第3話 留学生①
紘和62年9月2日(水)
愛依は、また東校で放送部のインタビュー番組に出たらしい。動画や配信にすればいいのに、校内放送っていうのがレトロチックで新鮮だ。放送部の伝統らしいけど。
でもそのおかげでさらに有名人になってしまったそうだ。「ラポルト16」だってのももう公然の秘密だし、隠す意味無くなってきたんじゃないかな。
そして、新学期も一段落かと思われた頃、あの騒がしいヤツがついに来るという一報が入った。始業式で校長先生が言っていたんだ。
ついに来るか。
「このクラスに留学生を迎えます。皆さん仲良くするんですよ」
担任の先生はさらっていうけど、僕にはフラグにしか聞こえない。何故なら――――。
「ど~も」
しれっと入室したのは、ウチ――「みなと中央高校」の制服を着たサニーサ・コーラだった。あれ? なんでその制服を?
ちなみにウチの女子の制服は、あの「さいはて中」こと塞ヶ瀬中学校の制服と意匠が似てる。羽織るような上衣に、合服のワンピースだ。色も黒っぽい。
「お! 暖斗くんいるじゃんヨロシクな!」
わざとらしい。
「サニーサさん。まずは自己紹介を」
「あ、ハイハイ。サニーサ・コーラで~す。え~~と‥‥‥‥。まあ細かい事はさ、『#コーラ、武娘辞めるってよ?』で検索してよ。そこに書いてあっから」
オイ。いきなり素じゃないか! アマリアの娘は初対面の男子には「何らかのキャラ」作ってくるんじゃなかったのか? 設定が緩すぎるだろ!
しかも自己紹介雑に端折りやがった。‥‥いや、途中でド忘れした気配。
しかも僕は愛依の家庭教師でやっとここの高校入れたってのに、コーラそんなアタマ良かったのか!? って、実は感心してたんだけど。
「この留学生制度って交流が目的だから、偏差値関係ないんだよ。サニーサさんが君のいるクラスを第一希望にしたんでね? で、どうかな?」
という打診を事前にされていた。なんだそれ。それでもソーラさんは東校に留学するそうだけどね。
ちなみにソーラさんはアマリア軍所属のまま、本土の高校生との交流目的の留学。コーラはあの附属中3人娘が進学した国防大学校附属高校に在籍していて、そこからの留学だ。目的は同じで、週2日ほど、同じ授業に参加する。
まあ、本土とは若干習俗が違うガンジス島の人々。この国に併合されて20年ちょっとだけど、こういう交流大事なんだろうな。
でも大丈夫かなあ。アイツ謙虚さとか皆無で思った事全部口にするからなあ、なんて思ってたら、早速事件がおこった。
こんな感じで自己紹介が終わって、コーラがこっちに歩いてくる。色々な大人の配慮があってこのクラスになったし、席も僕のとなりなんだよ。そうしたらちょっと前の席の男子の足にコーラの足が。
「痛って」
「え~アタシ?」
ベタなんだけど机からはみ出して足を出してるヤツがいた。コーラもわざと避けない。若干強めにコーラがそいつの足を蹴り上げたような形だ。‥‥コレどっちが悪いのか正直微妙だな。ちゃんと10cm避ければ当たらなかった間合いだった。
ただこの国の女子だと、相手が悪くても大抵は謝る。心証悪くしたくないからね。麻妃でも一応は謝るだろう。
けど、コーラはそのまま席についた。何事も無かったように。
で、その顛末はその日の内に。
「お? アタシの制服どこいった?」
体育の授業の後、教室で女子が着替えてたら、早速何かあったらしい。
コーラの制服が無くなっていて、少し探したら教室の隅のゴミ箱に捨てられていた。
女子達が「え~~!」なんて言ってる内に、僕らも戻ってきていて。
ああ、始まったよ。コーラのあの雑な挨拶が気に入らないって、クラスの男子が言ってたもんな。もちろん一部の人間だけれど。
この国は男子の生まれが少ない。だから「男子」ってだけで貴重で、大切に育てられたりする。小学生くらいって、女子に謎の対抗意識を燃やしたりして「あいつら敵だ」って勝手に仮想敵認定したりするけど、そんな空気をこじらせたまま高校生になる男子が少なからずいるんだよ。
男子の優等意識、優越感っていうのかな? 僕からしたら、ただの痛い思い込みだけどね。
だからコーラの制服を捨てた連中も、だいたい予想はつく。このクラスの男子。「男子に媚びない、遠慮しない」コーラの態度が気に入らないんだろ。
以前の僕なら、気にはしつつも何もリアクションは起こさなかっただろう。けど、あの「ふれあい体験乗艦」でちょっとだけ変わった。いや変われたんだ。ガンジス島でアマリア村の人達と直接ふれあったし共に戦った戦友だから、というのもあるし、あの戦いを経験したら、この日常の大抵の事は、そんなに深刻な事じゃあない。
ゴミ箱に入っているコーラの制服を見てみた。幸い、というかたぶん捨てたヤツがそういうつもりだったんだろうけど、分別の紙ごみの方に入れられていた。だからホコリを払うくらいで別段汚れてはいない。だからヨシ! じゃあないんだけど。
その制服からコーラの方へ目を移したら、彼女の声が入ってきた。何やらスマホで電話をかけているみたいだ。
「あ~~もしもし。あ、佐伯さんコーラでっす。第8機甲師団の資材課に取り次いで欲しいんだけど~~」
捨てられた上着以外を着替えて、白いブラウスに黒の合服姿になったコーラは机に腰かけ、足をイスに乗せていて。あ、今右足を1回高く掲げてから足を組んだ。――なんか昔何度も見た光景だ。
「軍?」
その言葉に教室がざわめく。第8師団。たぶんコーラが配属されているDMT部隊だろ。あ、DMTって人型の機動兵器ね。コーラは附属高校の生徒であり、留学生としてこのみなと中央高校に参加する立場で、しかも正式な軍のテストパイロットだからね。イチイチややこしい。
「あ、鈴木さん。なんかさ~。留学初日なんだけど制服の上着捨てられちゃってさあ。もう着たくないから新しいの用意してくんない? あ、今週もう一回体育あるから、もう2着は最低要るかな~。え? はいはい」
教室中の目線なぞ一切気にせずに、通話を続ける。
「え、業者さんが来んの? あそっか。軍が女子高生の制服在庫してるワケないか――――ってちょっと待った!!」
急に振り返り、僕のいる方。ゴミ箱へと指差した。
「‥‥‥‥そのゴミ箱触んないで。保全してってさ。軍の人が犯人探しに今から来るから」
「「え‥‥‥‥!?」」
クラスの空気が一気に冷える。その中で、あからさまに顔色が悪い連中が3人いる。コーラを気に入らないとか言ってた男子だ。
「――だってアタシは軍のパイロット。制服も下着も全部軍の備品。それが捨てられたんだから当然でしょ?」
コーラの声だけが教室に響く。
お~い。なんちゅう空気にしてくれてんだ。
そりゃこんな事した連中が悪いのはわかるけどさ。
コーラがスマホをスカートのポケットに仕舞う。通話が終わったのか?
教室が何とも言えない重い空気だよ。これは僕が動くしかないのか。
ゴミ箱から黒い制服をそっと引き出す。うん。やっぱり汚れてはない。パンパンとはたいてから、コーラに歩み寄る。
「お~いコーラ~」
はあ。久しぶりの会話がこれとは。
「あ、暖斗くん。『保全して』って言ったよね?」
「特別汚れてないよ。紙ごみの中だったから」
受け取って汚れをチェックするコーラ。
「‥‥暖斗くん。余計な事すんなって。キッチリやり返すのがアタシの流儀だから」
「オーバーキルだ。このクラスでこれから1年過ごすのに、イキナリ勘弁してくれよ」
「うっせ」
そう呟いてそっぽを向くと、その目線の先にいた女子に話しかけた。
「ねえねえどう思う? この男は昔一緒に戦ったくらいで彼氏ヅラしてくんだけど? ウザくない?」
「だれが彼氏だ!」