第一章(4) 奴隷の知識①
紙の空欄が全てなくなった後、カミラは歴史について話しだした。
「貴方様はこの国が一夫多妻制であることはご存知ですか?」
「え、ええ」
母が亡くなってすぐ、女の子を連れた女の人が家に来た時に、奥さんが一人ではないことを知ったから。
「妻を四人以上娶る方の場合、四人目以降は奴隷としている場合がほとんどです」
「よ、四人目以降?」
「はい。四人目の人からは奴隷としての立場ということですね」
三人目と四人目の間に差があるのね・・・・。
「これは暗黙のルールです」
暗黙のルール?よくわからないけれど、とりあえずルールなのね。
「奴隷の身分証は高値で質屋に入れられます」
「え?み、身分証?」
急に出てきた単語に驚きました。話は変わったのでしょうか?
「はい」
「質屋に入れられるって、身分証なんて大切なもの、手放してはいけないのではなくて?」
「奴隷には必要ないのです。出産もなければ、病院ですら行かせてもらえない身分ですから」
「え・・・・」
「奴隷になったその瞬間、奴隷となった人は、身分証も名も命も、自分の手には持っていないのです」
自分の命も、自分の手に持てない。そんな悲しいことが、現実に・・・・?
「ですから、時の止まったままの身分証が多いです」
「で、でも、その人がもし・・・」
亡くなっていたら。
その言葉は言えなかった。
「大丈夫です。生きているときのまま、身分証は止まっています。奴隷の死亡届けなど、誰も出しません。葬式ですら行われません」
「そ、そんなこと・・・・」
母の時のお葬式は執り行われた。誰も来てくれなかったけれど、それでも私自身きちんと別れの挨拶をさせてもらえたから、それで良かった。そんなお葬式が行われないなんて。
「奴隷には、そんな悲しい末路しかないんです」
そう教えてくれるカミラの表情が苦しそうで、見ているのがとてもしんどかった。