第4話 逢初愛依、宵闇に覚醒す②
「ふ~。集中できてたねえ」
「うん。2時間みっちり勉学に励んだ。じゃ、僕はそろそろ自室に戻ろうかな。愛依はこの後どうする?」
「どうすると言ってもスマホいじって寝るくらいよ。あ~でもここは家事しなくてもいいのがいいな~」
「‥‥普通の子供は手伝いはするけど全般任されるとかは‥‥」
「うん。お母さん仕事とかでいつも一杯いっぱいだったから。家の事はわたしがやらないとだったから」
「だったねえ」
「‥‥小学校くらいからやってたから、別に不思議には思わなかったなあ。掃除、洗濯、炊事、わたしがやるのが当たり前だったね、あの家。逆に今は時間持て余しちゃってるよ。ふふ。もうちょっと勉強しようかな?」
「それが普通なんだよ。愛依は部活やったり動画見たりして遊んで過ごせばいいんだよ。あ、メイクとかは? もう高校生だし」
「う~~ん。みんなやってるね。でもわたし経験なさすぎて、何から始めていいか? ――あ、そういえば同母妹さん、稚葉ちゃんと萌ちゃんが遊びに来たいっていってた」
「遊びに、ってここに? いいよ。そんなにちゃんと相手にしなくても」
「いいのよ。確かにこの家に早く馴染みたい、とかはあるけど、遊びに来てくれた方がわたしがうれしいの」
「相変わらず子供受けが最強だ」
「ふふ~~。小児科医目指す者としましては」
結局、またべびたんとおしゃべりが続いてしまうよ。
「そういえば愛依、体調は?」
「実はちょっとまだ」
「大丈夫?」
「おなかの奥の方がチクチクする」
「じゃ、また『あれ』やる?」
「え~~~?」
「だって一応夫婦だしね」
「うん。‥‥‥‥じゃ、お願いしてもいい、かな?」
「よいしょっと」
「ふふっ。こうやってべびたんに腕まくらしてもらうとラポルト思い出すね?」
「それ昨日も言ってたよ? あ‥‥?」
「『右手』はね、もっと下に」
「うええっ?」
「‥‥‥‥ここ」
「いや、これは‥‥!? へそより下だよ‥‥」
「だってここは胃だもん。もっと下の、ここ。解剖学的な赤ちゃんが宿る位置は、ここ」
「う、うん。‥‥‥‥さすが準医師」
「‥‥‥‥えいっ!」
「ちょ!? 愛依?」
「‥‥‥‥‥‥だって。直肌のほうがあったかいんだもん」
「いやでもこれは‥‥」
「直がいいもん。べびたんの手熱すっごい。は~~気持ちいいな~。あ~~じんわりする」
「そんなん言われたら、手ぇ引っ込めにくい‥‥」
「ラポルトの時もこうしてくれたっけ。憶えてる? 最終決戦1日目の夜」
「あの時はほら。アレだから。ミサイル攻撃されたり手術あったりで、お互いがんばろう! 的な空気だったし。『死地へ戦士を送り出す儀礼的なヤツ』的な意味合いも‥‥」
「あははは。空気って何? 顔赤いし」
「‥‥ちっ! 違っ! ‥‥いや、いいんだ。愛依の痛みが紛れればいいんだ」
「うん。ありがとね。だんな様」
「お、おおう」
「‥‥‥‥ずっとこうしてくれるの?」
「んん? 愛依が寝つくまで、くらい?」
「じゃあ、お話しましょう? 中央高校の様子教えて。わたしのいない所でべびたんがどう過ごしていたか教えて」
「いいけど別段面白くもないよ?」
「いいのよ。コーラさんのその後とかは?」
「お? うん、そうだなあ。相かわらずというかどんどん男子と馴染んで、女子のファンが増えてるかな。勉強も意外とついてきてるっぽい」
「意外と、って」
「いやいや、先生とコーラ自身が言ってたんだよ。そっちは得意じゃないからって。でもアマリアに教えるの上手な人がいて、武娘の修行の一環で基礎教育はやってたんだって。ほら。この国に編入したら本土軍と共同戦線張ったりするから、高度戦術を理解するくらいの学問は必須だって」
「コーラさん頭の回転早いわよ」
「咄嗟に言い返すのが上手いんだよな。男子を平気で言い負かす」
「なるほど。そういう所が女子人気になってるのね」
「人気って。男子は『男友達』枠扱いだから。女子は色々言ってるね。『スタイル良い』、『ボーイッシュ』、『顔カワイイ』」
「実際かわいいわ。彼女」
「そっかな。まあ目は大きいかな」
「あと脚キレイだし」
「ああまあ。アイツ高校でも例の脚上げポーズよくやってるよ。自信あるのかな。モデルか! みたいな」
「細くてうらやましい」
「いや日焼けしてるしスレンダーに見えるだけだよ? だいたいアイツの脚筋肉だし」
「よく見てるのね」
「筋肉なのにムキムキはしてないんだよなあ」
「べびたん?」
「確かにキレイといえばキレイか? 健康美的な?」
「べびたん!」
「‥‥あ、ごめん。でも愛依の脚もかわいいよ?」
「太いもん。‥‥そんな事言ってごまかされないよ?」
「いや、男子的には細い、とかよりちょっとふっくらした感じの方が」
「太いもん。ふっくら太いもん」
「いや、愛依は華奢な骨格で筋肉ついてないけど、ぷにぷにした感じなのが良いよ?」
「どうせぷにぷにですよ」
「‥‥‥‥え!? ‥‥褒めてるんだけど?」
「そんな。女の子の下腹部に直に手を置いて、にやけてる人に言われても」
「‥‥‥‥いや、‥‥これはキミが‥‥」