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第22話 新入団者たち

 朝食中、私達が今日王都からヘルムスベルクに移動することを知ったサビーネは、しばらくすると戻ってきて言った。

「聖女様、お食事が終わりましたら新入団員全員でご挨拶させていただきます。少々お時間をいただけますでしょうか」

 私は気安くOKを出しそうになったが、今朝の食事の席を急に変更してレギーナや食堂スタッフの皆さんに迷惑をかけたばかりなのを思い出した。

「サビーネ、ちょっと失礼しますわ」

 立ち上がると食堂の入口に立って警備するレギーナが見えた。レギーナに相談しようかと思ったが、レギーナのことだ、新入団員を甘やかすなとか言ってダメが出されそうな気がする。割と近くにフローラがいたのでそっちに話を持っていくことにした。

「ちょっと失礼」

と言いながら、席の間を縫っていく。みんな笑って、椅子を動かし私に通路を開けてくれるのが申し訳ない。せめてもと無理矢理に作り笑いを振りまく。そうしたら途中でフローラが気づいてくれ、立って指で壁の方を指してくれた。なのでフローラの指した壁の方へ行く。するとフローラが聞いてきた。

「どうしたの?」

「うん、今年第三騎士団の入団者10人もいたでしょ」

「らしいね」

「その子達私達が今日からヘルムスベルクに行くの知らなかったらしいんよ」

「だろうね」

「その子たちね、私達と一緒に訓練するの楽しみにしてたらしくて、それがだめだからせめて挨拶させろってね」

「で、なんで私んとこ来た?」

「いや、私がみんなの都合聞かないでOKしたらおこられるじゃん、だから来た」

「レギーナに聞いたほうがいいんじゃないの?」

「それは私も考えた。だけどレギーナにいきなり相談するとさ、甘やかす必要ないって言われそうじゃん」

「ああ、そうかもね」

「だからさ、フローラから口添えしてよ」

「ふーん、私が反対する可能性は考えないの?」

「え? 反対?」

「うそうそ、待ってて」


 フローラの口添えで、朝食後私達4人、さらに親衛隊4人で新入団員10名の挨拶を受けることになった。中庭の隅の方でやることになった。ぶうぶう言いながらもレギーナの作ってくれた段取りは、新入団員をあらかじめ中庭に整列させておき、そこに私が行って挨拶を受けるというものだった。

 食堂で待っていると、親衛隊のディアナが私達を呼びに来た。

「聖女様、お待たせいたしました」

「いえ、ありがとうございます」

 先頭にディアナ、続いて私、フローラ、ヘレン、ネリスと続く。ディアナが歩調を取るので、自然私も軍隊式の歩き方になってしまう。

 中庭では話通り十人の卒業生が整列して待っていた。その十人の横にはレギーナ、ラファエラ、エリザベートもいた。私が彼女たちの前に着くとレギーナが号令をかけた。

「気をつけ! 敬礼!」

 レギーナ、ラファエラ、エリザベートは騎士団の制服を着ているから騎士団式の敬礼、卒業生たちは女学校の制服だからお辞儀である。私も姿勢をただし、お辞儀を返す。

 こういうとき気をつけるのは、お辞儀を柔らかくすることだ。私は散々第三騎士団にお世話になっているので、お辞儀をするにしても騎士団式のカチっとしたものになりがちだ。聖女代理をお願いしているジャンヌ様はそれを何回も注意してくれた。それでは親しみやすさが足りないと言うのだ。笑顔も欠かさないようにする。私としては注意するようにしているので今もだいたい合格ラインに来ていると思うのだが、ジャンヌ様は厳しい。考えずに自然にできるようにならないとだめだと言うのだ。ジャンヌ様は私の心が読めるのかと思ってしまう。

 そんなことを考えていたら、危うく次に言うべきことを忘れそうになった。

「みなさん、お楽に」

 続いてレギーナが「休め」の号令をかけた。


 レギーナの指示で、卒業生たちが申告を始める。

「へーフェルのサビーネです。本日より第三騎士団に入団いたします!」     

 その他のメンバーは、コンスドルフのペギー、メルシュのマルティナ、フロランジュのアガーテ、オタンジュのスザンナ、オブエのイレーネ、アルロンのブランカ、ショーバックのリーゼロッテ、タットエールのノラ、ロットエールのテレジアと言った。どの顔も算術の授業をしたことがあったから知らない顔ではないが、性格などはわからない。

「みなさんの入団をお祝いいたします。私たちも第三騎士団で生活していますから、いずれ親しくお仕事をともにすることもあるでしょう。その日を楽しみにしております」

 スピーチは長いと退屈なので、思いっきり短くしておいた。でも内容は正直な私の気持ちである。その成果か皆の顔が輝いている。ついでに祝福をぶっ放しておいた。これでしばらくはよほどの無茶をしない限り大怪我はしないだろう。


 私としては聖女としていい感じにできたと思うので、彼女たちを解散させた後ヘレンに聞いてみた。

「ヘレン、今日の私、聖女らしかったでしょ」

「うん、心のこもった良いスピーチだったと思うよ」

 自分で自分を褒めたいと思っていたら、フローラが口をはさんだ。

「ご満悦のところ悪いけどね、お辞儀とかスピーチとかは良かったよ。だけどさ……」

「だけど?」

「うん、入場の行進がね、完全に軍隊式だった。軍隊式に歩調を取った後でね、あんなふうに柔らかいお辞儀されてもね、なんかギャップがね」

 

 失敗だった。登場から最後まで柔和な聖女風に行動すべきだったのだが、登場が軍隊式、途中から聖女風になってしまっていて一貫性がなかった。がっくりとしていると、ネリスが慰めてくれた。

「ま、こんなこともあるよ。一つ勉強になったと思えば…… っていうか、そんなところが聖女様らしいと思うぞよ」


 慰めになっているのだろうか?

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