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第118話 陛下への報告

 王都での仕事をほったらかしにできない私は、ステラ姫とヴェローニカ様のご様子を診たあと、すぐに離宮から王都へ戻った。もちろん、母子ともに健康である。


 馬車が出発したところで、フローラが言い出した。

「母子ともに健康、よかったわよね」

「そうだね、私はあんまり心配してなかったけどね」

「ほんとに?」

「うん、だって、ヴェローニカ様だよ」

 それを聞いたネリスは、

「うむ、そうじゃな。まだワシでも勝てんからな」

などという。それを聞いたステファンは、

「そりゃそうだろう。剣の腕はそうそう追いつけないだろ」

と言う。ネリスは、

「うむ、剣だけではないのじゃ」

「なにそれ?」

「うむ、くすぐり対決で、まだ勝てたことがないのじゃ」

「なにやってんだよ」

 この世界では完全に高齢出産であったし初産でもあったから医師たちはそれなりに心配していた。これについてはヴェローニカ様が失礼ながら年齢にも関わらず、体力に優れていたのがよかったのだろう。


 話題を変える必要性を感じたのか、ヘレンが口を挟む。

「まあとにかくよかったよ、こっちの世界じゃ完全に高齢出産だからね」

 ネリスが答える。

「そうじゃな、医師たちはそれなりに警戒しておったからな。体力が勝ったのじゃろう」

 私はちょっと気になったことがあった。

「あのさ、私達女子大なんか作っちゃったけど、そのせいで晩婚化、出産年齢の上昇が起こっちゃうかな」

 フローラの意見は、

「うーん、卒業生に関してはそうかもしれないけど、全女性の人口に対して大した割合じゃないからね」

とのことだった。しかしネリスは、

「そうは言っても、じわじわと女性の社会進出がすすみ、結局そうなるかもしれんぞ」

と言う。たしかにそれはそうである。

「じゃあ、あらかじめ法整備とか打てる手は打っておくべきか」

 私はそうは言ったが、何をどうすればよいかまったくわからない。

「まあ私ら、そんなことそっちのけで研究三昧だったからなあ。だれかのおかげで」

 ヘレンがちらっとこっちを見ながら言う。これは札幌のことだろう。対抗上、私はコメントしておく。

「私はちゃんと、恋愛してたからね」

 するとマルスが、

「まああれも、恋愛っちゃあ恋愛っすね」

などと言う。

「いやいやしっかり恋愛でしょう」

「周りから見てたらそうですよ、でも、自覚したの遅かったんじゃないですか?」

「遅かったんじゃないよ、自然とそうなったんだよ」

「へー」

「ふーん」

「ものは言いようだね」

 皆口々に、私を非難すると言うかからかうと言うか、微妙な反応である。

「まあとにかく、事実としては私が一番、ゴール早かったんだからね」


 そうなのだ。たしかに私は奥手だったし、自分の感情に気付くのにも時間がかかった。だけど、なんと大学院の1年目の冬には入籍していたのである。


「それはそうですけど、きっかけがなければ、あのままずるずると行っちゃってたんじゃないすか」

 マルスは辛辣なことを言う。確かにあの頃、私は自分から告白するなんて気にはぜんぜんなってなかった。修二くんが札幌から離れるという話を聞いたとき、もう自分の感情をコントロールできなかった。そうではあるけれど、むかついたので言い返す。

「いいのよ。結果がすべてよ。それにあんた、あんたのために私だって頑張ったんだからね」

「はい、すみません」


 勝った。


 勝ち誇る私の前で、ちょっとマルスは小さくなっていた。後輩のくせに逆らうからいけないのである。ネリスが慰めている。

「うむマルス、マルスは悪くないぞよ。こっちの世界では、ワシらが勝てばよいのじゃ」

「そ、そうっすね」

「うむ、安心せい」

「で、いつごろ」

「ワシが女子大を卒業してからじゃな」

「随分先じゃないすか?」

「うむ、いざとなったら学生結婚じゃ」

「いいっすね」


 くだらない話をしていたらいつの間にか王都に入り、やがて王宮に到着した。


 謁見の間に通される。私達の到着をあらかじめ知らせておいたから、謁見の間にはかなりの人が集まっていた。私の到着を告げる声が響き、ざわついていた人々が定位置に着き、自動的に私達が通る道ができた。

 皆、私とステファンに挨拶するので私達も左右に挨拶を返しながら進む。何と言っても王室の慶事であるから全員の表情は明るい。生まれてきたのは姫君であるが、王太子妃に子を産む能力があることが証明できたのだ。いずれ男の子も生まれるだろう。


 陛下は王妃殿下を伴ってすぐに入室された。


 一同跪く。


「聖女アン、面をお上げください。また、皆のもの、めでたい席である。楽な姿勢でよい」

 一同が立ち上がる物音がする。

「聖女アン、離宮の往復、大義でした。お疲れとは思うが、まずは様子をお聞かせ願えないか」

 正式な場なので、陛下も聖女に対する礼をきちんととられている。私もきちんとしないといけない。

「陛下、姫君のお誕生でございます。おめでとうございます」

「うむ」

「母子ともに、健康でございます。ご安心ください」

「そうか、それはよかった」

 謁見の間に声にならない声が満ちた。

「それで聖女アン、名付け親になるようミハエルを通して頼んでいたと思うのだが」

「はい、承知しております、陛下」

「それで名は決まったのでしょうか」

「ミハエル殿下、ヴェローニカ妃殿下にはお伝えしましたが、陛下の許可を得ておりません」

「聖女の名付けに、余が異議を唱えることなどない。教えてもらえないか」

「はい、ステラ、と名付けました」

「ステラか、良い名であるな」

「はい陛下、我が国に生まれた、新しい星と存じます」

「皆のもの、姫の名はステラである」

 国王陛下が宣言なさったので、これで名前はステラが正式決定となった。

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