第11話 似たもの同士①
紘和62年10月18日(日)
あ~。私には友だち運がない。
「おまた~」
「おまた~、じゃね~よ。そっちが時間決めといて待たせんなよ」
「いや、悪かったゼ☆」
爽やかに親指を上げるな。どうせ。
あんたのセリフ、文字に起こしたら語尾に「☆マーク」でもついてんでしょ!? どーせ。
「いや、ウチが悪かったって。すず」
昔っからの腐れ縁のコイツ。
「ホント。悪かったって」
どうせ本心で謝ってない。丸わかり。
「あんた、そう言って頭下げときゃいいって思ってんでしょ? 麻妃」
私に男運が無いのもコイツのせいだ。きっとそうだ。
とある日曜の午後。街に誘われたから行くことにした。目的なんて無い。
部活が午前だけだったから。ヒマだったから。
どうせ店まわって、カラオケかなんかして終わりでしょ?
なんか寒波とか来てるらしいけど、知らないよ天気予報見てないもん。
「お~~。なんか荒れとりますな~~」
イチイチ私の神経逆なでしてくるコイツは。
一応親友、岸尾麻妃。イッコ下のいわゆる幼馴染み。私は昔から麻妃って呼んでる。
「規格外の寒波が来るのも、すずの機嫌が悪いからかな~~」
ふざっけんな。
「んなワケあるか。私が天気イジれるなら、今日は土砂降りにしてるっての!」
「荒れとるね~~」
私の名前は梅園すず。みなと市ってショボい地方都市の、特に何の取り柄も無く、ルックスも十人並みで、愛想も無く、色気も無く、可愛げも無く。
したがって彼氏もいない女子高校生だよ。なんだよオッサンコッチじろじろ見てくんなよ?
悪い? なんか文句ある?
「荒れとるね~~」
さっきからホント、私の神経逆なでしてくんな。コイツは。
本当は寒波来んの知ってたよ。だからアイツに言って一緒に冬物、見に行くつもりだった。
勝手にバイトの予定入れんなっての。
だって「ふれあい体験乗艦」決まってから、つまりここ一年くらいまともに相手してくれてないじゃん。私の。
前はゼッタイ一緒に見てくれてたのに。あんたの意見入れずに服選んだこと無いんだからね? 私。‥‥‥‥その事実すら気づいてないでしょ? あの男。
私のイッコ下の異母弟。
咲見暖斗は!
***
「いや~。でもさ。バイト入らなかったとしても。すずと買い物行ってくれたかはわかんないんだよな~。ぬっくん」
「裏切り者」
「え? なんで?」
「私の前でその呼び方しないで。昔は一緒に『は~くん』って呼んでたじゃん?」
「え? そんなのどうでも良くない‥‥‥‥?」
「良くない! ゆめちゃんより私のほうがトモダチ歴長いのに。いつの間にか裏切ってさあ」
「いやだって『ぬっくん』呼びのほうがアイツ、露骨にイヤがるんだゼ☆ 『ぬっくん』呼び一択でしょ~~が」
「あんたの判断基準が意味不明! その呼び名だってもうスルーされてんのに」
「そうなんだよな‥‥」
「‥‥‥‥うぐ」
思わず呻いてしまった。急に麻妃がしんみり雰囲気だすから。
「アイツさ。『ふれあい体験乗艦』の初めのころはさ、反応してたのよ。この『ぬっくん呼び』に。‥‥まあ。他の女子の手前もあったかな。ほぼ初対面の女子14人に囲まれて、気ィ張ってたからな」
「‥‥‥‥うぐぐ」
「それがさ。やっぱ男の子だったんかな? 色んな試練ちゅ~か経験ちゅ~か。旅が進む内に、もうウチのコト『麻妃呼び』しなくなって、『ぬっくん』にも怒らなくなって」
「‥‥やめて聞きたくない」
「‥‥出逢いもあったしな。‥‥そういうのが人を、男を成長させるんかな‥‥‥‥?」
「やめろっての!」
思わず私は机を叩いた。しまった。‥‥ショッピングモールの大して広くないフードコートで、何人かにこっちを見られてしまった。
「荒れとりますな~」
うっさい。
「よっしゃウチが選んだろ。ウチ今からぬっくんになりきるから、それで万事問題解決」
「‥‥あんた‥‥本気で私に殺されたいの?」
「いやいや~~。運命の幼馴染み同然に育った異母弟に彼女が出来て、今日の寒さのように荒れ狂う親友の気分転換につき合ってあげてるウチに、それはナイでしょ?」
「‥‥その煽るセリフさえ無ければ、マジで感謝してるんだけど? マジでそれどうにかならない?」
「あ~~。でもすずは溜めこむと悪いほうに行くからな~~」
「あんま私ナメてると ひより姉呼ぶよ? いつもフォローしてやってんのに」
「ひええ。それはダメ。‥‥イヤ、ココでそのカード切るのは反則っしょ?」
「今日の私ならやるかもしれない。止まる自信無い」
「ひえええっ」
***
「‥‥結局さあ。‥‥無理なハナシだったんだよ最初から? だって異母弟だよ。イッコ下の」
「‥‥‥‥わかってる。わかってるけど。‥‥‥‥それは言わないで」
「昔からこのハナシしてんな~、何周目? この話題ですずとカラオケ来んの、何回目?」
「‥‥‥‥ごめん悪かった。謝るから。‥‥ちゃんとわかってる。感謝してるから」
「この絶妙なタイミングで妙に素直になるのが、すずのいい所っちゅうか、イマイチつまんない所っちゅうか。ぬっくんはけっこう頻繁にブチ切れてくれるから面白いんだよな‥‥」
「は~くんはね。感情でっていうより、モノの道理だね。ハナシの筋がおかしい時にブチ切れる。逆に言えばある意味冷静なブチ切れなんだよね」
はあ。なんだかんだで少し冷静になってきた。こういう態度はマジでムカつくんだけど、麻妃はずっと私の相談相手だ。
私だって、異母弟と本気でなんて考えてない。ただずっとゼロ距離で育ってきたから、あっちが急に大人になって、私が取り残されたみたいになってんのがイヤなんだ。
今日だってそうだ。麻妃が誘ってくれなかったら、家でもっと鬱屈としていたかもしれない。
そう。‥‥‥‥‥そうだね。
彼女に、共に育った親友に、感謝しなければ。
「さすが。ブラコンの考察は一味違うゼ☆」
「誰がブラコンだ!? ぶっ殺すぞテメエええええぇぇぇ!!!!!!」




