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第32話 お忍び

 私は3日前から今日の昼食は外食を希望していた。名目は復興の度合いの調査である。普通の食堂で食事すれば、街の人々の雰囲気もわかるだろう。それに対してレギーナは、親衛隊で手分けしていろいろな食堂で食事し、私に報告するという。

 新手の拷問である。

「いえいえそれには及びません。私自身の舌で調べますし、そのほうが人々の様子もよくわかりますから」

 どうせレギーナは単に私が外食したい、いつもと違う物を食べたいという希望であることを見抜いている。だがレギーナとしては警護の都合上、私に外食させないようにしているのだ。

「申し訳ありませんが聖女様、それには反対です」

 レギーナは私を黙らせるため言い続けた。

「理由は2つあります。まず警護が困難なことです。完璧な警護のためにはあらかじめ店に連絡し、念の為何日か前から店を監視し当日は一般の客を締め出しておく必要があります。第二の理由として、警護の都合を優先した結果、聖女様の目的とされる一般人の食事を一般人の様子を見ながら食べることが不可能になります。どうせ店は特別な料理を出すでしょう」

 完全に理詰めである。

「それならば聖女様はお忍びで、とおっしゃるでしょうが聖女様のお顔は有名です。お忍びなどしようものなら間違いなく大混乱になります。さらに言えば、街のどこにヴァルトラントの間者がいるかわかりません。聖女様の暗殺計画がいくつあっても不思議では無いのです」

 さすがは付き合いの長いレギーナで、ぐうの音もでないほど正論で押しまくってきた。

 めずらしいことにここでマルスが口を挟んできた。

「聖女様、レギーナさんもこまってるじゃないですか。がまんしてくださいよ」

 これは私にとって僥倖だった。レギーナ相手ではだめだが、マルスならわがままも言いやすい。

「なによ、あんた休みの日ネリスとデートしてるの知ってんだからね。もちろんみんな気を使ってくれてるし、外食とかしたらお土産も買ってきてくれてる。おいしいよ。ありがたいよ。でもさ、私だってたまには外食したいじゃん」

 するとネリスがとんでもないことを言い出した。

「聖女様、すまんかった。考えが足りんかった。もう今後ワシはマルスと二人で出かけたりはせん」

 思い詰めたように真剣な表情に、私は焦った。

「そんなこと言ってないじゃん。ネリスにはデートしてほしいし、それは他の人もおんなじだって。私は人の幸せを制限したくない」

 フローラとケネスは沈黙を貫いている。賢明である。こいつらもちょくちょく二人で外出している。


 結局私を助けてくれたのは、王都にフィリップを置いてきているヘレンだった。

「まあまあ聖女様、落ち着きなよ」

 そしてレギーナの方に向き直り、話を続けた。

「レギーナ様、あなたのお考えは私もその通りだと思いますが、なんとか窮屈な思いをしている聖女様のために外食を許可していただけませんでしょうか。私たちも警護のお手伝いをしますから」


 相談の結果、私はレギーナと二人連れである定食屋を訪れることになった。ネリスとフローラは別の二人連れということ先行して来店、ヘレンは料理人に扮して厨房にいてもらうことになった。その他店の内外に通行人を装って警護してもらうことになった。かなりの大事である。自分で言いだしたことながら、これだけのことになってしまい反省した。


 しかしもう行くことにはなってしまったため、食事は楽しませてもらうことにした。


 午前の仕事を終え、一旦領主邸にもどって変装する。服を市井の人のものに変え、髪もまとめる。レギーナも普段着に換えてきた。厨房に潜入のヘレン、先行のネリスとフローラはすでに出発済みだ。私は普段は使わない使用人出入り口を通って外に出た。

 

 先にレギーナが外に出て、私がそれに続く。いつもなら武装した警護の騎士が視界を遮るのだが、今日は近くにレギーナくらいしかいない。どうせ方方に私服の騎士が配置されているのだろう。少し歩いたら迎えの馬車がきた。久しぶりに装飾のない普通の馬車に乗る。乗る前に馬の鼻先を叩いて挨拶する。すると今日の馬は、第一騎士団の馬だった。ということはと御者を見ると、よく見る騎士である。一般市民のような格好をしているが、立派なガタイは隠せてない。おもわず笑みが漏れ、

「よろしくお願いいたします」

と挨拶した。向こうもにっこり挨拶を返してくれた。


 馬車に乗ったのは私とレギーナの二人、広々である。

「今日は無理を聞いてくれて、ありがとうございます」

 馬車が走り出したところで礼を言うとレギーナは、

「いつも窮屈な生活をされていたのですね。今日はどうかお気楽に」

と気遣ってくれた。

「窮屈ではありません。みなさんには良くしていただいてますから。ただ、たまにはいつもと違うものを食べたいかな、と」

「あら、市民の食事の様子を調査するんじゃなかったんですか?}

 レギーナにからかわれてしまった。

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