表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/126

第6話 女子大の収入源

「それでアン様、まず責任者はアン様ですよね」

 結局アレクサンドラ先生は女子大構想に賛成なのだ。

「いえ、私は聖女の公務もありますし、学問的には集中したい分野がありますので時間的に無理だと思います。かざりとしてであればできますが、やはり初代学長は、実務経験のある方にお願いできればと思っております」

「その他、条件は?」

「まず学校経営に明るいこと、女子教育に理解のあること、中央に影響力があること、でしょうか」

「それは私にやれ、とおっしゃるのでしょうか」

「はい、アレクサンドラ先生にお願いできれば一番かと思っています」

「うーん、名前だけでも力をお貸ししたいところだけれど」

 なんかアレクサンドラ先生の歯切れが悪い。

「お名前だけでも、なにか問題がありますでしょうか」

「私は王立女学校の校長ですから、女子大学の校長と兼任だと、女子大も王立とするのが自然でしょう。王立でよいのですか?」

 考えてなかった。

「陛下には女子大設立の内諾を得ただけで、財政的なことはまだ考えていません」

「アン様、お忙しい陛下を、思いつきの状態でわずらわせてはなりません」

「申し訳ありません」

「私からのアドバイスとしては、王立なら私、私財をなげうって作るならジャンヌ様がいいでしょう」

「私には私財などというものはありませんし、学校経営にどれくらいのお金が必要かわかりません」

「それならば女学校の経理に話しておきましょう。アン様の午後の授業のあとに経理に行ってください」

「ありがとうございます」


 校長先生に言われた通り、午後の授業の後、いつものメンバーで経理に行った。6年も学校に通っていながら初めてきた。

「失礼します。ベルムバッハのアンです」

 学生気分で「まーす」と「でーす」とか言わないよう気をつける。

「お待ちしておりました。聖女様。女学校で経理の責任者エアバッハのリーゼです」

 リーゼさんはこの道三十年という感じの人だ。

「よろしくお願いします。学校というものがどれくらいお金が必要か知りたくて伺いました」

「校長から伺っておりますよ。まず年間で必要なお金の総額は、収入から見たほうが早いでしょう」

「支出でなく、収入ですか?」

「ええ、支出は項目が多いですし、時期もバラバラですから。収入源は少ないですし、時期もほぼまとまっていますから」

「なるほど」


 収入に関する資料は簡単だった。収入の種類は、国からの助成、有力貴族などからの寄付、生徒というか保護者からの授業料・教材費・寮費・その他実費しかない。大雑把に言って国からの助成が半分、寄付が4分の1,保護者からの徴収額が4分の1である。

「必要経費のうち、生徒が払っているのは4分の1だけなんですね」

とつぶやくとリーゼさんは、

「そうですね、ですが一人の生徒が必要な金額は学費の4倍ではありませんよ」

と言った。反射的に聞いてしまった。

「どうしてですか」

「生徒の半数は何らかの形で奨学金を受けていますから」

 そうだった。私自身全額奨学金で賄ってもらっていた。

「ではこの収入を生徒数で割れば、一人あたりの必要経費がわかるわけですね」

「そういうことです」

 私は概算を暗算してみた。すると驚くべきことに、私の父の年収を少し超えるくらいの金額がかかっていた。

 おもわず仲間たちの顔を見回すとみな渋い顔をしている。ネリスに至っては口がへの字になっている。

 みんなが言葉を失っているので、警護で同行していたマリカが聞いてきた。

「みなさんどうしたんですか?」

 ヘレンが答えた。

「うん、私の実家農家なんだけど、うちの年収軽く超えてる」

「そ、そうですか」

 マリカも女学校の卒業生だが、以前聞いた身の上話だと、地方貴族の末っ子だったはずだ。学校教育にかかるお金の多さに驚いたのか、農家の収入の少なさに驚いたのかわからないが、目を白黒させている。


 お金に明るいフローラは一言で言った。

「こりゃ私学は無理だわ。これだけのお金、たとえばうちのパパに頼んでも無理だよ」

 フローラはネッセタール最大の商会のお嬢様だ。そのフローラが無理と言うなら無理だろう。

「じゃあ王立の方向で考えるしか無いか」

 という私にネリスは、

「ということは、王室の支配下になるのじゃぞ」

と言う。言っていることはわかる。

「うーん、私が引っ張ってこれるお金は、あとは教会くらいだね」

「それにしたって、教会の影響下になるのじゃぞ」

 

 私は悩んだ。現在王室も教会も私には好意的だ。だが将来的にそうとは限らない。あるていど大学の独立性は保ちたい。


 ヘレンが発言した。

「聖女様、収入源のことは後回しにして、とりあえず支出見させてもらお。こんなとこで考えてたらリーゼさんに迷惑だよ」

 それはそうなので、リーゼさんに謝って、支出の方を見させてもらった。


 この日はその後授業もあり、女子大の収入源についていい案は出なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ