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シンデレラが暗すぎる!

作者: 鷹司

 

 フフ、どうもシンデレラです。


 でもこれ、あだ名なんです。本当の名前はレラ。死んでレラなんて、本当に酷いわ、お母様たち。


 私なんて、どうあがいても絶望しか待っていない。


 王子様なんて、どうせ私の顔が好きなだけ。私の優しさが好きなのよ!


 生きていればどうしても溜まっていく、暗い感情を見ようともしない。


 あの妖精さんには、申し訳ないわね。せっかく機会をくれたのに、私は王子様を信じられない。


 今も、こうして閉じ込められて、それなのに何もしようとしない。歌うことも、王子様を思うこともできない。


 私はただ、泣いているの。声を上げて。窓もない、こんな暗い部屋の中で。


 私を見つけることなんて、できるはずがないわ。


 ❇❊❇


 息子はあの娘がを探すと言っていたが、難しいかもしれん。

 ガラスの靴が手がかりと言っていたが、そうそう見つかりはしないだろう。


 それにあの娘、誰かに隠されていたと見た。


 あれほど美しく、優しいのだ。もしや王子がと、期待するものもおろう。それが噂などさっぱり。なにかあるに違いない。


 しかし、たとえ見つけられたとして、あやつは姫の心を射止めることができるかの。


 あるいは姫自身、心を閉ざしているかもしれない。時間だと言って、王子から身を離したとき、諦めている者の仕草のように感じた。


 たとえタイムリミットでも、自分が愛されているという自信が、王子が守ってくれるという思いがあったなら、大人しくそのままにしておるじゃろう。


 本気で王子を愛するなら、自分の身に何があろうと、離そうとしないのではないか。


 わしはそう思う。


 まあなにはともあれ、あやつに幸あれだ。ああ、彼女にも、良いことがあるといいのう。


 ❇❊❇


 また、彼女ではなかった。自分から出向いて、初めて城の外から出て、まさか見つからないのだろうか。


 一目見て、私は彼女を見初めた。本気で愛し、本気で守りたいと思った。


 深い悲しみをたたえた、暗く、しかし美しい、優しい瞳。


 たとえ彼女が美しくなかったとしても、私はその目に惹かれただろう。


 だが、彼女はどうだろうか。私は、王子なのだ。


 彼女は哀に満ちていた。その悲しみから抜け出すために、私に気に入られようとしたのだったら?


 彼女に会って、私を利用しようという目で見られるのが怖い。


 もう、最後だ。彼女がいるとしたら、この屋敷しかない。なのに、いなかったらどうしようか。


 思っても仕方のないことなのに、心の中の不安は消えてはくれない。


 それに、やはり、彼女に会うのが怖い気もする。もし、彼女が着飾って、顔に笑みを貼り付けて、私を見たら?


 それは、私の求める彼女ではない気がする。


 私は今、初めて苦しいかもしれない。

 彼女は、ずっと苦しかったのだろう。


 私がいくら傷つこうが、苦しもうが、彼女を救えるのなら。


 この屋敷に、賭けてみようと思う。


 ❇❊❇


 全く、どこの誰だか知らないが、嬉しいことをしてくれるねえ。


 もし娘たちが王子の目にとまれば、夢の遊び放題の生活さ。すべてをかっさらっていきそうなシンデレラも閉じ込めた。


 もし出てきても、あいつは暗い。王子も嫌になって、美しく明るい娘たちに恋をするかもしれないし。


 全く、上々だね。どこの誰だか知らないが、嬉しいことだ。どこの誰だか知らないが。


 まさか?いや、そんなことはないだろう。いや、まさか…?


 ❇❊❇


 あら、お母様の喜ぶ声が聞こえるわ。お姉さまたち、うまく王子様の心を射止めたのかしら。


 できれば、3人揃って出て行ってくれると嬉しいわね。


 はあ。王子様、か。とても素敵な方だったわね。私にメロメロになって。


 でも、ごめんなさい。私はただ、息抜きがしたかっただけなの。


 妖精さんが、このままでは一生行けないような、素敵なところに連れて行ってくれた。


 私はこの思い出を胸に抱いて、ひっそりと死ぬわ。


 そう、死ぬの。お姉さまたちを送り出して、死ぬ。


 悪くないと思うわ。もうこの家は借金だらけ。どうせ返済なんてしてくれないのだから、全てが終わったら、命を絶とうと思う。


 この世界は、そこまで酷くないと思う。


 それでも、もう終わりにするわ。王子様と一緒に、幸せになっているあの人たちなんて、見たくない!


 そろそろ、かしらね。ふふふ、お父様、お母様。もうすぐ会えますよ。


 継母さん、お姉さまたち、さようなら。どうぞ、お幸せにね。


 王子様も、どうぞ国を豊かにしてください。


 さようなら。


 ❇❊❇


 ああ、違う。この娘たちはたしかに美しいが、彼女ではない。もしかしたら、似ているかもしれないと思うけれど。


 私は彼女の顔をはっきりと覚えていない。だから、面影なんてわからない。


 あの悲しそうな瞳なら、この目に焼き付いている。けれど、彼女たちにそれはない。明るく、傲慢で。優しさよりも、見返りがほしいというような。


 そんな悲しい醜さしか、彼女たちには、見えない。


 嗚呼、あなたは一体、どこにいるのですか?


 ❇❊❇


 王子様。思った以上に美しい人だわ。是が非でも、この人を思い通りにしてやる!


 母さんは気づいてないみたいだけど、あの女、絶対にシンデレラだわ。ふ、彼は彼女に惚れた。なら、真似をするだけ。


 優しい声を出して、優しくねぎらって。優雅に微笑んで、指の先まで気を抜かない。


 あなたに会えて幸せよ〜って、アピールするの。


 …なんでこいつ、私なんて眼中にないみたいな顔してんのよ!


 許せない、許せないわシンデレラ!あとで、いじめてやる!いや、殺してやるわ!


 ❇❊❇


 きれいな人。どこか遠くを見るような表情をして。


 きっと私に見惚れてるんだわ。


 ねえさんはなんか怒ってるけど、きっと私に取られて悔しいのね。


 フフ、大丈夫よ。しっかり養ってあげるから。


 じゃあ、一気に落としましょう。ふっと体をもたれて、自然に唇を奪うのよ!


 ❇❊❇


 な、王子が身を引いた!?あの子の美貌を前にして!?くそ、やはりシンデレラがあの娘だったのか!


 こんなこと、あっていいものか!


 あのような女に、王子を取られて良いものか!


 殺してやる、殺してやる!


 ❇❊❇


 なぜだ?急に上に登って行ったぞ?


 なんだか、嫌な予感がする。まさか、まさか。あの階段の先に、彼女がいるというのか。


 あの女、何をする気だ?


 ついていこう。ついて行って、助け出してやる。


 だから、なんとか、なんとか、間に合ってくれ…。


 ❇❊❇


 足音がする。あの人かしら?あの、継母。


 私を殺しに来た?


 ふ、愚かな王子。なぜ興味を示そうとしなかったの?あなたの愛する女が、あなたのせいで殺されようとしているわよ。


 今更、抵抗しても遅いかしら。


 それでも、私はアイツラの手に掛かるのだけは御免よ!


 嫌だ。嫌だ。それだけは、絶対に許容できない。


 誰か、助けて。お父様、お母様!


 嫌よ、嫌だわ。こんなところで、死にたくない。私は、幸せになりたいの。


 ❇❊❇


「お前、お前のせいで、私達はチャンスを逃したんだ!死んでしまえ、シンデレラ!」


 あの女が言っている。

 シンデレラ。死んでレラ。それが、君の名なのか?


 許さないぞ、お前たち。


 ❇❊❇


 痛いわ、やめて。そんな、こんなに痛いの?


 誰か、助けて…。


 ❇❊❇


 くそ、このやろう。なんで、なんでそんなにきれいなんだよ!くそ、その顔を、憎悪で塗ってやる!


 !?


 何をする、私の背中を掴むのは誰だ!?


 王子、王子か!クソ、離せ離せ離せ!


 嫌だ、こいつは私が殺してやる!やめろ、離せ!


 ❇❊❇


 ああ、可哀想に。震えて、泣いて。


 痛かっただろう。私も剣の訓練をして、怪我をしたことがある。痛くていたくて、いっぱい泣いた。


 君は、その何倍痛いのだろう。どれほどつらい思いをしてきた?


 助けてやる。私の、僕のことを好きにならなくてもいいから。


 幸せに、これからは、幸せに。


 ❇❊❇


 救世主が、現れた。私を、絶望の淵から救い出してくれた。


 ありがとう。あなたは、あなたは。


 王、子、様?


 なんで、そんなに必死になって、私を救うの?私はあなたを、愛することなどできないのに。


 優しく、抱きしめて。痛いところに、優しく触れて。


 もう嫌なの。傷つくのは嫌なの。きっとあなたは、私を置いて行ってしまう。


 お母様のように。お父様のように。


 私の愛した人たちは、みんな私を置いて行ってしまうんだわ。


 嫌だ、行かないで。


 ❇❊❇


 息子が、美しい娘を連れて帰ってきた。


 何があったのか、彼女は怪我をしていた。そしてそれ以上に、心に傷を負っているらしかった。


 可哀想にの。王子を信じることなどできないだろう。


 まあ、いずれは氷が溶けるだろう。そう思っておったのだが。


 あの娘、レラといったな。


 レラは王子と結婚してなお、どこか遠慮していた。


 そしてある日、わしにこう言ったのだ。


 ――王子様が、私を置いていってしまうのだと思うと、怖いのです


 いやはや、なんというか、可愛らしいというか、バカバカしいというか、なんというか。


 そんなに心配することはない。わしもあれも、とてつもなく頑丈なのだ。病気だろうが事故だろうが、そう簡単には死なないだろう。


 ましてや、あれはレラを愛しているから、レラを捨てるなどということは、絶対にないのに。


 あいつはあいつで、レラは私を愛していないのです。しかし…。などと抜かしておった。


 馬鹿者が。鈍いのだ。


 若いというのは羨ましいと思ったが、アホらしくもある。


 まあ、それはそれで、綺麗だがな。切ないというのは、時にとても美しい。


 それに拘るのもいいとは思うが、しかし、せっかくハッピーエンドなのだから、甘んじていれば良いものを。


 全く、仲を取り持たなくてはならなくなったではないか。


 しかし、孫は可愛い。


 うむ、こういうシンデレラも、悪くはないんじゃないかと思う。

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