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第119話 国王陛下の願い

 国王陛下に姫殿下ご誕生の報告、そして命名についてもお話できたので、私としてはひと仕事終わった気でいた。迅速に女子大に戻り、研究と仕事に戻りたいところだ。陛下が退出されたので謁見の間を後にしようとしたら、女官が一人、私のもとにやってきた。

「聖女様、ステファン殿下とお二人、陛下が夕食をご一緒したいとおっしゃっているのですが」

「二人だけですか?」

「はい、お二人だそうです」

「ステファン、どうする?」

「うん、まあ応じといたほうがいいんじゃない?」

「わかった」

 ということで女官には承諾した旨伝える。


「じゃあさ、私ら先行ってるわ」

 フローラに声をかけられる。

「うん、ごめんね」

「何言ってんの。家族のお話なんだと思うよ」

「そ、そうかな?」

「うん、いいことだと思うよ」

「ありがと」

 仲間たちは皆、暖かい笑顔で去っていった。


 食事までの間、私達は王宮のステファンの部屋に通された。

「なんか緊張する」

 初めて修二くんのお家にお邪魔したときを思い出した。

「アンは僕の部屋初めてだっけ?」

「うん、なんかうれしい」

「ちらかってますけど」

 そんなわけないので、冗談とわかり笑いが漏れる。

 先の戦争後、私は定期的にステファンに会っていたが、通された部屋は面会用の部屋であり、ステファンの私室ではなかったのだ。


 ステファンの部屋は二間続きで、応接室と寝室に分かれている。落ち着いた色調である。応接セットのソファーに腰掛けると、メイドがお茶とお菓子を持ってきてくれた。

「ありがとうございます」

と礼を言うと、

「奥様、必要なものはなんなりとお言付けください」

などと嬉しいことを言ってくれる。

 しばらくお茶を楽しんだあと、ステファンに頼んでみた。

「寝室、見せてくれない?」

「え、いや、なんか恥ずかしいなぁ」

「そう? ステファンの育ったところ、見たい」

 軟禁されていたところとは、ちょっと言えない。


 ステファンがドアを開けてくれたので、早速入らせてもらう。


 窓の近くにベッドが置いてあり、朝目が覚めたらすぐに天候がわかるだろう。

 本棚があり、算術の本が多い。

 机がある。ステファンはここで一人勉強していたかと思うと、ちょっと泣きたくなる。

 ベッドサイドには棚があり、なにか飾ってある。近づくと、聖女室売店で売られている私の肖像画だった。

 振り返るとステファンが恥ずかしそうにしている。

「つらいとき、その絵にとても助けられたよ」

 私はその言葉に反応して、ステファンに抱きついてしまった。

「もう離れたくない」

「もう離したくない」


 そのままベッドに倒れ込まなかったのは、私にしろステファンにしろ、褒められていいと思う。


 応接室への扉は開けられたままになっていたので、隣の物音で我に返った。

「向こうへもどろうか」

 ステファンが優しく言うので、うなずく。

 ステファンは体を離したが、手を取って引っ張ってくれる。

 そのまま手を繋いだまま、応接室のソファに並んで座った。


「私、幸せだわ」

「僕もだよ」

「多分、今までで一番幸せ」


 脳が停止した甘い時間を堪能していたら、女官が来た。

「お食事の用意ができました」


 立ち上がるとき、ステファンは私の手を離した。残念に思っていたら、ステファンは腕を曲げて私の横に立った。ステファンの意図がわかり、その腕をとる。


 驚いたことに、その夜の食事は普通だった。ごちそうでなく、私がいつも食べているものと似たようなものだ。食べ始めてしばらくして、その意味がわかった。陛下はもう私を家族として扱っているということだ。自然と笑みがこぼれる。傍目から見たらキモかったかもしれない。

 話題はほとんど、ステラ妃のことだった。陛下も王妃殿下もジジバカ・バババカ丸出しである。私は多分、オババカである。だってとにかく、かわいいのだ。


 デザートが出て、お茶が出た。すると陛下がちょっと改まった感じになった。

「聖女アン、これはあくまで王としての願いで、命ずることではない。また、そなたの気に沿わなぬことかもしれない」

 私はちょっと緊張した。

「生まれてきたのが王子であればそれでよかったのだが、残念というわけでは全く無いのだが、王女だった」

「はい、でも次はまた、わかりませんから」

「うむ、まあそうだし、ステラが女王になっても、それはそれでかまわないのだが」

 王位継承の問題らしい。私はあんまり関係ないので、気楽に応じた。

「ステラ姫ならば、すばらしい王配を迎えることも可能でしょう」

「うむ、それはそれでよいのだ。だが、王としては、継承できる者はある程度の人数が欲しい」

「そのお気持ちは理解できます。陛下」

 そうは言ったが、私はなぜ私にこの話をしているのか理解できなかった。

「それでだ、聖女アン、大変言いにくいのだが」

「はい」

「聖女さえ問題なければ、ステファンとの婚儀、なるべく早めてもらえないだろうか」

「全然問題ありません」

 即答する私に驚いたように、王妃殿下がおっしゃった。

「迷わないのですね」

「はい、なんなら明日、式でもかまいません。必要なら今夜このままでも大丈夫です」

「ア、アン。いくらなんでも」

「ステファンは嫌なの?」

「いや、そんなことはないけど、心の準備が」

 陛下が大笑いされた。

「聖女アン、女子大とか研究とか、それらができてからということになるかと思っていたのだが」

「お言葉ですが陛下、私は結婚・出産・子育てと仕事をどう両立するか、それがこれからのノルトラントの女性に大事なことだと考えております。私自身がそれに挑戦するのに、まったく躊躇はありません」

「そうか、そうか、そうであるか。ただ式はちゃんとやるぞ。国の大事な行事だ」

「私は二人だけでもいいのですが」

「いやいや、国民にも祝う機会を与えてやってくれ」

「はい、陛下」

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