第0話 校内放送【画像あり】
「はいどうも~~。放送部の西山と」
「山田で~す」
「紘和62年度、最初のお昼の校内放送!」
「西山、気合いれていっくぞ~!」
「さて、私達も無事3年生に進級しまして、女子ばっかの放送部にも新入部員が」
「ま~また女子ばっかだけどね‥‥」
「こらこら。入ってくれた子に悪いよ」
「男子の入部受け付けてま~~す」
「「っせ~~の!」」
「「れんげ東高校名物。『うわさのあの人インタビュー』~~。ヒュ~パチパチ」」
「4月も半ばになりまして。新1年生の皆さん! 学校には慣れたかな~」
「我が放送部にも新入生入ってくれたね~。ありがと~。でもまだ募集してるよ~。特に男子」
「アンタしつこいって」
「それでね。早速リクエストあったんです。その今春入学した子の中で、是非『うわさのあの人インタビュー』で取り上げて欲しいって子」
「え~誰だれ? どこ中?」
「みなと第一です。ギフト持ちの才女で、おとなしい系のかわいい子。みんな知ってるよね。あの救国の英雄『ラポルト16』メンバーで、あの制度クリアしたっていう」
「あ~。『わチャ験』のあの子かあぁ」
「そうそう。で、今日はその方に放送室まで来ていただきました~」
「ささ。どうぞ」
「1年1組。逢初愛依さんで~す」
「ようこそ東高へ~。そしてようこそ放送部へ~」
「あ、はい。どうも」
「緊張してる? 逢初さん。この『うわさのあの人インタビュー』って、我が、れんげ東放送部でもけっこう歴史のあるコーナーで。活躍した部とか賞取った人とか、そういう『気になる人』にこのお昼の放送使ってインタビューする番組なのね。なので緊張するかもだけど、みなさんからの質問来てるので答えて欲しいのです」
「そうそう。もうみんな、『あの事』聞きたくてしょうがないのよ~」
「じゃ、ご挨拶お願いします」
「ハイ。どうぞ」
「‥‥あ、‥‥あのう。1年1組の逢初愛依です。よろしく‥‥お願いいたします」
「あ~! 初々しい!」
「美人だね~」
「え、いえ。そんな事は」
「え~逢初愛依さん。みなと第一中学出身。『わチャ験』こと『若人チャレンジ試験』にて準医師に合格済、っと」
「あ、『わチャ験』知らない人はスマホで調べてね。私ら学生が国の試験にチャレンジして、成績優秀だったら国家資格に準ずるモノがもらえちゃう国の制度だよ」
「その中でも『司法試験』に次ぐ難易度の『医師資格』を中2でクリアしてるのよ。この子」
「逢初医師、って呼んだ方がいいのかな? あ、準医師か」
「いえ。実はまだ準々医師なんです」
「あ、試験は準医師までクリアしてるけど」
「今現在は――」
「はい。満16歳になる9月下旬に、年齢制限がとれて準医師になります」
「なるほど~。じゃあのラポルトに乗った『夏休み戦争』の時は『準々医師』だったの?」
「艦内では当然医師として活動したんだよね?」
「ええ。そうですね。メンバー15人の体調を管理するのがわたしの役目でした。‥‥でもごめんなさい。詳しい事はいまだにお話しできないことも多くて」
「あ、ごめん。軍事機密だもんね?」
「話題替えよっか?」
「艦内の様子とかならぜんぜん大丈夫なんですが、ごめんなさい」
「じゃ、逢初さんは入る部活とか決まったの?」
「放送部とかどう? 声めっちゃ綺麗だし」
「いえ。まだ。‥‥部活は入らないかもしれません」
「え? そうなの?」
「お? 何で何で?」
「医学の勉強と病院でのバイトと、その、秋からの新生活の準備とかがあって‥‥‥‥」
「ほほう。秋から何やら新生活をする、とな?」
「西山。ベタな質問ヤメロ」
「ベタじゃないよ山田。じゃあもうついに! 単刀直入に訊いちゃおうかな? 『あの事』、なんだけどさ~」
「このれんげ東ってさ。自分らで言うのもなんだけど、地域トップのガチガチ進学校じゃん? 今までそういう人、入って来なかったんだよね~」
「だよね~。だからもう、女子は興味津々なのさ~」
「あ、はい」
「じゃあ、知らない人にも一応説明。この、逢初愛依さんは、ご存じ『ラポルト16』として戦ったお国の英雄なんだけど、その同じ『ラポルト16』で一緒に戦った彼と」
「その彼とね。なかなかにアツいシチュじゃない?」
「そ、そうでしょうか」
「『婚前同居』がもう決まってるんだよね~。ひゅ~♪」
「それも彼女が満16歳になる9月からだよね~。男子の皆さん残念でした~」
「あ、でもあくまで『婚前同居』なので結婚とか入籍とかが決まった訳では‥‥」
「あ、いいの? 本人がそんな事言っちゃって~?」
「本人自ら『破局もアリだからまだワンチャンあるよ~♪』とか?」
「いえ。でもあくまで『遠くない将来の婚姻を前提とした、未成年者同士での試行的な生計を一にする生活容態』なので」
「そっか~。まあ未来の可能性は色々あるって事だね。それでは早速訊いちゃうんだけど、その『婚前同居』。準備って、今何してるの?」
「向こうのご両親へのご挨拶とか?」
「‥‥あっはい。もうご挨拶は済ませています。実は彼の受験のために中3の秋くらいから週イチで向こうの家に一泊していまして」
「え? もうそれって『婚前同居』じゃないの?」
「そうだよ。フライングじゃん」
「いえ。あくまで友人として家庭教師としてだけ、土曜の夜あちらに一泊してました。‥‥まあ、『婚前同居』の予行演習みたいなものではあるんですが。わたしの家庭の事情もあって」
「「ふえぇ~~」」
「‥‥実はわたし、彼と同じ高校に行きたくて。彼の家庭教師を買って出たんです。彼もがんばってくれたんですが、今一歩及ばず」
「‥‥そうだったんだよねえ。ふたり揃って入ってくるのかとも」
「んだねえ。その彼氏、もうみんな知ってるけど咲見暖斗くんは、みなと中央高校だったよね」
「はい。だいぶ成績伸びたんですが‥‥」
「いやいや、私らが言うと微妙だけども、みなと中央だって東校に続く進学校だから」
「そうそう。よく頑張った。さっすが撃墜王の名誉騎士様。‥‥‥‥で、話戻すよ。私さっきから気になってるんだけど、その、逢初さん。咲見家に一泊、って事は? え?」
「あっ。大丈夫です。ちゃんと寝る時とかは別々ですよ? ‥‥‥‥『婚前同居』になってもそうです」
「うおおお。一瞬ビビった~。そっか。『婚前同居』ってもイキナリすべてOKって訳ないんだよねえ」
「むしろ大人に管理されての『同居』だから、制約とかも多いのかな~」
「そうなんです。『国に管理された、清く正しい未成年男女の同居』なので」
「う~ん。‥‥どうなのそれ‥‥実際困らない?」
「なんか普通に付き合った方が気楽な気もするね。ちょっと」
「あ、はい。そうなんです。『どこからどこまで』が明文化されている部分とその‥‥‥‥されてない部分も多くて。わたし達も試行錯誤なんです」
「‥‥‥‥今のセリフ大丈夫? 『試行錯誤』?」
「やだ。見る角度によっては際どいわ♪ でも私もやってみたい。『試行錯誤』」
「はい。それで『今やってる準備』なんですが」
「ごめ~ん。話の続きまだだった」
「どうぞ~~」
「はい。先日は彼と買い出しに行きました」
「ふむふむ。良かった。ほのぼのエピみたいで」
「へ~~。どこ行ったの~?」
「100円ショップとか雑貨屋さんなんですが、新生活で必要な物を」
「あ~~そっか。必要だもんね」
「それでそれで?」
「‥‥‥‥雑貨屋さんとかニポリとか回って、部屋の備品とか、夫婦茶碗とお箸を買ってきました。‥‥わたしがピンクで、彼が青色で」
「うわイキナリ惚気話キタ! お揃いだ~」
「糖度高め~! 校内の皆さん。食後のデザートのお時間で~す。ってまだ早いか~」
「今までは彼の家の、お客さん用をずっとお借りしてたんですが、‥‥その、いずれ買うんだからもう用立てよう、と」
「‥‥‥‥『婚前同居』は9月からでしたっけ? そっか今からそんな準備するんだ~」
「他には? あとじゃあ、その週イチお泊りで印象に残った出来事とか」
「‥‥‥‥そうですね。印象、というかすごく驚いた事が」
「来た来た。一緒に住むと出てくるんだよね。色々生活ルールの違いとか価値観のズレとか」
「まあ、それを早いうちに解決して、結婚年齢下げてくぞ! ってのが『婚前同居』だしね~」
「‥‥‥‥その、先方のお家にお泊りした日なんですが」
「ふむふむ。それはその、女子が寝る部屋と彼の部屋とは別々で、の流れでですよね?」
「それは逢初さんがさっき言ったじゃん西山ぁ」
「そうなんです。彼の家は集中方式なので、彼は自室で寝て、わたしは客室に泊まってるんです」
「‥‥‥‥あ~ちょっと待って。放送部垢にメール来てる。‥‥留学生のシオンさんから。え~。
『僕らにはこの国の結婚の仕組みがよくわからないので、教えて欲しいです』
とな」
「あ~。逢初さんゴメン。ちょっと他にも留学生の子いるし、その辺一回説明しちゃう?」
「‥‥そうしよっか。逢初さんの話に本格的に入っちゃう前に。ごめんね」
「じゃあ、まあまあざっくり行くよ。まず、この国って男子の生まれてくる確率がひっくいでしょ? 女子の6分の1くらいでしか生まれません。だから頭数少ない男子は、お嫁さんを4人までもらえるのね。これが重婚制度」
「さっき言った『婚前同居』もそう。国全体で成婚率と出生率を上げて、なんとか男子の頭数を確保しようとそりゃもう必死」
「で、複数のお嫁さんをもらった旦那さんは、色々個別に事情があるから住む形態も様々です」
「さっき逢初さんが言った集中方式、一か所の家に旦那さんと最大4人の奥さん家族が集中して住む方式、セントラル」
「あと通い婚とか。文字通りあっちこっちに奥さん家があって、旦那さんがそこに通う方式」
「‥‥‥‥で、さっきの集中方式にも細かく色々あるんだけどね。一軒家とか離れとか」
「これで大体わかったかな。あと、その彼の家の様式は逢初さん本人に訊いちゃおうか?」
「あ、質問メールは #東校放送部 まで。随時拾っていくよ~」
「あ、はい。彼の家は典型的な集中方式です。4人のお義母さまの家が敷地内の四隅に戸建てで点在しています。そして中央にお義父さま、梅園さんの住居があります。その南に共有スペースの食堂とかお風呂とかがある建物があって。食堂は4家族が一斉に集うので大きいですね。台所も。べ‥‥暖斗くんのお部屋は第2席の咲見夫人の家屋に」
「なるほど~」
「え~。いいなぁ。旅館みたいで楽しそう。うち通い婚だから」
「わたしは東南にある離れの客間に。‥‥‥‥それで梅園家に宿泊したある朝、起きて食堂に向かったんですが」
「ああ、こっからさっきの話の続きね」
「話が途中になっちゃってゴメンでした~」
「‥‥通常は4人のお義母様とお手伝いさんが朝食作ってて、お義母様は交代制だったりするんですけど、わたしもお手伝いしに行ったんです」
「おお~逢初さんエライ!」
「まーあれだ。『未来の嫁』アピールは大事だよね~」
「そしたらお手伝いさんが来て入り口で止められたんです。『もうすぐできるから待ってて、って言ってる』って」
「‥‥‥‥何? 変な言い回し」
「朝ごはんの食材が尽きたとか? 買い物頼まれてたの忘れたとか」
「それアンタでしょ?」
「うっさいなあ」
「それで、しばらく、5分くらい食堂の近くでスマホ触ってたんですけど、何かいい匂いがしてきて‥‥‥‥」
「ほらキタ。さあさ、咲見家の朝ごはんは? お米派? パン派?」
「突撃今日の朝ごはん!」
「‥‥‥‥彼が‥‥‥‥焼いてくれていました‥‥‥‥」
「「ふぁ!?」」
「‥‥‥‥彼が‥‥‥‥早起きして‥‥‥‥」
「彼って?」
「その、咲見くん?」
「‥‥‥‥わたしのために、シフォンケーキ‥‥‥‥焼いてくれてたんです‥‥!」
「‥‥ちょ‥‥!!」
「‥‥マジか‥‥!!」
「‥‥‥‥彼は‥‥スイーツ作る男子‥‥で、洋菓子店でバイトをしていて‥‥」
「‥‥‥‥それは噂で知ってるよ。駅南のケーキ屋さんだってね」
「『ラポルト16』がバズった時にこっそり見に行った子多いよ。逢初さんというライバルがいる事も知らずにね。かく言う私も」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥逢初さん‥‥あ、メール来てる! ええと『匿名女子』さんから。
『山田先輩西山先輩、昼の放送乙です! で、私気づいちゃったんですけど、逢初さんの名前出た瞬間に聞いてないフリしながら箸が止まる男子多くて草』
だあってさ」
「あ~でもそんな男子諸君には【悲報】かなあ」
「そだね~」
「今、この放送室にいる逢初さんのカオ、見ちゃったらね~」
「見ちゃったらね~」
「え? わたし?」
「いえいえ。逢初さんはなんも悪くなくて」
「あ~でもいいもの見ちゃったな~。恋する乙女かあ」
「えっと‥‥」
「‥‥‥‥いえいえ。愛を得た女はね~」
「こんな表情するのか~と」
「え?」
「うらやましい。猛烈にうらやましいぞ!」
「私にも作って! 誰か! あ~~~!!」
「‥‥わたしが泊まった時用のサプライズだったようです」
「いいよね~。彼氏の家で朝ごはん。ってだけでめっちゃ幸せなんだけど、何? 彼お手製の焼きたてシフォンケーキ? どんな世界線だよ!」
「ねえねえどんな味だったどんな味だった!?」
「‥‥‥‥ごめんなさい。あんまり憶えてなくて」
「あ~そっか。それ矛盾してんだけど、してないねえ」
「逢初さんは『超記憶』のギフト持ち。忘れるなんて理論上ありえないんだけど」
「いえ。美味しかったんです。素朴な味で。すごく美味しかったんです。だけど‥‥」
「うんうん‥‥‥‥!」
「あ~~」
「‥‥‥‥わたしもう‥‥‥‥胸が、いっぱいで‥‥」
「‥‥‥‥ぐす」
「こらアンタまで泣くな。‥‥アンタまで‥‥」
「‥‥わた‥‥‥‥‥‥‥‥ごめんなさい」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥ぐす。もう駄目だ。ごれで放送終わりまず。東校放送部、『昼のひどどき』でじだ‥‥」
「べールまっでま~~ず」
愛依さんと暖斗くんの馴れ初めは、本編【第1部】にて。
※最後尾のイラストは、絵師ゆるぽて様よりいただいたファンアート。
‥‥と、いうか、この【第4部】を投稿しているのは彼女にベビアサの世界観をお伝えするため。
「ただそれだけのため」
だったりします(笑)