表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/34

第11話 似たもの同士②





「ごめん。ごめんて。すず~~」


 麻妃(まっきー)は逃げに徹する。わたしやはーくんを怒らせた時は、コイツはいつもこういう風に逃げる。

 もう、何回繰り返してきたことか。



 こんないつものルーティンやってたら、私もいつの間にか気が紛れていた。


 自分でもよくわからない。

 異母弟(おとうと)にまさか恋愛感情を抱いていた憶えはない。


 ただ、唐突だった。「ふれあい体験乗艦」が始まって終わって。途中あんな戦争に巻き込まれて。

 逢えないままの、あっという間の一ヵ月。


 良く生きて帰ってきた、と駆け寄ろうかと思ったら、アイツの隣りにはもう。あのコがいた。



 逢初愛依(あいぞめえい)



 ひと目見た瞬間、あ、自分は無理だ、と感じた。


 何が無理か? はーくんの視線がもう、私へは戻って来ない感覚。



 愛依ちゃんはいいコ。それはわかってる。

 弟とは結婚できない。それはわかってる。

 むしろ愛依ちゃんみたいなコをゲットしたは~くんGJ(グッジョブ)。それはわかってる。



 わかってるんだけど。‥‥いやわかっているからこそ。


 私はイラついていた。




 ***




「じゃ、帰るかね?」


 買い物も終わり、冬服も麻妃(まっきー)と選んだ。食事もしてカラオケも行った。

 予定のコトはすべてやった。あとは帰るだけ。


 今日はホントに寒い。まだ夕方なのに吹く風の温度がおかしい。まだ10月だっての。




 ***




 みなと市がショボい地方都市だ、ってのは自分で言ったんだけど、こんなことあるのか。


 麻妃(まっきー)との帰り道、市街を通ったら愛依ちゃんに出くわした。


 正確には日の落ちた商店街に、歩く彼女の後ろ姿を私が見つけて、麻妃(まっきー)に訊いたんだよ。


「あ~れ~? 昨日の夕ご飯の時は、バイト先から電話が来て、ぬっくんは1日バイトの予定が入ったハズだゼ☆」


「聞こえてたよ。でも愛依ちゃんのあの恰好」



 彼女は、白と水色のワンピースの上にボア素材のハーフコートを着てたけど、ちょっと薄手で寒そうだった。

 ま、今日が特段に寒すぎるんだけど。


「あ~。でもアレは愛依の勝負服だな~。秋バージョンの」

「て、ことは?」

「ぬっくんとデート? こんな時間から? こんな寒さで?」


 でもはーくんがケーキ作ってる「シェ・コアラシ」は夜20時まででしょ?

 今18時過ぎだよ。


「いやいや。確かに昨日はバイトが入って、今日のデートは流れたハズだよ。愛依も1日勉強するって言ってた。あの離れで」


 離れ?


「待った麻妃(まっきー)。はーくんってさ。夜勉強で愛依ちゃんの離れに通ってるんだよ?」

「あ! ウチはソレ見落としてたわ」


 たぶんだけど、昨日の夜離れの家で、ふたりは一緒に勉強した。そこではーくんと愛依ちゃんは予定を組んだんだ。「バイトが終わった夕方に落ち合おう」とかって。


 思わずわたし達も「シェ・コアラシ」へ歩いていく。――予想通り、18時台なのに洋菓子店のシャッターが半分降りていた。


「あれだ。寒波だ。寒すぎるとか電車が止まるかも、とかの理由で、今日は早じまいなんだ」


 名探偵麻妃(まっきー)

 そういえばみんな家路へ急いでいる感じがする。



 愛依ちゃんはお店の向かいの、自販機の影に隠れるようにいて、寒そうにしていた。


「確定だな」

 同感だ。だけど親友。そうするとひとつ問題が発生する。


「だとしてさあ。私らの行動キモくない?」

「だよなあ。尾行とノゾキみたいになってるゼ☆」


「私そういうのはな~~」

「ウチも性分じゃない。そこはウチら似た者同士」

「‥‥興味がない、って言うと嘘にはなるけどさ~~」

「まあ状況的には100(パー)デートでしょ?」



 そんな感じでグダグタしてた私らの体の間を、ヤバい冷たさの風が吹き抜ける。

 これ体温一瞬で持ってかれるぞ?


 と、愛依ちゃんを見たら、手足を動かしてめっちゃ寒そうにしてた。あ!?


麻妃(まっきー)! あのコ!」

「うえ? 生足だ。今日の気温で!?」


 あんた、そりゃ寒いって。


 愛依ちゃんは寒そうにしながらも、健気にアホ暖斗を待ち続ける。アイツまだバイト終わらんのか? 早よせい!!

「愛依は天然なんだよな~~。服装に特に顕著に」って麻妃(まっきー)が半ば呆れていた。



 日は落ちた。

 そのせいでちょっとどころでは無くどんどん寒くなるし、こんなノゾキみたいなのも趣味じゃないし。そのまま帰っても良かったんだけど。



「よっしゃ。このままじゃ愛依が凍える。差し入れすっか」



 私の相方が言いだした。


「は? ストーカーしてたのバレるし」

「偶然見かけたのは真実。『奇遇だゼ☆』って正直に言えばいい」


「なんでまた差し入れなんか?」

「このままだと単純に愛依が凍るから。熱い飲み物のひとつでも」


「さすがに愛依ちゃん気づくでしょ?」

「愛依は天才だけど天然だから。あったかい物与えたらそれに目が行く。気づかない」



 出たよ。



 麻妃(まっきー)に秒で論破された。彼女のこの、「小回りのきく機転」みたいなの、ホント昔からスゴかった。


 あの「ぼくらの夏休み戦争、ガンジス島戦役」では、はーくんの乗る人型戦闘兵器(ディアメーテル)を支援するドローン、KRM(ケラモス)で大活躍だったんだ。


 愛依ちゃんは「超計算と超記憶のギフト持ち」だけど、麻妃(まっきー)のこの頭の回転も別ベクトルでスゴイと思う。



 事実、港湾の軍は、この子のKRM(ケラモス)パイロットとしての才覚を見抜いていて、私ら梅園三姉妹に、麻妃(まっきー)が早く軍に来てくれないか頼みに来ている。


 私は親友を売るみたいでヤだから断ったけど、ひより姉が引き受けていた。


 たぶん、広く状況を読み取る能力とか、差し当たっての正解に即座にたどり着く能力とか。



 我が親友がはーくんの相方になったのは、幼馴染みで阿吽の呼吸、ってだけじゃ無いんだなあ!!




 と、言うワケで。


 愛依さんに差し入れをするべく、最寄りのコンビニに入る。

 かなり適当にホットドリンクを買って(そういうトコは私も麻妃(まっきー)も本当に適当。「ホットなら何でもいいんじゃね?」って)。


 愛依ちゃんのところまで戻る。あれ?




 そこには、はーくんひとりが立っていた。暖かそうなダッフルコート着て。


「あれ? 麻妃(まっきー)、愛依ちゃんいないじゃん?」

「行くな」


 親友に止められた。なんで?


「なんでよ? 冷めるよ? 愛依ちゃんいないならはーくんにでも飲んでもらおうゼ☆」


 私は陽気に、親友の口真似をして近寄ろうとしたんだけど。



「すず!」

 肩を掴む手に力が入った。がくんと止まる私の身体が上下して、はーくんの足下に目が行く。



「‥‥‥‥‥‥‥‥!!」



 こういう時の麻妃(まっきー)の即断、一瞬での状況把握、からの決断はスゴイ。きっとKRM(ケラモス)駆っていた時もこんな感じだったろうね。


 もし、「早押しで80点以上の答えを出し合うクイズ」、100点を競うんじゃなくて、「如何に早く80点以上の答えを探すか? のクイズ」があったら、あのギフト持ち愛依ちゃんにも勝つんだろうと、私は考えている。



 麻妃(まっきー)が私を止めた理由。



 不自然にふくらんだはーくんのダッフルコートからは、足が四本生えていた。彼の足と、さっき見た女物の生足だ。

 異母弟(おとうと)の横顔の、柔和な眼差しがすべてを物語っていた。




「行こか」


 麻妃(まっきー)が肩をたたく。さっき買ったドリンクを見せてきた。


「これどうするよ?」

「ウチらで飲む?」

「一本はね。残りは」

「とっときゃいんじゃね? 冷めたらまた温め直せばいいんだし」


 そっか。そうだよね。


 今日は10月にしては記録的に寒い。大寒波ってのは嘘じゃなかった。

 すっかり冷えてしまったよ。でも。





 温め直してもらえばいい。私もまた、まだ見ぬ誰かに。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ