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第37話 ヴァイスヴァルトへ

 やっとこの日が来た。ヴァイスヴァルトでステファン王子が待っている。


 王都を出た馬車は、北へ向かう街道を走る。いつも乗る馬車だが、いつもより遅く感じる。おかしいと思い、心のなかで時間を数えながら、街道脇のマイルストーンを目で追う。暗算で速さを計算すると、いつもと変わらない。念力で馬車が速くならないかとも思う。

 そしてなんだか仲間たちがごちゃごちゃ言っている。

「どうせ速さ暗算してるんだよ」

「だけどさ、そもそも時間感覚って気持ちに左右されるんだから、不正確なのにね」

「それよりな、念力とか魔法で速くならないかって考えてないか、ワシは不安じゃ。下手に発動すると大惨事じゃ」


「みんなうるさい。うるさいと加速の魔法かけるよ」

 私は目を閉じ、運動方程式を思い浮かべた。最初に思い浮かんだのは高校で勉強したニュートンの運動方程式だが、理論物理学を修めつつあった私はラグランジュの運動方程式を思い浮かべ直した。


「おねがい、聖女様やめて」

「頼む、やめるのじゃ」

「大惨事確定だよ」


 仲間たちが真剣にとめるので、魔法をかけるのはやめにした。だけど、ヴァイスヴァルトまではまだまだ遠い。

「あのさ、私、つらいんだよ。早くステファンに会いたいの。とにかく到着まで、間が持たない」

 つらい気持ちを訴える私に、ヘレンが応じてくれた。

「わかった、わかった、あ、そうだ、昨日、昨日聖女様、よくやった」

「なんかヘレンに褒められるの珍しいな、気持ち悪い」

「そう言わないでよ、ヴェローニカ様の件、私達もどうしたもんだか悩んでたんだよ」

「そうなんだ、多少力技だったけど」

「いやいや、完全に力技だった」

「でもうまく行ったから、いいでしょ?」

 今度はネリスが聞いてきた。

「昨日の話の持って行き方、どれくらい計画していたんじゃ?」

「うん、だいたい計画通りだね」

「陛下に事前に話してたの?」

「ううん、出たとこ勝負」

「そうか、ワシは聖女様尊敬するぞ、とてもワシにはできん、なあ、フローラ」

「そうね、あんな話をする度胸、私にもないね」


 そのあとさんざん、3人から褒められた。ちょっと気持ち悪い。

「もしかしてあんたら、加速魔法が怖くて私を褒めまくってるんじゃない?」

「い、いや、そんなことないよ」


 昼食は街道が大きな川を渡る地点で取る計画にしてあった。話によると遠くに山が見え、景色がとてもいいらしい。

 到着したら事前の話の通り、景色はきれいだった。川に橋がかけられ、橋の両側には警備隊の小屋が建てられている。馬車を降り、警備隊長に挨拶する。

「ベルムバッハのアンです。お世話になります」

「聖女様、お目にかかれて光栄です。お食事はどこでおとりになりますか? 今の季節、川べりが気持ちいいですよ」

「みなさまのお邪魔にならないでしょうか」

「いえとんでもない、御一行にはしっかりご休息いただいて、その警備をさせていただければ我が隊にとって名誉なことです」

「ではお言葉に甘えて」


 私達が川のそばに降りていくと、警備隊の人たちがテーブルとか椅子とかもって追いかけてきた。地べたに座って食べるつもりでいたのだが、ご厚意に甘えさせてもらう。こういうとき下手に辞退すると、かえってがっかりさせてしまうのだ。せいぜい愛想を振りまいておくことが大事だ。


 川の近くは少し涼しい。遠くの山は夏真っ盛りであるのに残雪を頂いているのが見える。山並みはどうも氷河地形に見える。北海道ならヒグマが跋扈しているだろう。この世界で山の王者はクマだろうか、魔物だろうか。

「フィリップ、あの山にはクマいるの?」

 フィリップはこの国でも北部の生まれだ。

「うん、聞いた話だと、デカい熊もいるし、魔物もいるらしい。怖いところだからほとんど人は入らないらしいよ」

「山登りとか無理かな」

「ムリムリ、昔は山の近くでは死刑が山への追放だったらしいよ」

 それが本当らしいのは、近くで警備についている兵たちの顔つきでわかった。

 私に小言を言うのはだいたいフローラかレギーナの役目だが、今日はレギーナだった。

「聖女様、くれぐれも山登りのお話、蒸し返さないでください」

「はい、わかってます。いくら私でもクマと魔物がいっぱいのところ、怖くて行けないです。それこそルドルフにでも乗せてもらわないと、あ、ルドルフに頼めば行けるか」

 レギーナが怖い顔になった。

「冗談よ冗談、安心して」

 レギーナがもっと怖い顔になった。


 食事後、もう一度警備隊の小屋に寄る。警備隊の皆さんに神様のご加護があるよう祈る。橋を渡ってもう一つの小屋でもお祈りをする。私にできるお礼はこれしかないのだ。


 橋の先の道は森に入った。この森の中で、ステファンが待っている。

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