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第126話 目覚め

 目を覚ますと部屋は真っ暗だった。横で修二くんのスースーという寝息が聞こえる。隣の部屋のなんかのLEDの明かりが見えた。トイレに行く。


 長い長い夢を見ていた気がする。


 トイレからもどってくると、修二くんは寝返りをうって布団を持っていってしまっていた。これをやられた場合、私の選択は二択である。思いっきり布団を引っ張って取り返すか、修二くんの背中にくっついて寝るかである。経験的に言ってどっちの選択をしても修二くんは熟睡しているから気分で選んでいい。ただ目が覚めてしまったので、よせばいいのにスマホを手に取った。


 SNSにのぞみと優花から来ているのに気づいた。タイムスタンプはどちらもつい先程だ。トイレに居る間に来たらしい。

 のぞみからは「聖女様大丈夫? 動揺してない?」とあった。地震とかなんかあったっけと思いなながら「大丈夫、動揺してない」と返した。

 優花も「大丈夫? のぞみは大丈夫らしい。真美ちゃん連絡とれる?」と言っていた。


 優花は川崎、真美ちゃんは札幌、接点は無いはずだ。よくわからないけど「連絡しとく」と返す。


 連絡するまでもなく、今度は真美ちゃんから来た。

「ワシの女子大を返せ」

 わけがわからない。真美ちゃんは千葉の公立高校から一浪して札幌国立大学へ進学、そのまま修士課程にすすんで春に千葉の鉄鋼メーカーに就職が決まっているはずだ。

「真美ちゃん就職しないで女子大行くの?」

と送ったら、

「行くに決まっておろう。とにかくワシの女子大を返せ」

と送ってきた。

 全くもって意味不明なので放置することにし、私は修二くんの背中にしがみついた。


 二度寝から覚めると修二くんはいなかった。隣室から物音がするので、朝食を用意しているのだろう。

「おはよ」

「おはよ。布団あげといてくんない」

「わかた」

 私の部屋は2間あり、リビングダイニングにはダイニングテーブルが入れてある。その上は研究用のパソコン、教科書、論文などが載っているので食事には適さない。一人のときはいいが、修二くんと一緒のときとか女子会のときは、寝室(畳)のふとんを片付けてちゃぶ台を出すことにしている。

 ガーッとコーヒーミルが大きな音を立てる。やっぱりコーヒー豆は挽きたてがいい。香りがちがう。修二くんは東海村ではインスタントコーヒーだが、札幌に来ている今は、私のために淹れてくれているのだ。

「布団片付けたよ」

「オッケー、トースト持ってってよ」

「はーい」

 おぼんの上にブルーベリージャムが塗られた4枚切りのトーストが二皿載っている。スプーンとヨーグルトも用意されている。ちゃぶ台上に朝食を並べていたら、修二くんは両手にマグカップをひとつずつ持ってやってきた。

「いただきまーす」

 淹れたてのアロマを楽しむ。

「杏、ひさしぶりのコーヒー、おいしいね」

「何いってんの、昨日も飲んだじゃん」

 朝に飲み、昼にも飲み、午後も飲み、夕食でも飲んだと思う。飲み過ぎか?


 トーストを一口かじる。

「修二くん、私やっぱり結婚式したい」

「前はしないって、言ってたじゃん」

 夢の中で私は、それはそれは盛大な結婚式をやっていた。それも悪くはないけれど、ごくごく親しい人をまねいてこじんまりとするのもいいのではないだろうか。

「あのね、たとえばね、村の小さい教会でね……」

 修二くんはニコニコと話を聞いてくれる。


「まあそれはゆっくり考えようよ。博士課程、3年もあるんだし。それよりネリス、なんか言ってきてなかった?」

 修二くんが聞いてきた。スマホを修二くんに見せる。

「うん、なんか女子大がどーとか言ってた」

「そっか、ネリスが女子大ね」

 

 ネリス?


 私の脳裏に、夜見ていた夢がドバーっともどってきた。夢は結婚式だけなんかじゃ、ぜんぜん無かった。教会で生まれ、女学校に行って、戦争に巻き込まれて……


 いや、夢じゃない。結婚式の夜、私は夢の中でステファンと2人ルドルフの背中に乗り、宇宙を旅してブラックホールに飛び込んだのだ。


「もしかして、私達、戻ってきたんだ」

「そうだね、物理、できるよ」

「うん」

「やり残したことがあるって顔だね」

「うん、そうなんだよね」

 女子大は始まったばかりだった。やっと2期生の選考が終わったところだった。あの世界、研究には不自由で悪戦苦闘の連続だったけれど、自分たちで物理の歴史を作っているようで楽しかった。国家運営にも関わり、うまく行かないことも多かった。だけど人々の暮らしに私達なりに貢献できたと思う。その中で築いてきた人間関係は、地球では研究ばっかりで頭でっかちの私には無理だろう。それにルドルフは元気にしているだろうか?


 スマホに着信があった。真美ちゃんだった。

「聖女様、ワシの女子大を返せ!」

「いや、返せと言われても」

 スピーカーにしていたので、修二くんが笑いをこらえている。

 

 修二くんは自分のスマホを私に見せた。カサドンからSNSで連絡してきている。真美ちゃんが女子大女子大と騒いで困っている。だから私からなだめるように頼んでほしいとある。自分で直にたのめばいいのにと思った。いや、修二くん経由なら、私がより丁寧に対応するだろうと考えたのか。その判断は正しい。


 私はあっちでもこっちでも、修二くんといっしょならそれでいい。のぞみと優花もそうだろう。でも真美ちゃんは修士を卒業するとカサドンと遠距離になる。それにあっちで女子大生をやるのをとっても楽しみにしていた。スマホの向こうで一方的に喚き散らしている。

 しょうがないので聞いてみた。

「あのさネリス、だったら向こう戻る?」



第4部につづく

みなさんここまでお読みいただきありがとうございました。


というわけで、杏たちはこちらへ戻ってきてしまいました。ですから第4部は、地球での物語になります。とりあえず1月5日に開始予定です。ただ、今までのように毎日更新はちょっと難しいと思います。のんびりとお待ちいただけると幸いです。


繰り返しになりますが、ありがとうございました。

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