第4話 逢初愛依、宵闇に覚醒す③
「なんか雲行き怪しくなってきた。『コーラの話聞かせて欲しい』って言ったからしただけじゃん?」
「む~~っ」
「愛依なんで怒ってるの?」
「怒ってないもん」
「あ、いや、そうか。コーラの話題止めよう! えっと他に話題を‥‥」
「じゃ、泉さん」
「ああ。泉さん? えっと泉さんね。コーラが暴れた時に援軍で来てもらったなあ。的確に振る舞って場を落ち着かせてくれたよ。彼女コーラには貸しがあるし。‥‥‥相かわらず大人っぽいよ。『初対面で先生が敬語使った』とか『名前の花音を称した通貨を創造した』とか、都市伝説が生まれてる。いつも落ち着いてて上品なのは、さすがお嬢様だよね」
「‥‥‥‥庶民の娘ですみません」
「うお?」
「素敵なレディよね。泉さん。ラポルトの時も出しゃばらずに操舵手に専念してくれてた。あの人聡明だからもっと活躍できたはずなのに。影のMVP。自分の役割をわきまえて全体を生かす、ってそんな人中学生じゃまず無理だわ。べびたんの近くにそんな素晴らしい女性がいるのね‥‥」
「‥‥次の話題行こか!」
「じゃあ、姫の沢さん。わたしがべびたんとこうなって一番影響受けた人。でも高校同じになった人」
「ひめちゃん? また同じ展開になるだけじゃあ?」
「だって。教えてくれたらわかるもん。知らない方が不安だよ?」
「そう? ホントに? ‥‥えっとじゃあ、ひめちゃん。コーラが騒ぎを起こした時に呼んだ援軍その2。バッチリだったね。ひめちゃんが来るとみんなそっちに気を取られるからさ。芸能人オーラ! 附属中3人娘もビックリの僕の作戦勝ち! あいかわらず手足が長いし僕より背が高いよ。あ、これ禁句だった。ひめちゃん的には僕より背が高いのはイヤなんだって」
「それはべびたんが昔『僕のお嫁さんになる人は僕より背が低い人がいいなあ』って言ったからでしょ?」
「え? そうなの?」
「麻妃ちゃんに聞いたよ?」
「小学生の頃だよな? そんな事言ったかなあ。‥‥でも言ったとしても今はあまり気にしてないし。別に僕より背が高くてもね。あはは」
「‥‥‥中肉中背のぷにぷに娘ですみませんね」
「‥‥ヨシ次の話題行こ! 次! 桃山さん。実は僕に来る質問で一番多いのは、実は彼女なんだ。ほら、『さいはて中』だったから中学時代を知る男子がいないんだよ。だからって僕に訊かれてもなんだけど」
「彼女もあいかわらず、なのね?」
「そうなんだ。僕の周りの男も『清楚でカワイイのはもちろんだけど、色々気づかいしてくれるから』とか『あのにっこり笑顔がいい』とか『気立てがいい。恋人というより嫁候補』とか。いつの間にかみんなと知り合いだし」
「相かわらずのコミュ力お化け、なのね」
「そうだねえ。別の男が言ってたんだけど『姫の沢は手の届かない高嶺の花、お姫様で、桃山はだんご屋のお花ちゃん』だって。言い当て妙だね。確かにそんな感じだ」
「コミュ障の元陰キャで‥‥すみません」
「んん? 泣いてるの? 愛依?」
「泣いてない」
「でも目に涙が」
「だって。中央高校のお話聞いて安心しようと思ったのに、どんどん不安になるんだんもん。やっぱわたしも中央行けば良かった」
「え? それはしょうがないじゃん」
「でもべびたんのまわりには素敵な女の子ばっかり。サバサバ健康美のコーラさん。大人お嬢の泉さん。幼馴染でモデルの姫の沢さん。コミュ力最強町娘の桃山さん。‥‥‥‥他にもいっぱいいるんでしょう?」
「いないよ! ‥‥ってか、いたとしても全部僕と絡む訳ないじゃん?」
「でもべびたん、救国の英雄だし撃墜王だし名誉騎士様だし実は爵位あるし‥‥」
「うわあ。爵位の件は秘密だよう!」
「ごめんなさい。‥‥‥でも、まわりの女の子がほっとかないよきっと? ‥‥‥‥ぐすん」
「しまった。そうだった。愛依はこう見えて自己評価ものっすごい低い人だった‥‥!」
「‥‥‥‥そうよ? 中一の一学期まで陰キャだったんだから。まわりに良い人ばっかりだと不安になってきちゃうよ。‥‥う‥‥う‥‥」
「愛依」
「ぐす。婚約破棄とかだってありえるよね? 『逢初愛依、君との婚約を破棄する!』」
「婚前同居は婚約なんかより効力強いよ。そんな小説読みすぎだよ?」
「ぐすん」
「なんかさあ。他の女子褒めると愛依にダメージ入るんだね? これ愛依の弱点だ‥‥」
「自分に自信が全然持てないの。わたしはそもそも無価値なの」
「それは『婚前同居の調印取得』で克服したんじゃ!?」
「それはがんばったけど‥‥」
「そんな人間急に変われないかぁ。‥‥まあそうか。‥‥僕だってそうだ」
「ぐすん。せっかくべびたんが腕まくらしてくれて、お腹ぽかぽかしてくれてるのに。さっきはこの部屋を残してこの惑星が爆発してもいいって思ってたくらいなのに」
「何それ!? まさか56億7000万年漂流するヤツ!?」
「む~~っ。寝れない‥‥かなしい‥‥」
「一体どうすれば‥‥‥‥‥‥?」
「‥‥‥‥!!」
「愛依?」
「‥‥‥‥‥‥これからわたしがやること、べびたんは受け止めてくれる?」
「何だろ? いいけど?」
「どうしてもしたいの」
「『したい』事? えええ!?」
「べびたんが他の女の子の事褒めるの聞いたら、したくなっちゃったの」
「‥‥え? ‥‥まさか? ‥‥婚前同居ルール破るのは!?」
「いくよ? いい? だめ?」
「‥‥う。どうぞ」
「まずはわたしがべびたんの上の乗っかるね?」
「‥‥はい‥‥(愛依まさか???)」
「‥‥‥‥がぶ」
「わ!? 痛!? 痛い! いだだだだ!」
「うふふ。痛い? 反対側も。がぶ」
「いたた! 耳? 耳たぶ噛んだぁっ!?」
「がぶがぶ」
「いたたたた」
「ふふふふ! 痛がるべびたんおもしろい。がぶ~!」
「ぎゃあああぁ!」
「ふふ~~っ!」
「甘噛みにしては痛い! 痛いって!」
「が~ぶ~」
「させるか!」
「あっ! 力ずくなんて。いやっ。やめて」
「そんな甘い声出してもだめだよ。ほら捕まえた!」
「‥‥‥‥じゃあここ。がぶ」
「顎!? そうきたか! いてててて」
「うっふふふふ! さてここで問題です。わたしがべびたん噛むのは婚前同居ルールに抵触するでしょうか?」
「しらね~よ!!」
「うふふふふっ! ‥‥‥‥がぶ!」
「ぎゃああああ!」