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第19話 天文台構想

「ヴァイスヴァルトに天文台を作ろうと思う」

 ステファンの提案は、まるで予期していないことではなかった。フローラが質問した。

「それは望遠鏡を作るってこと?」

「いや、ガラス関係の技術は全く発達していないから、目視で天体の位置を観測する。みんなこの世界にも惑星があることは知ってるだろう。ケプラーの法則も、ティコ・ブラーエの観測をもとにして導き出されたよね」

 ケプラーの法則とは3つあり、第一法則では惑星は楕円軌道を描き、楕円の焦点の一つに太陽がくる。第二法則は角運動量保存法則につながる。ケプラーの法則がこの世界でも成り立てば、ニュートン力学もこの世界で成り立つ。

 さらに、ケプラーが法則の導出に利用したデータは、ティコ・ブラーエの観測だが、その時代には望遠鏡はなく目視観測でなされた。だからステファンの提案はこの世界の技術でも十分可能だ。

「みんなが国境地帯で仕事している間、僕は観測装置の図面を書いているよ」

 

 私はその言葉に潜む、さみしいトーンを聞き逃さなかった。いや、聴き逃がせなかった。


 フィリップから聞いてた話だと、中等学校は全寮制だから同室のフィリップと楽しくやってこれた。だが中等学校を卒業してフィリップは神学校、ステファンは王宮へ戻ってしまい、病弱ということもあって交友関係は厳しく制限された。挙句の果てに軟禁生活になってしまった。ステファンは何も言わないけれど、ずっと孤独な生活を強いられてきたのだろう。

 だからといって、私はステファンにどう声をかけていいかわからない。

 だって私は両親にも大事に育ててもらったし、女学校に入学してからもずっと仲間、先輩後輩、騎士団の人たち、教会、病院、色んな人たちによくしてもらってきた。そんな恵まれた暮らしをしてきた私に何が言えるだろう。


 気がついたら私の視界は、ぼやけ、自分の膝にかかる服が見えた。両手がグーになって力が入ってしまっているのがわかる。


 そしたら懐かしい匂いがして、肩のあたりがあたたかくなった。

「アン、ごめん、僕は大丈夫だから。ヘルムスベルクの仕事はアンにしかできないから」

「うん」

「あのねアン、僕は聖女の就任式で君を見てからね、君の話がきこえてくるたびに嬉しくて楽しくてね、心配じゃなかったわけじゃないけど、信じてた。だからさ、大丈夫だよ」

「うん」


 私は目を閉じて、ステファンの温かさに包まれていた。幸せだ。


「あの~聖女様、大変申し訳無いんですが、そろそろお勉強を始めないといけないのではないでしょうか」


 誰だこの無粋な言葉はと思って目を開けると、おどおどしたマルスの顔が見えた。

 マルスに文句を言おうかと思ったけど、どうせネリスかヘレンに言わされたのだろうからマルスを責めるのもかわいそうな気がする。その二人を見るとふたりとも目線が泳いでいるから二人がかりで脅迫したっぽい。コイツらどうしてくれようと考えていたら、フローラに言われた。

「聖女様、口がへの字になってるよ」

 それを直す間もなく、ステファンに唇をつままれた。

 ちょっと痛い。抗議しようと思ったら、ステファンはすっと席に戻っていった。


「ヴァイスヴァルトの離宮だけどね、こんな感じになってるんだ」

 ステファンは手近な紙に離宮の見取り図を書き始めた。

「ここの建物の屋上が広くてね、ここに四分儀とか観測機材を置くのにいいと思うんだよね」

「見晴らしはどうなの?」

「うん、ここは高いからね、あまり視界を遮るものないかな」

「王都より星見えるかな?」

「夜なんか真っ暗だよ。星を見るには最高だと思う」


 最高である。ロマンチックである。

 そんな気持ちに浸っていたら、またもフローラが口を出してきた。

「聖女様さ、離宮では観測やるんだよ、観測。星を見て楽しむんじゃないんだからね」

「うるさい、どうせ私が観測すると誤差だらけだからさ、私は普通に星空を楽しませてもらう。あとね、ステファンは体悪くしちゃいけないからさ、私といっしょにゆっくり休養してもらうから」

「なにそれ、ずるいじゃん」

「ふん、じゃ、私が率先して観測するわ。実際のところ、ホントは観測とか測定とかしたいんだよね」

「いや、二度手間になるからやめて」

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