第一章(3) 履歴書書き
夕方、彼女は帰ってきた。
「ど、どうだった?」
「見つけました。経営が苦しいようですが、営業してました」
「良かった〜。ありがとう」
「いえ。それより、ニックネームはどのようなものがお好みですか?」
「精一杯考えて、『メイ』が良いと思いました」
「メイ・・・・。はい、それでいきましょう」
カミラは紙を見ながらそう言った。
「それは?」
「ああ、これですか?没落した名家で奴隷として働いていた方の名簿と孤児院名簿です」
ど、奴隷?孤児院?
なんの話かしら。
「そ、それは、何に使うの?」
「使う理由は書類を書いてからしっかりお伝えします」
「書く前に聞いたほうが良いと思うのだけど?」
「とても長い話になるのです。この国の歴史からお話しなければならなくなるので」
奴隷の歴史のことかしら?
この国で奴隷が働いているのはもちろん知っていますが、それ以外は知りません。私は学校というものに行ったことがありませんし、お勉強も全くしていないので常識と呼ばれるものでさえ知らないのです。
「そ、それなら、書いてから、わかりやすく教えていただけるかしら?」
「もちろんでございます。理解していただけませんと働きに行くことが難しくなることですから、頑張って理解して下さいね」
「が、頑張ります」
「では、書き始めましょう。ここの欄には、名前を書く必要があります。今回は・・・・」
カミラの指示に従ってよくわからないけれど難しそうな紙の空欄を埋めていく作業を進める私なのだった。