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第106話 選考会議

 一晩スッキリ寝れた。多分連日の面接の疲れが溜まってきていたのだろうと思う。もう一息である。往復の時間を考慮して女学校の寮に泊まる案もあった。しかし第三騎士団や聖女庁にも待ったなしの業務が少しはあるし、下手なことをするとひと晩中受験生のことを考えてしまいそうで、第三騎士団に毎日寝に帰っていた。


 ソニアを女子大の入試に借りてしまっているので、朝食を取りながらレギーナの報告を二人で聞く。

「ソニア様が不在なので、団員皆のびのびと勤務しております」

 確かにソニアは副官として優秀で細かいところによく気がつく。それだけに煙たがれるところもあるのだろう。当のソニアはニヤッとしていた。


 馬車で女学校に向かう。合否の会議には昨日まで面接官に加わってもらっていた助っ人の方々に加え、女学校のアレクサンドラ校長にも出席してもらうことになっている。おまたせするわけにはいかないので早めに騎士団を出発する。


 騎士団から馬車で外に出ると、建設の始まった女子大と聖女庁の工事現場が見える。今は荒涼とした場所だが、何年かで若い女性や聖なる仕事につく女性が溢れる地域になるのだろう。

「ここが女性の活躍する中心地になるんだろうね」

 ステファンがボソッと言う。そのとおりである。

「そうだよ、そしてここを巣立った女性が国中で活躍していって欲しい」

 私が応えるとステファンがさらに言う。

「そのためには、国中で出産・子育ての支援をしなければならないな」

「女子大と聖女庁はその支援する仕組みはまだないね」

「じゃあ、なんか考えなければいけないだろう」

「どうしよう」

「うーん、正解はそう簡単に見つからないだろう。とりあえず聖女庁に子育て中の女性を迎え、その支援から始めたらどうかな」

「うん、考えてみる」

「あとはさ、ネリーに相談してみたら? 彼女なら子育てとの両立に悩む働く女性を知っているんじゃないか?」

「そうだね、それにしてもステファン、この問題に詳しそうだね」

「そりゃそうだよ。どうやって二人で暮らしながら物理を続くていくか、僕なりに考えてたんだから」


 私は言葉を失った。前の世界で、私は大好きな修二くんと大好きな物理に、ただただ突撃していた。修二くんはあの頃も今も、そんな私をあたたかな笑顔で受け止めてくれている。そしてその笑顔の裏で、私が動きやすいようにだまって考えてくれている。


 私は彼との暮らしを守るため、なにか努力をしてきたのだろうか。眼の前にあるものに飛びついて来ただけな気がしてならない。私も、私自身も、彼と私の幸せを守るために、積極的に行動していかなければならない。彼の努力だけに甘えているわけにはいかない。


 では何ができるのか。


 わからない。


 ただただ、ステファンの顔を見ながらどうすればいいか考えていた。


 馬車は王都に入った。


「アン、慌てることはないよ。今の僕達は恵まれた環境にいる。できることを一つ一つやっていこう」

 私の考えを理解してくれているステファンの言葉に涙が出そうになる。馬車の周りに民衆がいなければ、私は彼の胸で泣いていただろう。

「ステファン、私決めた。女子大の志願者の願書全部、もう一度読み直してみる。私みたいに学問に集中している人も大事だけど、女性の地位向上に前向きな人をぜひ、入学させたい。それは年齢とか現職とか、関係ない」

「そうだね、それはみんなの願いでもあるよ」


 私は強くなければならない。私が弱かったら、これからの困難に立ち向かう女性たちに勇気を与えることができない。自然と背筋が伸び、馬車の窓から見える人たちに笑顔を見せる。


「あのさ、僕の前では弱いとこ見せてくれていいんだからね。ていうか、僕は見たいかな?」


 そういうわけで女学校に早めに着いた私は受験生全員の願書を出してもらい、もう一度読み始めた。さらにテストの答案、面接の結果についても読み込んでいく。

 しばらくしたら、まずルドルフ神官長が現れた。つづけてアレクサンドラ先生とジャンヌ様、マリアンヌ様も姿を見せる。

「あら、おまたせしてしまって、申し訳ありません」

 アレクサンドラ先生が謝るのを私は、

「いえ、こちらが早く来ていただけですから」

と遮った。


 一同着席したところで、私は起立し話を始めた。

「皆さんお忙しいところありがとうございます。それではノルトラント国立女子大学の第一期生について、選考会議を始めたいと思います。それで選考の方法ですが、まずテストの採点結果の高得点者について、調査書・面接に問題がなければ合格としたいと思います。つぎに合格・不合格の境目付近の受験者については、面接の高得点者を優遇したいと思います。とくに理学部については、多少テストの点が低くとも、補習でなんとかできる範囲であれば合格としたいと思います」

 これは事前に伝えていたとおりだから、異論は出ない。

「なお、面接で高得点でありながら、補習授業では無理という場合、1年間予科に通うことでなんとかなる範囲であれば、予科合格としてください」

 これも問題はない。私は続けて、

「面接で低得点である場合ですが、それが年齢や職業など個人的事情であるならば、得点を再考していただきたいと思います」

と伝えた。

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