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第1話 プロローグ

聖女様の物理学 第三部 開始です。


シリーズが初めての方、今回の後半に登場人物の紹介を入れました。

よろしくおねがいたします。

 今朝も第三騎士団内に作られた自室で目を覚ました。窓からは騎士団の練兵場に植えられた木々が初夏のまだ色の薄い葉を茂らせ風に揺れているのが見える。北国のノルトラントは夏の間日が長い。つまり朝も早い。風で揺れるカーテンから漏れる光で目が覚めてしまったらしい。


 私はベルムバッハのアン、まだ十五歳だがこの国の聖女だ。騎士でないのに第三騎士団にいるのは、第三騎士団が女騎士団であり、いつも私の身辺警護をしてくれているからだ。

 自室にはベッドが四つもあるが、私用意外はフローラ、ヘレン、ネリスのベッドだ。ベッドは4つだが、大抵一晩に使われるのは2つ、せいぜい3つで、だれかがだれかのベッドに潜って2人ずつ寝ていることが多い。

 昨夜も私はフローラのベッドに潜り込んでいていた。フローラの寝具に自分の抜けた穴があいていて、フローラが寒そうに体を丸めている。


 最近は平和な日々を満喫できている。窓から初夏の景色を見ながら最近の出来事を思い出す。

 春のうちに隣国ヴァルトラントとの戦争が終わり、和平交渉など難しいことは政治家に任せていた。聖女として私が和平の条件に注文をつけたのはただ一点、ヴァルトラントにあまり高い賠償金を求めないことだ。

 それでなくても不作続きで国民生活に支障をきたしていたヴァルトラントだ。もちろんノルトラントが受けた被害については補償してもらわなければならないが、それ以上のことをすると長期にわたってヴァルトラントの財政のみならず経済に悪影響がある。

 先日国王の前で開かれた会議で私がその点を主張したところ、予想通り多くの貴族達は難色を示した。

 最初に私は、第一騎士団から得たヴァルトラントの財政事情、経済力などの数字から、現実にヴァルトラントが払えそうな金額を明示した。また、ヴァルトラントが使ってしまっただろう戦費、外国からの借入、食料輸入のためにこれから必要になる金額なども示した。

 それでも抵抗する貴族には、

「あなたの領地から何名ヘルムスブルクに兵を出しましたか。戦死者は?」

と言うと、皆黙った。そんな文句を言う貴族は皆増援を出し渋っていたからである。そう問いかける自分は聖女であり、しかも十五の少女でありながら前線に出、負傷までしている。負傷した後も前線に出たり、ヘルムスブルク最後の防衛戦で直接戦闘に参加している。その私に「兵を出したか」と問われれば、貴族達も黙るしかないだろう。


 会議後フィリップに呼び止められた。

「もしかして聖女様って、ヴェルサイユ条約を念頭に話してた?」

 その通りである。第一次大戦後、敗戦国ドイツは賠償金の支払いに苦しみ、その苦しみが第二次大戦にもつながるらしい。高校で勉強したことがこんなところで役に立った。

「さすが聖女様だね」

とフィリップは褒めてくれたが、褒めて欲しいのはフィリップではなくステファン第二王子だ。ステファン第二王子はいっときのように軟禁されているわけではないが、私が自由に会えるような状況にはぜんぜんなっていない。せいぜい週に1回、みんなと一緒に会う程度だ。

 ただ、ちょこちょこと手紙が来るし、私も出す。日に日に宝物が増える気分だ。

 

 もう少しでこの国にも平和が訪れる。平和になり、聖女の業務を着々とやっていけばいずれステファン王子と結婚できるだろう。そしてみんなで、8人そろって元の世界に帰る。それが私の最終目標だ。

 その目標のために必要なのは、ブラックホールの研究だ。そのためにはこの世界の人々の知恵も借りたほうがいい。以前ネリスが言っていた。ネリスはこの国に女子大を作りたいと。

 

 私は政治には興味がない。でもこの国には貢献したい。ネリスの作る女子大で、まずこの国の女性の地位を高める。私達とこの国の優秀な女性たちの頭脳で、元の世界に帰る方法を見つけるのだ。

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

「うっかり異世界に転移してしまった理系女は今度こそ本物の聖女をめざす」の続編になります。

「うっかり……」をお読みいただいた方にはおわかりかと思いますが、「聖女様の物理学 第三部」になります。



登場人物について

アン(唐澤杏 旧姓神崎)

農村ベルムバッハの教会の子として生まれ、前聖女の推薦により8歳で王立女学校入学。卒業後すぐに聖女に就任するが自信がないので聖女の身分を隠して活動。隣国ノルトラントの侵攻を予測し、防衛戦にも活躍。戦争後聖女であることを公表。15歳。

前世では、超伝導現象に魅せられ川崎にある扶桑女子大で実験物理学を志すが挫折。理論物理学者を目指して札幌国際大学大学院に進学。大学時代に出会った唐澤修二と結婚するが、研究上の都合で別居生活を強いられる。性格は奥手で堅物。

修二と手を繋いでブラックホールに飛び込む夢を見て、そのせいで仲間を引き連れこちらの世界に転移してしまった。



ヘレン(緒方のぞみ)

農村ローデンの生まれ、前聖女の推薦により8歳で王立女学校入学。女官志望であったがアンの要請により女騎士として聖女アンの警護と補佐を行う。

前世では、杏と女子大の附属中からの親友。大学院は札幌国立大へ進学。合コンで出会った岩田明フィリップが恋人。専門は単結晶試料の作成。ボーイッシュでサバサバした性格。料理がうまく、真美から「ワシの妾」と認定されている。あだ名は「のぞみん」



フローラ(木下優花)

商業都市ネッセタールの大手商会の子として生まれ、前聖女の推薦により8歳で王立女学校入学。魔法師志望であったがアンの要請により女騎士として聖女アンの警護と補佐を行う。

前世では、杏と女子大の附属中からのもう一人の親友。大学院は扶桑女子大を選ぶ。大学時代に出会った村岡健太ケネスが恋人。専門は超強磁場を用いた物性実験。杏とのぞみに合コンで修二と明を紹介。かわいい見た目通り、女の子らしい気遣いができる。



ネリス(恩田真美)

地方都市マルクブールの生まれ、全聖女の推薦により8歳で王立女学校入学。女騎士志望で、アンの要請でめでたく女騎士になった。

前世では、千葉出身だが札幌国立大学大学院で杏たちに出会う。表面物性実験が専門。カサドンの好意を受け入れた。見た目も性格ものぞみとかぶり、札幌では一部男子から二人合わせて仁王様と呼ばれていた。通称「真美ちゃん」



ステファン(唐澤修二)

王国ノルトラントの第二王子。幼少時から各方面に実力を発揮し、8歳で王立中等学校に入学。王族なので首席卒業(実質は2位) 政争に巻き込まれ、長い軟禁生活を余儀なくされた。

前世では東京の帝国大学出身、杏と学問を追いかけ札幌へ。専門は低温物性実験。杏以上に生真面目、ある意味愚直。杏とは学生結婚した。杏が気に入ったぬいぐるみを買ってしまう癖がある。



フィリップ(岩田明)

ノルトハイム出身。全聖女の推薦により8歳で王立中等学校入学、2位で卒業したが本当は首席。アンたちと再開後は近衛騎士団で情報収集など政治活動に従事し、アンたちの活動を支えた。ノルトラントでもアンに無断で親衛隊を結成、勝手に隊長を名乗る。

前世では修二の大学からの親友。専門は宇宙論。親友の恋愛を応援するため札幌へ。勝手に聖女様親衛隊を結成し、のぞみんファンクラブもやらされる。頭脳明晰だが、軽薄な言動が多い。



ケネス(村岡健太)

フローラの幼馴染で職人の子。ネッセタールで鍛治職人の修行中、アン達に見出される。

前世では修二や明の友達。化学が専門。やや優花の尻にひかれぎみ。



マルス(笠井智樹)

少年兵としてグリースバッハ防衛戦に参戦。負傷しているところをアン達に治療される。

前世では札幌国立大学で、アンの研究室の一学年後輩。ムキムキマッチョ。なぜか男からナンパされることが多い。杏を先輩として慕うが、真美に好意を持つ。通称「カサドン」



ヴェローニカ

女騎士団である第三騎士団団長。アン達が女学校入学以来、なにかと面倒を見てくれている。気高く美しいアラサー。独身。

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