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第29話 ルドルフのイラスト

 なんとか気を取り直した私は今日の仕事にとりかかった。今日の仕事はメルヒオール様に復興のためのアイデアを出すことである。

「メルヒオール様、復興のための土木工事はいつごろまでかかりそうでしょうか?」

「そうですね、おおよそあと一月ほどかと」

「そうなると、一月ぐらいするとその人たちの仕事がなくなるということですね」

「そうなってしまいますね」

「これは提案なのですが、聖女室からの工作依頼を受けてもらえないかなと考えております」

「どのようなものでしょうか」

「少し話が飛んでしまうのですが、私は女子の高等教育学校、つまり女学校の卒業生を受け入れる学校の設立を考えています。その学校は政治的中立性を保つため、王立とはしないつもりです。したがって財源が必要なのですが、その財源となる物をこちらで作ってもらえないかと考えているのです」

「なるほど」

「具体的には、ペンとか手帳、ハンカチなどの小物、そのほか小さな人形とかぬいぐるみなどを考えています」

「ぬいぐるみとはなんですか」

「布などで動物の形をつくり、その中にわたを詰めた物です」

「どんな動物をお考えですか?」

「ドラゴンです。ルドルフはこの戦争で国民に親しまれました。ですからドラゴンをその学校のシンボルにしようと思うのです」

「そうですか、そういう新たな産業はヘルムスベルクにとって助かります。ぜひお願いしたいですが、製品の見本などはありますか」

「お恥ずかしいですが、それがまだなんです」

 するとミハエル王子が話に割り込んできた。

「メルヒオール殿、聖女様は働き詰めでしてね、母上からこの夏静養するように言われたくらいなのです」

「そういうわけで、この地で見本作りから始めたいのですが」

 するとメルヒオール様は納得したように、

「そうですか、それは光栄なことです。では適当な職人に出向いてくるよう命じましょう」

「いえ、職人のみなさんもお忙しいでしょうから、こちらから工房に伺います」

 今度は警備として在室していたレギーナから意見が出た。

「聖女様の警備担当としては、職人の方に来ていただきたいのですが」

 もっともな意見である。ただ、メルヒオール様の意見は違った。

「このヘルムスベルクでは、住民全員が聖女様の護衛とお考えいただいて大丈夫ですよ」

「それもそうですね」

 意外にもレギーナはあっさり引き下がった。


 調子に乗ったわけではないが、私はもう一歩踏み込むことにした。

「ミハエル殿下、お時間のあるときに、私たちと同行されませんか?」

「とても嬉しいおさそいだが、いいのでしょうか。率直に言って第一王子の私は、聖女様と政治的に敵対していると一般に思われてるのではないですか?」

 率直な意見には率直に返す。

「私自身、殿下のお立場を誤解しておりました。すべては国のため、国民のため、王室のためにご判断されたことでしょう。だからこそ、私やヴェローニカ様と親しく同じ仕事をするのを民に見てもらうのが良いと考えます。特にヴェローニカ様は先の戦争で活躍され、民衆からの人気も高いです。そのヴェローニカ様とご一緒していただければ、私としては望外の喜びです」

 まちがいなく私はここでドヤ顔をしていたのだろう。見回せば仲間達は呆れたように視線をそらし、ヴェローニカ様はお顔を若干赤らめていた。


 午後は女子大グッズの見本作りに充てた。早く見本を作って工房へ持っていかないと、私達の滞在期間が終わってしまう。ミハエル殿下とメルヒオール様は公務が入っていたので、作業は私達女子四人、男子二人、ヴェローニカ様、レギーナたち親衛隊で行った。領主邸の一画に作業場があり、そこを借りた。

 久しぶりに入る作業場は、戦争中と異なり整然としていた。戦争中は破損した剣とか槍、甲冑などが絶え間なく持ち込まれていた。戦いが進むに連れ作業場だけで対処しきれなくなり工具が借り出されるものだから、いつもあれが無い、これが無いと大騒ぎだった。戦争で装備類が破損するのは当たり前だから工具類も用意はされていたが、戦が長期化すると工具類も破損、あるいは紛失ということが絶えなかった。補給希望物資のリストに工具類が多数入ったことで第一騎士団本部から問い合わせが来たこともあった。担当の騎士が困惑したり憤慨したりしていたので、私が発注書に添え書きしたのを思い出した。

 感慨にふけっていたら、私はみんなの邪魔をしていたらしい。フローラに注意された。

「聖女様、そんなとこに突っ立ってないで、とっとと始めるよ」


 とりあえず作業台のまわりに全員着席する。

「じゃあ始めましょうか。女子大グッズとして、ぬいぐるみとか、小さなフィギュアとか、あとハンカチとか手拭いなんかもいいと思います。それに私はルドルフの絵を入れたいと考えています」

 それにまず反応したのは、親衛隊の旗をつくってくれたマリカだった。

「聖女様、それでは親衛隊の旗に入れたルドルフの図を使うのですか」

「ええ、あれもいい絵だと思います。図案の一つとして使えると思うのですが、私はかわいい絵も欲しいのです」

 今度は横にいたネリスに突っつかれた。ネリスは小声で言う。

「聖女様、こっちの世界でカワイイとか言われても、多分つたわらんぞ」

 仕方なく私は何日か前に書いた、ルドルフのイラストのメモを取り出した。

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