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第110話 オリエンテーションオリエンテーリング

 入学式の翌日はオリエンテーションである。以前にオリエンテーションの内容について会議しているときのことだ。私はなんとなく「なんかつまらんね」と呟いた。それにヘレンが文句を言った。

「オリエンテーリングなんてそんなもんでしょ。各種注意事項を伝えたり、施設巡りとかしてさ」

 するとネリスが言った。

「ヘレン、オリエンテーリングじゃなくてオリエンテーションじゃ」

「そっか、なんかややこしいよね」

 沈黙が訪れたが、フィリップが言い出した。

「オリエンテーリング、いいんじゃない?」


 フィリップの意見の要旨は、女子大や第三騎士団の各所を訪れることで施設案内ができる。さらにグループ分けして所要時間を競わせることで仲間意識をつくらせる。どうしても女学校での知り合い同士でかたまるだろうから、それを分散させ、地方出身者も早くなじませるのにはゲーム性があったほうがいいだろうとのことだ。


 具体的には、4人一組でチームを作る。その4人は同じ学部で構成する。予科の学生にも参加してもらう。チームごとのタイムを競い、上位にはお菓子とか購買部で使えるチケットとかの賞品を与える。さらに学部対抗戦も行う。これは学部ごとの合計タイムを競う。予科だけ定員が多いので不利になるので、係数をかけて調整する。なお、神学部の大将は私、理学部はフローラ、神学部はフローラ、法学部はヘレンが務める。ネリスは予科の大将だ。学部対抗戦の賞品はケーキで、大将も食べる権利を有する。

 チェックポイントは騎士団・女子大内に散りばめた。あまりむずかしくはしなかった。一日中遊んでいるわけにも行かないからだ。


 スタート・ゴールは練兵場のど真ん中にした。スタートを前に、私は神学部の学生を前に激励の演説をした。

「皆さん、このオリエンテーリングの目的は学内の地理に明るくなると同時に、同期の学生の人となりを知り、協力することによって絆を深めてもらうことです。ですから、チーム間で探索エリアの手分けとか情報共有とか、自由にやってください」

 隣でフローラが理学部の学生を前に喋っていたが、私の言葉を聞きつけた。

「今聞いた? 聖女様はなんかずるいことを企んでる。絶対負けちゃダメよ。ズルさえしなければ、手段は選ばなくていいから」

 今度はヘレンがヒートアップしだした。

「気をつけないと、聖女様は食い意地が汚いからケーキ取られるよ! みんなケーキ食べたいよね!」

 ネリスはネリスで興奮している。

「予科生の意地を見せい! 学部に打ち勝ったら、聖女様の秘密を教えるぞよ!」


 砂時計を使って時間差で少しずつスタートさせたのだが、最初のチームがいきなりダッシュを始め、あとのチームもすべて走ってスタートしてしまった。


 全チームがスタートしたところで私は抗議した。

「ヘレン、私は食い意地が汚くない!」

「ほんとに? いい切れる自信ある?」

「あとネリス、私のなんの秘密を教えるの?」

「それこそ秘密じゃ。それより神学部が勝てば大丈夫じゃろ」

「二人ともひどいじゃん、ねぇフローラ」

「いやいや、聖女様が情報共有とか余計な知恵をつけて勝たせようとするからよ」


 とにかく私達はそのままその位置に陣取り、お茶を飲みながらあっちへ行ったりこっちへ行ったりする学生たちを眺めてゴールを待った。それから例の子連れの新入生だが、その子どもはとりあえず私達が預かっていた。ネリーが私達のことをほったらかしにして、ずっとべったりくっついている。ネリーは母性を強く刺激されたようだ。

 私は小声でヘレンに聞いた。

「ネリーってさ、未婚よね」

「だよ」

「お相手とかどうなってるのかな」

「私からは言えない」

 これは余計なことは言うなという意味だろう。そうは言われても気になる。だれかに調べてもらおうか。ヘレンが睨んでくるので、例によって思考が読まれているのがわかり、これについては今考えるのをやめた。


 参加者は無事昼前に全員ゴールし、昼食後に結果発表をした。

 学部優勝は予科だった。私の秘密を教えるというネリスの話が効果があったのかもしれない。4人ずつのチームについては、1位にオクタヴィア姫のいるチーム、2位にカトリーヌさんがいるチームが入った。わざわざ外国から来ただけ気合が入っているのだろう。また2人共すでに仲良くチームに溶け込めているように見えた。

 そして30代の新入生マヌエラは、下位になってしまい悔しそうな顔をしていた。40代のコーネリアはおどろいたことに頭脳だけでなく体力でもチームを引っ張っていたようで、チーム員達は彼女を中心に楽しそうにしていた。


 結果発表後、ネリスが号令をかけた。

「予科の生徒、しゅーごー!」

 何事かと思ったが、あの笑顔はエロオヤジの笑顔である。間違いなく私の秘密をバラす気だ。

「ネリス、だめよ!」

 止めようと思ったのだが、マルスに「まあまあ」と止められた。「あんたはネリスの奴隷か!」と怒ったのだが、ネリスのほうが怖いらしい。ヘレンやフローラもやっぱり「まあまあ」と私を止めた。ネリスが予科の学生を連れて私達から距離を取ろうとしている。

「よし、俺も聞いてこよう」

とフィリップが行こうとしたのでステファンが、

「だめだフィリップ、僕が止めてくるよ」

と歩いていった。警護のマリカとカリーナがあわててついて行く。


 ムカついたのでネリスの行った方は見ないようにしてお茶を飲んでいた。お茶を一杯飲み終わってもステファンが帰ってこない。おかしいと思ってそっちを向くと、ステファンは予科の生徒に混じってネリスの話を聞いていた。

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