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第25話 グリースバッハ

 最初の墓参に引き続き、グリースバッハに向かう。仲間たちの手により馬車に私は担ぎ込まれた。

「みんなごめんね」

 私としては取り乱してしまい、謝るしか無い。

「ううん、みんな気持ちは同じよ」

 フローラが慰めてくれた。


 窓の外に流れていく景色を見ながら私は考える。私はそのときの感情に流され過ぎなのではないか。こんなことで義務を果たせるのか。やっぱり聖女の大任は辞退すべきではなかったのか。

 いやいやこんなことではいけない。

 今日の私の仕事は戦死した将兵の魂を弔い、戦争で傷んだ人々に力を与えることだ。


 私なんかでいいのだろうか。


 いろいろと考えながら窓の外をみていると、手を握られた。みるとフローラ、ヘレン、ネリスが私の手の上に手を重ねている。ヘレンが言う。

「聖女様、どうせ私なんかでいいのかって考えてるんでしょ」

「うん」

 いつもなら何で私の考えがわかるのかと問い返しただろう。

 ヘレンが言葉を継いだ。

「あのね、聖女様があれだけの感情をぶつけるのを見て、みんな感動してこれからの仕事がんばるよ。あのアンの気持が、聖女たる所以だよ」

「私、つらい」

「うん、つらいね。アンはみんなのつらい気持ちをみんな引き受けちゃうんだよ」

「ちがう、私、自分の仕事ができてない」

「だいじょうぶだよ、できてるよ。最悪うまくいかないときは、私達がいるから」

「だけど」

「だけどじゃないよ。そうやってアンは自分を見つめ、直していくことができる。それはずっとずっと私達が見てきた。私はアンが、今のまま汚れのない、曲がってない気持ちのまま生きていって欲しいよ」


 グリースバッハでの墓参は、なんとか取り乱さないですんだ。引き続き警備についている将兵の様子を見に行く。現場で頑張っている人達がいるのに、私が心を弱らせている場合ではない。

 配置についている騎士や兵士は私の姿を見つけるとみな、笑顔で挨拶してくれる。停戦中ではあるが、いつ戦争が再開されても対応できるようにしているのだろう、皆動きがキビキビしている。

「聖女様、再びお目にかかれて光栄です」

 一人の一般兵士が話しかけてきた。確かに見覚えがある。

「あなたお元気だったのね、失礼ですけどお名前はフェリクスだったかしら」

「覚えていただけていましたか」

 運良く名前は覚えていた。ここグリースバッハで感染症で発熱するマルスを見つけたとき、マルスの同僚だった。

「マルスは元気ですか」

「ああ、あっちにいるわよ。マルス!」

 私はマルスを呼んだ。

「はーい」

 マルスは走ってきて、旧友との再会を喜んでいた。


 その後フェリクスは指揮官の許可をとって私達の案内をしてくれた。

「こちらが大筒です」

 さっそくネリスとケネスが砲の状態をチェックしている。私は私で、フェリクスに質問した。

「みなさんでなにか不足はないですか」

「そうですね、特にないですが、最近なんだか食事が美味しくないですね。味が無いっていうか」

「調べておきましょう」

 そこへネリスとケネスがもどってきた。

「砲の状態は問題ない。ただ、訓練不足になっているかもしれん」

というネリスの報告に、

「どういうこと?」

と聞き返した。

「うむ、どうも弾薬をケチっていると言うか、そんな感じかの」

「ケネス、火薬の保存状態はどう?」

「すこし湿度が高すぎる気がする」

「しけってるってこと?」

「客観的にはわからないけど、そんな気がする」

「燃焼試験とかしたほうがいいかな?」

「うーん、試射のほうがいいかもしれない」

「それって、国境の向こうを刺激しない?」

「いずれにせよ、火薬の保管とかって、何も研究してないね」

 それから私達は、火薬の保管について話し合った。その中で私は怖いことに気がついた。

「あのさ、静電気対策ってしてないよね」

 一同がギクッとした表情をした。最初に反応したのはネリスだった。

「ワシ、静電気体質じゃ」

「今までよく無事だったね」

 私は素直な感想を漏らした。続いてマルスが言う。

「対策がしっかりできるまで、火薬庫近づかないほうがいいっすよ」

「うむ、そうする」

「とりあえず戦闘にならない限り、火薬を移動させるのを禁じよう」

 そう言ってケネスは走っていった。


 続いて迫撃砲についてもチェックする。よく整備されているようだ。ついている兵士たちに話を聞く。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です、聖女様」

 なるべく愛想をふりまく。

「なにかお困りのことはないですか?」

「いえ、とくにないです」

「お食事はどうですか?」

「量はいいですが、ちょっとまずいかな?」

「具体的には?」

「ちょっと塩気が足りないと言うか」

「そうですか。調べます」

「いやぁ、部隊長に怒られちゃいますから、黙っててください」

 私は笑ってごまかした。


 昼食はグリースバッハでとった。もともと兵士たちと同じ食事を取る予定だった。私は食事の味に問題を感じなかった。


 引き続きノイエフォルトに向かう。ミハエル第一王子はやはりヴェローニカ様と馬を並べている。なんだか親しげに見えた。

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