第一章(5) 奴隷の知識②
「そ、それで、私は、この方の身分証で生活をすればいいのよね?バレないかしら?」
「それなら心配ありません。没落した名家というのは恨みを募らせやすいため、大体の場合は都市から離れた山間部など左遷されます。見張りも常駐してますし、情報が知られることも少ないかと」
本当にバレないのだろうか?私自身、今まで勝手に身動きが取れなかったから、こういうことには慣れていなくて、カミラがこう言ってくれていても不安は募るばかりでした。
「他に聞いておきたいことはありますか?」
「え、えっと、私はメアリーという名前で、没落した名家の奴隷?ってことしかわかっていないの。他にも詳しく知りたいわ」
「まず、間違っていることとして、『没落した名家の奴隷』ではありません。その身分証はそうですが、実際の貴方様は『名家の十番目の妻』です」
「十番目ってことは、奴隷には変わりないのね」
「はい」
「そもそも奴隷って働けるの?」
今までの話を聞いていると、建物の外に出てとても働けるとは思えなかった。
「働けますよ。主人にお金を渡すことも奴隷の仕事のうちですからね。働くことも珍しくありません。すぐに居なくなりますけどね」
こ、怖い・・・・。
「だ、だけど、奴隷が働いている所にお客さんが来るのかしら?なかなか行きにくいと思うけれど?」
「どのお店でも奴隷が働いているのは当たりまえです。奴隷がいなければ、この国は成り立っていないかもしれません」
「え・・・・?」
「建物も御貴族様の着ていらっしゃるドレスも。どれも奴隷なしでは作られていません」
「そ、そうなの?」
「はい。ですから、奴隷の存在を知っていて、その方々に感謝を出来る人々は奴隷が働いていようと関係有りませんから」
「し、知らなかったわ・・・・」
「当然です。貴方様は国民目線を知らずにここまで生きてこられたのですから」
確かにそうだ。
普通の令嬢が知っているはずの知識すら知らない私が、普通の令嬢の知らない奴隷の話を知っている訳が無い。
たけど、知らなかったでは済まされないような、話を知らなかったことが、とても悔やまれてならなかった。
「奴隷は、売れるんです」
カミラは急にそう言った。