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第40話 肖像画

 離宮の朝食は充実していた。始めにミルクティーをいただく。するとメイドが「焼き物は食べるか」と聞いてくるから「食べる」と応えた。それが来るまでにパンをいただくが、バターとかジャムとか塗りすぎないように気をつける。パンはオートミールにすることもできる。ヨーグルトも食べる。

 そして先程頼んだ「焼き物」がやってくる。お皿に目玉焼き2個、ベーコン、野菜を焼いたものが載っている。火を通した野菜は塩味が油とあいまってとてもおいしい。何と言っても香りがよい。

 これが終わればフルーツだ。

 朝からお腹いっぱいである。

「アン、満足してもらえたかな」

「うん、とっても美味しい」

 美味しかった証拠に、会話というものを完全に忘れていた。

「みんな苦労してきたんだね、戦地ばかりだろ、僕は王宮とか離宮とかで恥ずかしいよ」

 どうやら皆、会話もせず貪るように食べていたらしい。


 しかしステファンは間違っている。私たちは任務を果たしただけだ。ステファンはたとえ美味しいものを毎日食べていたとしても、孤独に耐え、政治的危険性に立ち向かってきたはずだ。

 そうは思うが、私はそれをどう言葉にしていいかわからない。


「殿下さぁ、美味しいものを美味しく食べる聖女様、かわいいよな!」

 とんでもない発言でその場の空気を換えたのはフィリップだ。

「お、おう」

「戦地の食事は、量とカロリーばっかだったけど、そんなにひどくなかったよ」

「そうか」

「食事に集中するなんて、よくあることだよな、ヘレン」

「そだね。私達女子はみんな、平民育ちだから」

「俺とマルスも、平民だね」

 最後にケネスも発言した。


「アン、今日の午前だけどね」

 お茶二杯目の間に、ステファンは切り出してきた。

「もしかして勉強したいかもしれないけど、とりあえずは離宮の案内をさせてくれないかな」

「うん、そうする」

 実際私はノープランなのだ。

「午後はね、天体観測の準備を手伝ってほしいんだ。実質的にほとんどすすんでなくてね」

「うん、みんなも今日はそんなんでいいかな」

 異論は全く出なかった。


 食事後一旦部屋にもどったとき、私はネリーに言った。

「あの、私は聖女なんて祭り上げられてますが、もともとは平民の成り上がりです」

 宮廷のメイドは、貴族出身者もけっこういる。もちろん女学校の先輩である。

「ですからこうして時々地金が出てしまいます。みっともないようでしたらどうか、お教えください。直しますから」

 ネリーはちょっと考えてから言った。

「お言葉ですが聖女様、私としては、ごく自然にお振る舞いいただきたく存じます。皆様のお育ちはここにいる者は皆存じております。それを考慮の上快適にお過ごしいただくよう準備するのが私共の職務です。ただ職務を外れたとしても、私の気持ちは同じです」

「はい、ありがとうございます」

「そもそも、聖女様のお振る舞い、国民皆、存じ上げておりますよ」

 私が赤面するのと、近くから吹き出す声がするのとどっちが速かったかわからない。悔しいのでネリーを攻撃することにした。

「ネリーさん、どうせ女学校の先輩でしょ」

「はい」

「ではネリー先輩、立ち居振る舞い、お教えいただけないかしら」

「は、はぁ」

 フローラが割り込んできた。

「聖女様、いい加減にしなよ。困ってんでしょ。どうせあんたは美味しいものを目前にしたらああなるし、先輩って言うなら、こことか宮廷とかで会う女の人、大半先輩だよ」

「はーい」


 動き回りやすい服装にして、離宮の玄関に集合する。そうは言っても寝室は続きの間だし一旦解散したわけでもないので着替えて部屋を出た段階でほぼ集合済である。みんなでぞろぞろと階段を降りる。

 玄関には親衛隊から4人、そして近衛騎士団の騎士4名が待っていた。

「アン、今日の護衛はこの4人だよ」

「ザーレズリのクリストフです」

「よろしくおねがいします」

「プラーシリのベンヤミンです」

「よろしくおねがいします」

「ドラニのラースです」

「よろしくおねがいします」

「メルクリーンのオリヴァーです」

「よろしくおねがいします」

 親衛隊からはカロリーナ、ネーナ、マリカ、ディアナの4名が来ている。


 昨日はステファンしか見てなかったから覚えていなかったが、玄関から入ったところは少し広いホールになっていて、二階に上る階段の上に初代国王御夫妻の巨大な肖像画がかかげられている。なんとなくステファンと似ているところがあるような気もする。


 二階に上がらず右に行くと、大広間である。

 大広間には、歴代国王夫妻の肖像画が掲げられている。何となく順に拝見していくが、現国王ご夫妻の次のスペースはもちろん空いている。ここにミハエル殿下とヴェローニカ様がくると、それはそれはお美しい絵になるだろう。

 しかしここで私は良からぬ想像をしてしまった。

 もしもである。何かの拍子に次の次の国王にステファンがなってしまったら、私の絵がヴェローニカ様の次に来てしまう。ランクダウンも甚だしい。だけどこんな不敬な想像は口にするわけにはいかない。

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