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第61話 王家の朝食

 その夜は王宮で宿泊した。当然かつ残念ながらステファンと別室である。私としてはステファンに夜這いして欲しいところだが、これまた当然かつ残念なことにそれができないよう、ヘレンと同室にされた。こうなったらヘレンも共犯にして、私はステファン、ヘレンはフィリップに夜這いをかけようと冗談で言ったら、ヘレンは黙って枕を私に投げつけた。

「あの、99%冗談なんだけど」

と抗議したら、

「その1%が怖い」

と指摘された。またまた当然なことではある。

「私の考えって、ヘレンには全部ばれてるんだね」

と、夕食での事も含めて言ってみた。

「私だけでなく、ほとんどの人にバレてるよ。ま、あんたは政治向きじゃないわな」

「政治向きじゃないのはいいとして、バレてない例外って、誰よ」

「聞く?」

「聞く」

「殿下」

「そ、そうかな?」

「そうだよ。あんたらが付き合い始めるまで、どんだけ私達がやきもきしたと思ってんの?」

 こちらの世界では、付き合い始めるとかそういうことは起きていない。お互いの存在を認識し、まだ達成していないが結婚するのを前提で行動してきただけだ。なかなか二人の時間が確保できなくて辛かったが、付き合うとか付き合わないとか、そう言うことではない。つまり、札幌の日々のことを言っているのだろう。

「あのさ、もしかして周りのみんなは、私達二人の気持ち、気づいてたの?」

「ばっかじゃないの、最初っから二人はバレバレだよ。お互いの気持気づいてないの、あんたら二人だけだって」

「そっか」

「うん」


 ベッドは2つ用意されていたが、私はヘレンのベッドに潜り込んだ。もう一人で寝るのにも慣れないととは思う。思うけれど、やめられないのだ。


 翌朝、朝食を昨夜のメンバーで陛下と朝食をご一緒した。食事のメニューは、離宮で食べていたものとそっくり同じである。

「よく眠れたかね」

 優しく陛下はお声をかけてくださる。

「はい、陛下」

「それは良かった。朝食の内容に驚いているのだろう」

「はい、陛下」

「ヨアヒムから聞いているのだ。それはそうと各地の収穫祭だが、ステファンを王の名代として同行させてもらいたい」

「はい、私もそれを希望しておりました。ありがとうございます」

「うむ、しかしまだ別室だぞ。夜這いはいけない」

「は、はい」


 王宮内はすべて盗聴されているのだろう。盗聴していると同時に、就寝中もしっかりと警護されていたということだろう。いずれにせよ、うかつな会話をするなとご注意いただいたのだ。


 陛下はいたずらっぽい笑顔をしていた。王妃殿下は、

「陛下、あまり聖女様をおからかいにならないでください。あまりなさると、私も婚約前のお話をいたしますわよ」

と笑顔でおっしゃった。ミハエル殿下は、

「母上、未婚の私共にあまり刺激的なお話はおやめください」

と、これまた笑顔であった。


 本来なら王室は陰謀が渦巻き、骨肉の争いも珍しくない世界のはずだ。だけど今目の前にあるのは、仲の良い家族、息子の婚約者とその友人という、ごく普通の幸せな光景だ。私もこの一員になりたい、ヴェローニカ様にもこのようなご家族をお持ちいただきたい。私は何も考えずカトラリーを置き、目を閉じ手を合わせてしまった。


 目を開くと、陛下と王妃殿下、さらにはミハエル殿下も目をまん丸にして私を見つめていた。やらかしたらしい。ヘレンは呆れたように横をむき、ステファンとフィリップは笑いをこらえている。


「うむ、初めて目にしたが、今刺客に襲われても、死なない気がする」

 陛下が仰った。まあそうだろう。

「聖女アン、各地でその祝福を国民に」

「はい、そのつもりでおります」

 

 まだ笑いが収まらないステファンを、王妃殿下が咎めた。

「ステファン、聖女様に失礼ですよ」

「いや、まあそうなんですが、アンはこういう人です。嘘偽りなく、そのとき一番やるべきと考えることを全力でやってしまう人です。私としては、この人をぜひ王室の一員としていただきたいと考えております」

 こうもはっきりと言われてしまうと、心拍数は200付近にまではねあがる。

 陛下がお答えになった。

「そんなことはわかっておる! ヴェローニカの次は聖女アンだ。単に順番の問題だ。聖女アン」

「はい、陛下」

「聖女アンから見たら、王室は慶事を小出しにしていると見えるだろう」

「はい」

「正直だな。まあ、いい。これも国のためだ。国民に喜びを与え、外国に外交のきっかけを作る。申し訳ないが協力していただきたい」

「承知しております」

 本当は時期についてだけは承知していないので、条件を出す。

「ですが、陛下」

「何だ」

「せめてこうした私的な場では、どうか私を呼び捨てにしてくださいませ。王妃殿下、ミハエル殿下もです」

「うむ、アン、ステファンを頼むぞ」

「はい」


「それにしてもステファン、フィリップ、ヘレン、それにヴェローニカ。諸君は聖女の祝福をこのように至近距離で体験しても、よくも平然としていられるな」

 陛下の疑問にヴェローニカ様が答えた。

「陛下、おそれながら、人間、何事にも慣れるものです」

「そなた、何が言いたい」

「はい、人間大抵のことには慣れてしまいますから、聖女様も宮廷のしきたりにも、かならず慣れていただけるということです」

「なるほど、それではいよいよアンに王室に来てもらうのに何の問題もないな。アンも面倒なしきたりに、そのうち慣れるであろう」

 陛下は大笑いされた。


 朝食後退出して廊下を歩いているとき、ヘレンがすっと顔を寄せて言った。

「おめでと」

「ありがと」

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