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第31話 ギルドで商談

 私達はさらに二日ほど作業場に詰めて、女子大グッズの見本を作成した。今日はそれを持って、ヘルムスベルクの裁縫ギルドなどを周る予定である。


 最初に行ったのはその裁縫ギルドだ。服の仕立て職人はもちろん、刺繍の職人などもいる。大きな街ではないのであまり細分化されておらず、かえって私達からしたら窓口が一つで済んで楽である。そのへんの事情は大都市の商会の娘フローラが詳しく、交渉はフローラに任せることになっていた。

 事前に調べた情報では、ヘルムスベルクの裁縫ギルドは構成員の八割が女性、ただ大半の女性は冬場の手仕事として参加している。今は夏場だから例年なら女性はむしろ少数派なのだが、戦争のせいで今働いているのは男女半々ということだ。ヘルムスベルクは市街地の西側に各種工場が集まっており、裁縫ギルドの事務所もそこにあった。

 ギルドの受付で来意を告げると、応接室に案内された。


「聖女様、ヴェローニカ様、皆様、よくぞいらっしゃいました。ギルド長のテレーゼです」

 ギルド長は恰幅の良い中年の女性だった。ひと目で信頼が置けそうな人であると同時に、交渉事では手強い相手になりそうな人であるとも感じた。要するに、どうしても味方にしておかなければいけないタイプの人物と思える。

「ベルムバッハのアンでございます。この度はお時間をお取りいただきありがとうございます」

「いえいえとんでもない、聖女様のご依頼とあれば、私達は最優先でやらせていただきますので」

「ありがとうございます。ですが、街の復興に必要なお仕事を優先していただき、私達からの依頼はその後で結構です」

「それはまた何故でしょうか」

「まず私達は急いでいませんし、それよりも長期にわたってヘルムスベルクに仕事をお願いできることの方を重視しているからです」

「わかりました。ですが私としては、早く聖女様のお仕事のお手伝いをさせていただきたいですわね」

 テレーゼさんはそう言ってにっこりと笑った。

「それでは条件や金額などの交渉は、こちらネッセタールのフローラが行います」

「ははは、これは手厳しい交渉相手ですな」

 フローラは大商会の娘であることを、テレーゼさんは知っていたようだ。

「よろしくお願いいたします」

 フローラは美しいお辞儀をして商談を始めた。


 二日がかりで作った見本、型紙などを見せながらフローラが説明していく。テレーゼさんもいろいろと質問したりメモをとったりしている。最終的にテレーゼさんは、

「ぜひ作りたい」

と言ってくれた。それからは値段と納期の交渉になった。フローラはさすが商家の娘で、金額、納期ともほぼ予想通りの契約ができた。私が口を出したのは、デザインや色などの変更はこちら側の許諾がないとできないようにということだ。知的財産権の意識はまだ発達していないようで、テレーザさんは少し渋い顔をしていた。

「これは、デザインした人の利益を守ると同時に、購入者が品質について安心できるようにするためにもなるんです。偽物が出回ると、ギルドにも被害がでるでしょうし、お客様もがっかりしますよ」

「そうですね。私達も今後の契約に参考にさせてもらいます」


 ギルドの建物から出ると、今日の天気がとても良いことに気づいた。感心して空を見回しているとヘレンが、

「聖女様どうしたの?」

と聞いてきた。

「いまやっとね、今日がとってもいい天気だって気づいたんだ」

「ふーん、だから?」

「いやぁ我ながら、今日の商談にけっこう緊張していたんだと気づいたところ」

 すると同行していたマリカが言った。

「聖女様でもそんなことあるんですか?」

「あのですね、仕事は聖女ですが中身は15の小娘ですよ、私は」


 それはそうと、今日は楽しみにしていたことがある。昼食だ。今日の昼食は街中のごく普通の食堂でとることになっている。


 普通の食堂でお昼を食べる、この単純なことが私には難しい。もちろん聖女としての立場の問題だ。


 まず顔バレしている。この世界に転移してきて、なぜか私だけがもとの容姿に近い。黒髪で地味な顔立ちの私はかえって目立つ。どうしても気ままに町歩きなどできず、いつも親衛隊にがっちりガードされているし、そうでないと移動もままならない。


 そして顔バレしていようがいまいが聖女は常時警護が必要なので、聖女就任以来一度も外食をしたことがない。本当のことを言えば食べ歩きとか普通にしたいが(特に串焼き)、移動中に見かけてもがまんするしかない。ネリスやヘレンはたま~に外出して食べているのは知っている。そういうときは必ずお土産を買ってきてくれるので文句は言えないし言わない。だけど本当は焼きたての串焼きを、口の周りを汚しながら食べたいのだ。

 なお、甘いものも大好きだが騎士団での食事が多かったせいで肉優先になってしまった。


 今日の日のために、私は3日前からレギーナに交渉していた。

「レギーナ、市中の方々がどのように食事をとっているか気になります。それが戦後復興のひとつの目安となると思うのです」

「承知しました、早速綿密に調査して報告いたします」

「いえ、報告していただくよりも、私が実際に目で見たほうがより実感できると思うのですが」

 このあたりで皆の目が冷たくなった。

「では食堂などを見学されますか?」

 レギーナは私の考えを見抜いたうえで言っているだろうが、その手に乗るわけにはいかない。

「見学となると商売されている方のじゃまになるでしょうし、食事の質などは実際に食べてみないとわからないのではないでしょうか」

「わかりました。では親衛隊で手分けして各所の食堂で食事し、報告いたします」

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