−1
老いた荷馬車に揺られ、無辜の罪人達は処刑台へひた走る。若い女、幼い子供、壮年の男、壮年の女。石を投げられる中、諦めた者、泣き喚く者、今まで首を刎ねられた者たちにも見られた様相だ。
ただ一人、ボロ布のような修道服を纏った修道女だけが、怒りなのか、怨みなのか、はたまたこれから戦に臨むような、今まで見てきた罪人達とは違う表情を見せている。
罪人の彼女を見て、群衆の一部からは泣いて処刑に異議を唱える者も居る。それ程、彼女は慈愛に満ちた修道女だったのだろう。
「降りなさい。」
馬車がとうとう、処刑広場へと着く。
処刑台の傍らでは、司教達が罪人の死後の安寧を願い、聖火を焚いて、ひたすらに祈りを捧げている。
先ずは、若く泣き喚く女が、領地の財産を浪費した罪で首切り台に登った。首が飛ぶその瞬間まで、女は浪費する程の財産などないと、声の限りに叫んだ。実際、この女ードルチェグスト男爵夫人ーの領地は、高々知れており、貴族有罪の憂き目を辿ったことは明らかだ。
続いて、幼い子供が泣き、震え、動けないためか、執行人に抱えられて処刑台に登った。群衆も幼い子供の処刑には、流石に堪え、静まり返る。首が落とされる寸前、彼が母親を呼ぶのを、何人が聞き取れただろうか。
更に処刑は続く。あの、何とも言い難い目をした修道女の番が巡ってきた。処刑台に登る際、執行人の足を、修道女は踏んだ。
「ごめんなさい。わざとではないのよ。」
「…お気になさらず。」
冷血な処刑人が微笑み、彼女を処刑台までエスコートした。
断頭台へ修道女の首が置かれた。司教達の祈りが、より一層強く、大きく、広場へと響き渡った。
「執行せよ!」
罪状も読み上げられる事なく、刃が落ちる。
「私の願いを聞け」
刃が落ちると同時に修道女が呟くのと、司祭の一人が聖火へ何かを投げ入れたのは同時だった。
『 ᛋᛟᚾᛟᚾᛖᚵᚪᛁ ᚴᛁᚴᛁᛏᛟᛞᛟᚴᛖᛏᚪᚱᛁ 』
広間に響き渡ったのは言葉か、はたまた雷鳴か。それを知るものは、どこにもいない。