく組み合わせればある程度は電圧変動は抑え込めるが、変動をゼロにするのは実用的に無理だろう。

 それよりも心配なのは、発電機の発熱である。銅線というものがないので鉄で電線を作ることになる。発電機の真ん中で磁石をぐるぐる回すのであるが、鉄そのもののもつ磁性との反応でかなり発熱するに違いない。

 発熱の問題は、交流発電機でもそのまま当てはまる。


 いずれにせよ、まずは純度の高い金属が欲しい。それが手に入れば化学電池をつくることの現実味が増すし、導線もつくれるようになるだろう。


「聖女様、何難しい顔してるの?」

 フローラが聞いてきたので答える。

「錬金術師に会えないかな?」

「はい? あんた何バカなこと言ってんの?」

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