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第47話 実験

 応接室に戻ると、ステファンだけでなくみんなも解散せずにいた。

 ヘレンが聞いてきた。

「どうだった?」

 私は簡潔に答える。

「すべて仕組まれていたことだった」

「どういうこと?」

「レギーナがヴェローニカ様呼んだんだってさ」

「やっぱそうか」

「やっぱ?」

「うん、ヴェローニカ様が整列かけたとき、すぐそう思った」

「もしかしてみんなそうなの?」

「じゃない?」

 私が見回すと、みんな視線を泳がせた。ステファンまでもである。

 不満に思っていると、ステファンに唇をつままれた。また唇を突き出していたらしい。


 ヘレンが話を続ける。

「で、どうするよ」

「うん、ヴェローニカ様が今年の新入団員連れてきたでしょ、彼女たち観測に参加させろって」

「ああ、なるほど、そういうことね」

「うん、思うんだけど、当面は彼女たちの教育に注力し、彼女たちが自力で観測できるようになったらある程度任せればいいと思う」

「教育に注力って?」

「うん、実際に観測しながら機器の扱い方を教えていけばいいと思う。あと、体力回復のために、徹夜の観測は当面やめておく」

「できるの?」

「うん、そうしないと間違いなく近いうちにだれか倒れる」

「そうだね」

「みんな、それでいいかな?」

 みんな一様にうなづいてくれた。

「で、彼女たちのスケジュールだけど、たとえば午前中は騎士団員としての訓練、午後は私達の作業を手伝ってもらったり、勉強してもらったりで、どうかな?」

 それもみな、賛同してくれた。

「じゃ、私、ヴェローニカ様のとこ行って、それ話してみる」

 ステファンの健康問題?については、切り出すきっかけを失ってしまった。


 新しく来た10人の団員の訓練スケジュールについて、ヴェローニカ様は私の希望をすんなりと受け入れてくれた。そして彼女達は、今夜はまず離宮自体に慣れてもらい、私たちの仕事を手伝ってもらうのは明日からということにした。新入団員の教育も大事だが、ヴェローニカ様に指摘されたステファンの健康状態についても話をしておかないといけない。

 ヴェローニカ様は病弱なはずのステファンが健康でいるのは私の存在が関係していると指摘した。それはそれで結構なことである。私がステファンの近くにいることを正当化する充分な理由になる。


 というわけで仲間たちのところに戻り、今度はステファンの健康問題について話すことにした。


 バタバタと廊下を移動していると、ネリーとすれ違った。頭を下げて行ってしまおうとするので、私はネリーを呼び止めた。

「あの、雨乞いのことですけど、ネリーは私達の健康を心配してくれたのね」

「はい。差し出がましいことを申し上げまして、申し訳ございません」

「とんでもない、心配をかけてしまって、ごめんなさいね」


 戻ると、やっぱりヘレンが聞いてきた。

「どうだった?」

「うん、基本そのまんま、こっちの提案は受け入れてくれた。新入団員は、明日の午後から私達手伝ってくれるって」

「そっか、じゃ、今日の昼間は今までと同様の作業して、早く寝ればいいのね」

「そうなんだけど、ちょっと話がある」

 腰を浮かせかけた一同を、私はとめた。

「あのね、ヴェローニカ様に言われたんだけどね」

「ふむふむ」

 ネリスたちが私に注目した。

「ステファンの健康状態なんだけど、聞いてた話と違わない?」

 みんな沈黙した。


 私は話を続けた。

「ステファン、最近、体調はどう?」

「言われてみると、何日も寝込んでないな。とっても体調がいいよ」

「今まで生きてきて、こんなに体調が良かったことがあった?」

「ないね」

「離宮へ来た当初は?」

「うーん、まあ、まあってとこかな。良くもなく悪くもなくって感じ?」

「今は?」

「うーん、寝不足を除けば絶好調」

「うん、よかった。それでね、ヴェローニカ様は、その原因が私の存在じゃないかって」

「なるほど」

「で、私、困ってるの」

「なんで?」

「だってさ、私の存在とステファンの健康に相関があるのなら、まずはそれを実験的に明らかにしなきゃいけないじゃない。だけどそれを実行すると、私、ステファンと一時的にでも離れなきゃいけなくなる。それは嫌」

「そっか、その気持はわかるよ。僕も離れたくないしね」


 みんな押し黙った。この感情は誰にでも理解してもらえると思う。


 しばらくの沈黙の後、フィリップが発言した。

「聖女様はさ、ステファンと聖女様の距離と、ステファンの健康の相関が知りたいんだよね」

「うん、そう」

「ならさ、実験をする必要はないよ」

「そうなの?」

「だってさ、ステファンは王子じゃん、王室には今までの生活の記録がすべて残っているはずだよ。その記録と聖女様の行動記録を突き合わせればわかるじゃん」

「そんなことできるの? 許可は?」

「だいじょうぶだろ、他ならぬ聖女様の要請だし、第二王子の健康問題は国家的重大事だろ。文句言うやつがいれば、そいつは間違いなく敵だね」

「そうか、そうとも言うか」

「ただし」

「ただし?」

「王都でないと、その調査はできないだろうね」

「そうか、記録の持ち出しは認められないか」


 それからみんなでいろいろと相談した。その相談の結果、まず、ヴェローニカ様に王室へ報告してもらう。実際の調査は秋から行うことになった。ただ、その調査には私もステファンも参加せず、フィリップとヘレンに専念してもらうことにした。数値的な処理になるだろうからフィリップは絶対に必要だ。聖女室の協力が欠かせないから女子が一人必要だが、私はステファンのことで冷静にできる自信はない。そしてフィリップの相方となればヘレンしかいない。だからこの二人は秋の収穫祭巡りには同行しない。

 仲間が二人も別行動なのはさみしいが、フィリップは言った。

「収穫祭巡り、ステファンに同行させてよ。公的には健康をとりもどした第二王子が各地にまわり、戦争の遺族を弔問するというのはいいだろ?」

 公的という言葉の裏の意味は、ステファンを私と距離を置かせないことで健康を維持させる、ということなのは言われないでもわかった。


 話し合いが終わったとき、私はヘレンに話しかけた。

「秋の収穫祭、行けなくしちゃってごめんね」

「だいじょうぶ。来年は行かせてもらうし、フィリップといっしょにいさせてくれようとしたんでしょ」

「うん、もちろん」

「それにしても聖女様ってさ、相変わらずだね」

「何が」

「いやね、聖女様とステファンの健康問題、ふつう実験して確かめようと考えないよ」

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