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第121話 警備計画

「聖女様、もうこうなったら4組いっぺんに結婚式なさったらどうですか?」

 私達の気軽な会話を聞いていたレギーナが提案した。


 なんか楽しそうな話である。


「みなさんとても仲が良いでしょう。それで結婚が後とか先とか、くだらないですよ。いっそ一緒の結婚式にしてしまえば皆さん同時にゴール、いいんじゃないですか?」

「うん、それいい。フローラ、ヘレン、ネリス、一緒にやろう!」

「あ、うん」

「う、うん」

「う、うむ」

「みんないいよね、よし、決まり!」

 それを聞いたレギーナは、

「では早速そういう方向で、私は各方面と交渉いたします」

と言って、足音も高らかに立ち去った。


 フローラが渋い顔をしている。

「あのさ、私、OKしたわけじゃないよ」

「え、ちがうの? うんって言ったじゃん」

「単なる相槌だよ」

「そうなの? ヘレン、ネリス、あんたたちは?」

「うん、まだ心の準備が」

「そうじゃ、マルスの意思も確かめんと」

「そっか、なんか私だけ舞い上がっちゃって、残念。ごめんね」

 高揚していた気持ちは、一気に下がっていった。

 なんか騎士団の食堂も、いつもより静かである。


「聖女様、そんながっかりしないでよ。多分もう、一緒の結婚式は避けられないよ」

 フローラが言い出した。

「だけどあんたたちの意思が……」

「私は別に、反対というわけではないよ。急な話でとまどっているだけだよ」

「そうなの?」

 私が視線をヘレンとネリスに向けると、二人もうなずく。

「じゃあ8人でちゃんと話し合って決めよう」

 私がまとめるように言うとヘレンは、

「ま、フィリップは私がなんとかするよ」

と言うしネリスも、

「うむ、マルスは反対せんじゃろう」

とのことだ。

「ケネスは?」

とフローラに聞いたら、

「うん、説得する」

と言う。

「そっか、ありがと。っていうか、楽しみ」

「うん、楽しみ」

「そうだね」

「じゃな」


 後で少し反省した。私自身、レギーナの言葉を聞いてちょっと暴走していたと思う。ステファンの意見を聞いてみた。

「うん、悪い話じゃないと思うけど、なんか裏がありそうだな」

「裏?」

「うん、あのね、例えばフローラが結婚式するとするだろ、アンは当然出席するよね」

「するね、絶対」

「だとすると、警備はえらいことになる」

「そっか」

「それが3回だよ、騎士団としては僕達も含めて全部いっしょにしたいんじゃないかな」

「レギーナじゃなくて?」

「うん、もしかしてすでに、結構話し合われてたんじゃないかな」

「一応私、団長でもあるんですけど」

「ははは、池田先生に隠れてなにか画策したことくらい、あるだろ?」


 それはそうである。仕事というものは、言われたことをやるだけではない。研究もそうだ。指導教官の指示する研究は当然行うが、一人前の研究者は自分で研究テーマを見つけられるべきだ。だから私は先生たちに隠れて調べ物をしたり計算をしたりしていた。反強磁性体の低温での振る舞いをコンピュータシミュレーションしようとして、ひと夏コンピュータをぶん回していたこともある。「こんなことがわかりました」と言って、池田先生をぎゃふんと言わせようとけっこうがんばった。

 だからレギーナも、ありとあらゆる事態を自分で想定していたのだろう。


 副官のソニアに聞いてみた。

「ソニア、私の結婚式について仲間たちと一緒にしたらってレギーナに言われたんだけど、どう思う?」

「ええ、騎士団としては警備体制について研究済みです」

「そう、よくやったわ」

 口では褒めておいたが、これは知らないうちにやられてしまったいら立ちを面に出すわけに行かず、ごまかしていただけにすぎない。

「聖女様、口、とんがっていらっしゃいますよ」

 バレてた。

「だけど、あの3人が同意するとは限らないですが」

「大丈夫です。男性たちを落とします」

「そっちの研究もすすんでるの?」

「もちろんです」

「一番手ごわそうなのは?」

「マルス殿ですね」

「そうなの?」

「身分は低いですが、しっかりした方ですよ。まあ聖女様に説得されたら」

「じゃ、一番弱そうなのは?」

 ソニアが笑い出した。

「そんなのフィリップ殿に決まってるでしょう」

「それ、ヘレンに言っちゃだめよ」

「承知しております」

「私いるけど?」

 振り返ると真後ろにヘレンがいた。


 私はその警備計画について気になったので、詳細をソニアに聞いてみた。

「それでしたら、警備計画書をお持ちします」

 ソニアは一旦さがり、しばらくして分厚い冊子を持ってきた。

「まだ計画段階ですので、変更はいろいろとあると思います。あと当然のことですが極秘ですので、今この場で見るだけにしてください」

「わかりました」


 冊子をひらくと、タイムテーブルから始まり、基本的な部隊配置、私たち女子4人男子4人それぞれの動き、要人たちの動きなどがとても細かく記載されている。これはソニアが思いついてやってみたというレベルではなく、かなり以前の段階から国王陛下から研究要請があったと見るべきである。警備計画書とはなっているが、実質的に結婚式全体の計画書になってしまっている。宮廷教会や近衛騎士団など関係各所と連携の上で作成したと見るべきだ。

 さらには式のあとの晩餐会、さらには初夜の部屋割り、警備体制まできまっている。

 私はソニアに言った。

「つまりはとっくの昔に全て決まっていて、知らなかったのは当事者だけということですか」

「まあそういうことですね」

「あとは時期の問題だけだったと」

「そうですね、でもさすがにこんなに早いとは思いませんでした」

「そう、でもちゃんとやっておいてくれて、よかったわ」

「ありがとうございます」

「これは団長としてではなく、友人として言うけれど、よくやってくれました。ありがとう」

「きっといい式になると思います」

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