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第111話 質問タイム

 オリエンテーションの日のステファンは、ネリスが予科の学生たちに私の秘密をバラすのを聞きに行った。あとで私はステファンに聞いた。

「ステファン、なんでネリスの話聞きに行ったのよ」

「いやあ、間違いとか誇張があってはいけないと思ってね。ちゃんと訂正・修正しておいた」

「で、なんの話?」

「え、いやぁ、いい話だったよ。うん」

 頭にきたのでその夜私はネリスと同衾し、くすぐりの刑を与えることにしたのだが返り討ちにあってしまった。騎士団長としてこのままではいけないので、いずれ知恵を絞って仕返しをしようと決意する。


 それはともかく、女子大の授業が始まった。当然のことながらまだ1年生しかいないから、教養科目が中心になる。私は数学担当である。実数の微積分と統計分野を1年かけてしっかり教える予定だ。神・理・法の3学部と予科の合計4つの授業を担当する。私は騎士団と聖女の仕事があるのでそれで限界のようだ。私はもっと授業を担当したかったが、ストップがかかった。フローラ、ヘレン、ネリスの3人はチームで学生実験担当である。法学部でも神学部でも1年時は実験を行う。その他授業はステファン、フィリップ、ケネス、マルスにも担当してもらっているし、神学部と法学部の専門科目には宮廷からルドルフ神官長、エミリア女官長も来てもらった。人が足りないからネリーにも頼んだし、王立神学校、王立高等学校の教官にも応援を頼んで一応体裁は保ってある。体育はもちろん第三騎士団で行う。


 私の最初の授業は予科だった。予科だけはさすがに内容を変え、最初の授業では女子大の入試問題そのものをとりあげた。

「基本的にみなさんは合格点に遠く及ばなかったわけではありませんし、みなさんの中には入試後に問題を解き直した方もいらっしゃるでしょう。ですが入試問題というのは、明確に出題側に出題意図があります。要するにこういう処理ができてほしい、こういう考え方ができる人がほしいという学校側から受験者側へのメッセージでもあるわけです。ですから予科の授業の最初に出題意図を明らかにすることは、みなさんの学習に役に立つと思います。各自、自身の足りていないところを自覚し、この1年間の学習の出発点としてください」

 この話が効いたのか、予科の生徒は熱心に授業を聞いてくれたし、授業後に生徒が何人も来て質問をしてくれた。


 2週ほど授業を行ったところ、なんだかヘレンの機嫌が悪い気がしてきた。

「ヘレン、なんかあった」

「なんで?」

「なんか機嫌悪いっぽい」

「うーん、ま、イライラしてるっちゃあしてるけど、聖女様は悪くはない」

「悪くはって、何」

「いや、なんでもない」

「ちょっと待ってよ、私がなんか悪いことしてるみたいじゃん」

「悪いことはしてない」

「どういうことよ」

「いや、いい」

 ヘレンはすっと席を外して行ってしまった。

「ねぇフローラ、ネリス、私ヘレンになんか悪い事した?」

「うん、ヘレンに直接はしてないな」

 ふたりとも妙に歯切れが悪い。


 気になったのでネリーに聞いてみた。

「なんかね、ヘレンが私に思うところがあるみたいなんですよ」

「そうですか、まあそうですね。でもある意味奥様は悪くないので気にしなくてもいいのではないですか?」

「どういうことでしょう?」

「私の口からはなんとも」

 こっちのルートはだめらしい。


 レギーナにも聞いてみる。

「私としては、御本人が話したくないのならばお答えできません」


 ステファンに聞いてみたら、

「ああ、気にしなくていいよ。フィリップがなんとかするだろう」

という。ケネスも同様である。こうなるともう、一番口が固くないのはマルスだろう。

「マルス、最近ヘレンの態度がへんなんだけどさ、あんたなんか知らない?」

「知りません」

「ほんとかなあ」

「知ってても知りません」

「やっぱ知ってるんだ」

 マルスは私に詰められ、苦悶の表情を浮かべた。

「マルス、言え」

 私はつい、下品な言葉遣いになってしまった。ただそれに観念したのか、マルスは話し始めた。

「もとはと言えば、聖女様がいけないんですよ」

「どういうことよ」

「授業が難しいんですよ」

「はあ? 質問とかには答えてるよ」

「それがですね、学生の中には復習して、それから質問しようとする人もいるんですよ。そういう人が質問しようとしても聖女様忙しいじゃないですか。だから手の空いてる人のとこ行くわけですよ」

「……」

「それでまた、ヘレン先輩もネリス先輩もフローラ先輩も忙しいわけじゃないですか。一応聖女様の警護役でもあるし」

「……」

「で、まあプラプラしてるフィリップ先輩のとこへ行くわけですよ、学生たちは」

「……」

「まあフィリップ先輩もいけないんですけどね、嬉しそうに質問に答えてるわけですから」

「あんたとかのとこには来ないの?」

「来ますよ。ただステファン先輩はガードがガッチリ付いてるし、ケネス先輩は逃げ腰です。僕の場合はネリス先輩が干渉してきます」

「フィリップに注意するか」

「だめでしょ。フィリップ先輩も善意で答えてるわけですし」

「じゃあどうすりゃいいの」

「そりゃあもう、聖女様が時間作って学生の面倒見るしか無いんじゃないですかね」

「わかった」


 そういうわけで、私はなんとか公務の時間を詰めて夕食前に騎士団の食堂に顔を出すことにした。最初に通いの学生の質問に答え、夕食を学生たちと一緒にとってそのあと寮生たちの質問に答えることにした。私だけでなく仲間たちにも手が空いている限り参加してもらって、私が忙しいときにも誰かしら質問に答えられるような体制をつくった。予定通りというかなんというかステファンに質問を希望する学生が続出して、ヘレンの気持ちがよくわかった。

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