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第30話 見本づくり

「こっちの世界でカワイイとか言われても、多分つたわらんぞ」

 ネリスに言われて私は、仕方なく何日か前に書いたルドルフのイラストのメモを取り出した。ネリスに見られて言葉を失わせたやつである。みんなが身を乗り出してきた。かなり恥ずかしい。あまり大きな紙でもないので、みんなが回して見始めた。


 どいつもこいつも無言である。かなり長い時間だれも口を開かないので、仕方なくマリカに聞いた。

「マリカ、どう思いますか」

「あの、これは何でしょうか?」

 何人か吹き出す音がした。そいつらの方を睨んでおく。

「ルドルフなんですが」

「ドラゴンって、こう、細長いですよね」

「うん、だけど、こう全体に丸っこくすると可愛くなると思うの。ほら、小さい子って、全体に丸っこいでしょ」

「そうすると、こんな感じでしょうか?」

「うーん、ドラゴンっぽくなくなったわね」

 するとヘレンが提案した。

「バランスを無視して顔というか頭を大きくして、尻尾だけは細長くすればドラゴンぽくならない?」

「なるほど」

 マリカが絵を書き直す。

「おお」

 みんな感心したが、さらに何回か書き直してとりあえずの絵ができた。

「マリカ、この絵をもとに、正面とか真横、真上、裏側とかから見た絵を書いてもらえないでしょうか」

「なんのためでしょうか」

「一度きちんとした図を用意しておけば、いろいろな物、大きさでも同じ形につくることができますから」

「承知しました」

 とりあえずマリカには三面図をしあげてもらい、私を含めその他のメンバーはその間にどんな製品を作るかアイデアを出し合った。採用するかしないかはともかく、

 ぬいぐるみ

 木製のルドルフ人形

 ハンカチ(刺繍入り)

 手帳

 ペン

 カトラリー

 マフラー

 ショール

 毛糸の帽子

 ピンバッジ

などが候補として挙げられた。

「うーん、どれもこれも魅力的だと思うのだが、全部は無理でしょうな」

というのがヴェローニカ様の意見である。

「現実的にはまずハンカチとかマフラーとかがいいのではないでしょうか。冬になれば帽子も人気が出るでしょう」

と言ったのはエリザベートだ。親衛隊のメンバーは皆、エリザベートの意見にうなずいている。なんとなく話がそれでまとまりそうになったので、私は自分の意見を主張した。

「あの、ぬいぐるみは絶対あったほうがいいと思います」

 するとヘレンがハァーとため息をつき、ネリスはニヤニヤしている。マルスは余計なことを言いそうなので目で制しておく。するとレベッカが聞いてきた。

「あの、聖女様のおっしゃるぬいぐるみというのが、ちょっとイメージがわからないのですが」

「わかりました。これから見本を作ります」

 するとフローラが言った。

「聖女様、ぬいぐるみ作れるの?」

「わかんない」

「じゃあどうすんのよ」

「うん、木で型をつくってそれから型紙をおこす」

「その手があったか」


 そういうわけで、私はマリカの作った図をもとに、ぬいぐるみ用の木型を作ることになった。他の人は手帳のデザインとかハンカチの刺繍の見本とかを作り始めた。


 作業場の隅にあった角材とノミを持ってきて、私は彫刻を始めた。

 工作とか超久しぶりの作業である。少しずつ削っていこうと思うのだが、だんだんと焦ったくなってきて大胆になると手が滑り、血が出た。

 やべっと思うのだが、治癒魔法の使えるこの世界は便利である。自分に魔法をかけてしまえばすぐ治る。なので騒ぐことなく彫刻を進める。しかし何回も出血しながら彫刻を続けていたが、マルスからストップがかかった。

「聖女様、見ていられません。だいたいどういうものをお考えか分かりましたから、僕が作ります」

 マルスはそう言って私から作りかけの彫刻と工具を取り上げた。

 私はマルスが器用に工作するのを見ていた。

「マルスうまいね」

 私がほめるとマルスは、

「末端の兵士は、みんなこんなもんですよ。足りなかったり壊れた物は自分でなんとかするしかないんですから」

「そっか、じゃあさ、マルスの目で見て、ちゃんと前線の兵士に支給して欲しいものとかそういうのはこんどまとめて教えてよ」

「いやあ、いいっすよ」

「マルスのためじゃなくてさ、そういうのが結局戦力の向上に繋がると思うんだよね」

「わかりました」

 そのうち自分の作業を終えたネリスがマルスの横に座ってあれこれマルスの作業に口を出し始めた。もうちょっと削れとか、丸みをつけろとか字にすると小うるさいのだが、実際はキャイキャイとうれしそうに二人はやっている。なんかいたたまれなくなって、あとは任せて私は他の作業に移動した。


 私が刺繍に手を出したのは失敗だった。自分の不器用さが恨めしいのだが、見事に針を指に刺し、見本用のハンカチが私の血でよごれてしまった。あ〜あと思って汚れたハンカチを見ていたら、そのハンカチはカロリーナにさっさと片付けられてしまった。


 そんなわけで私は戦力外通告をされ、必要な材料の見積もりとか、発注数とか、経費の試算とかいる事務仕事に精を出した。


 その他、私の人形とかぬいぐるみを作る、という案がフィリップから出された。

「二頭身にデフォルメされたぬいぐるみとかって、いいと思うんだよね」

「ダメ」

「え~なんで?」

「そんな偶像崇拝みたいなのはダメ。私自身を崇拝するとかありえない」

 そう言って潰しておいた。本音は、私一人がキャラクター化されるなど恥ずかしくて仕方がない。フローラ、ヘレン、ネリスを巻き添えにする手もあるが、私達4人の中で一番地味な私の人形など最も不人気になるだろう。私の人形とかぬいぐるみだけが大量に売れ残っってしまう光景を想像すると、とてもではないがフィリップの案にOKを出す気にはなれなかった。


 夜になるとルドルフが領主邸にやってくる。その日につくった見本とかを見せる。

「ルドルフどう思う?」

と問いかけても、

「ウォン?」

と応えるだけである。やっぱりドラゴンにカワイイという概念はないのだろう。

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