序章(2) 瓶と1年前の記憶
私はその瓶を見て思い出した事がありました。
あれは、結婚式当日の朝、実家を出る時の事でした。
ここでの生活に何も想うことのない私は玄関を出てただ突っ立っていた私に、玄関の方からお母様の声が聞こえました。
「こんな所に突っ立っていられるなんて、流石私の娘だこと」
「お、お母様」
「そんな貴方に私から結婚のお祝いの言葉を伝えるわ」
「い、いえ、私はお母様のお陰でこうして嫁ぐ事が出来るのですから・・・・」
「さっさと世継ぎを産んで、死ね」
何を言われているのか分からなかった。
「これを使いなさい」
そう言われて渡されたのは、小箱でした。開けてみると中には瓶が入っていました。
「世継ぎを産んだら、それを飲んで死ね。一年半後にこの毒が使われなかった場合はお前を直接殺しに行く」
私は言われたことを理解するのに時間を必要としました。
「けど、逃げられると思うなよ。お前と一緒に公爵家に行く女中には、お前の監視も頼んでいる」
その言葉で、私は理解した。
私は結婚しても自由にはなれない。お母様からは逃げられない。
「お姉様、私、お姉様の花嫁姿、楽しみにしてるわぁ」
「・・・・」
「寂しいけど、私、我慢するから!」
「・・・・」
「さ、時間よ。さようなら、幸せにね」
その別れの言葉は、普通の意味にはもう、聞こえませんでした。