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第28話 お祈り二回

 その夜私は盛大に落ち込んでいた。私はステファン王子軟禁の件でミハエル第一王子を逆恨みし、私の気持ちを大事にしてくれたヴェローニカ様の結婚も邪魔していたのだ。

 話をよく聞けばステファン王子の軟禁は、勝手にステファンを担ぎ上げる第二王子派を牽制すると同時に病弱なステファン王子に無駄なストレスをかけないためだった。それを全く理解していなかった私は、「敵対」するミハエル第一王子を勝手に恨んでいた。


 表面的な「軟禁」という事実に過剰に反応し、その向こうにある政治的判断、国王一家の愛情がわからなくなっていた私はただのバカである。そして私の肩書は「聖女」である。神様に与えられた能力は「聖女」かもしれないが、私の中身は自分の感情に溺れるただの小娘でしかなかった。


 挙句の果てにその身勝手な感情のせいで敬愛するヴェローニカ様の結婚を邪魔していたとなれば、自分を許すことができない。だからみんなが寝静まった頃私は窓際で祈りを捧げていた。


 神様、どうか愚かな私をお許しください。

 いや、お許しくださらなくて結構ですから、わたしはどうなってもいいですから、ヴェローニカ様を幸せにしてください。

 私には幸せになる資格はありません。

 ステファン王子には、美人で気立てのよい女性をお世話してください。

 私は命ある限り、祈りと奉仕にこの身を捧げます。


 神様からのお返事はなかった。

 返事をする価値もないのかと思うと辛かった。


 目を覚ますと、眼の前にヴェローニカ様がいた。横からフローラが、

「あんた窓際で倒れるように寝てたんだよ」

と教えてくれた。

「聖女様、どこかお具合の悪いところはないですか」

 ヴェローニカ様のお言葉は、かぎりなく優しかった。

「ヴェローニカ様、私はヴェローニカ様に優しくしていただく資格はありません。そして私は聖女たる資格もありません」

 するとヴェローニカ様は私を優しく抱きしめた。

「アン、そんなに自分を責めないでくれ。私は何事にも真っすぐで、一生懸命なアンが大好きだよ」

 小さい声にして敬語抜きで話してくれる。

「だけどヴェローニカ様、私のせいで……」

「アン、君のせいではないよ。私自身が選んだ道だよ。アンのため、私のため、国のために一番と思えることをしてきただけだよ。アンもそうだろう?」

「そう思いたいですが、私は私情に流されてしまいました」

「そんなときもあるさ、人間だから。そんなときのために、仲間がいるんじゃないかな」

 私はもうがまんできず、大泣きしてしまった。


 私は再び寝てしまったらしい。目を覚ましたら、フローラ、ヘレン、ネリスが私のベッドに腰掛けていた。

「アン、おはよ」

「みんな、おはよ」

「ひどい顔じゃのう」

「うん」

 反論する気力はなかった。するとフローラが言う。

「アン、あんた落ち込んでいる暇はないよ」

「うん、仕事する」

 ベッドから出ようとする私をフローラは止めた。

「ちがうよ、あんたがすぐにやらなきゃいけないことは、いつものアンにもどることだよ」

「無理だよ」

「そう言わないでよ、それじゃ、ヴェローニカ様が困るよ」

「そうだね」

 ではどうすればいいのか?


 黙ってしまった私を見て、今度はヘレンが言い出した。

「アン、あんたステファン王子のこと諦めてるでしょ。それはだめだよ」

 ステファン王子と幸せになる資格が、私にはない。

「あんたが幸せになってこそ、ヴェローニカ様が幸せになるんだよ。だからあんたはステファン王子を諦めちゃいけない。それからヴェローニカ様のことを考えようよ。そうすれば自動的に、なるようになるよ」

「うん、わかった」

 ステファンと次に会えるのはヘルムスベルクの仕事が終わってからだから結構先になる。それまでに元気な笑顔を見せられるよう頑張ろう。


「うむ、よい顔つきになってきたの」

 ネリスは私のほっぺたに指を突きつけ、さらにグルッと回した。

「うーん、聖女様には渦巻きができんの」

 私はネリスのほっぺたにやりかえし、それからはいつものように笑えたと思う。


 遅い朝食を取ってから、私は予定外だが領主邸の礼拝堂を借りた。昨日神様にしてしまった約束を早くも変更するためである。祭壇の前に跪き、スケジュールというものがあるから大急ぎで大事なことだけお祈りした。


 神様、申し訳ありませんが私はやっぱりステファンと幸せになることにしました。

 もちろんお祈りや奉仕はいたしますが、全身全霊というわけにはいかなくなると思います。

 もちろんヴェローニカ様には幸せになってもらわないと困ります。

 そのための努力はいたします。

 身勝手なお願いですが、どうかよろしくお願いいたします。


 昨晩と異なり、神様のクスッという笑い声が聞こえた気がした。

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