シンデレラが暗すぎる!
フフ、どうもシンデレラです。
でもこれ、あだ名なんです。本当の名前はレラ。死んでレラなんて、本当に酷いわ、お母様たち。
私なんて、どうあがいても絶望しか待っていない。
王子様なんて、どうせ私の顔が好きなだけ。私の優しさが好きなのよ!
生きていればどうしても溜まっていく、暗い感情を見ようともしない。
あの妖精さんには、申し訳ないわね。せっかく機会をくれたのに、私は王子様を信じられない。
今も、こうして閉じ込められて、それなのに何もしようとしない。歌うことも、王子様を思うこともできない。
私はただ、泣いているの。声を上げて。窓もない、こんな暗い部屋の中で。
私を見つけることなんて、できるはずがないわ。
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息子はあの娘がを探すと言っていたが、難しいかもしれん。
ガラスの靴が手がかりと言っていたが、そうそう見つかりはしないだろう。
それにあの娘、誰かに隠されていたと見た。
あれほど美しく、優しいのだ。もしや王子がと、期待するものもおろう。それが噂などさっぱり。なにかあるに違いない。
しかし、たとえ見つけられたとして、あやつは姫の心を射止めることができるかの。
あるいは姫自身、心を閉ざしているかもしれない。時間だと言って、王子から身を離したとき、諦めている者の仕草のように感じた。
たとえタイムリミットでも、自分が愛されているという自信が、王子が守ってくれるという思いがあったなら、大人しくそのままにしておるじゃろう。
本気で王子を愛するなら、自分の身に何があろうと、離そうとしないのではないか。
わしはそう思う。
まあなにはともあれ、あやつに幸あれだ。ああ、彼女にも、良いことがあるといいのう。
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また、彼女ではなかった。自分から出向いて、初めて城の外から出て、まさか見つからないのだろうか。
一目見て、私は彼女を見初めた。本気で愛し、本気で守りたいと思った。
深い悲しみをたたえた、暗く、しかし美しい、優しい瞳。
たとえ彼女が美しくなかったとしても、私はその目に惹かれただろう。
だが、彼女はどうだろうか。私は、王子なのだ。
彼女は哀に満ちていた。その悲しみから抜け出すために、私に気に入られようとしたのだったら?
彼女に会って、私を利用しようという目で見られるのが怖い。
もう、最後だ。彼女がいるとしたら、この屋敷しかない。なのに、いなかったらどうしようか。
思っても仕方のないことなのに、心の中の不安は消えてはくれない。
それに、やはり、彼女に会うのが怖い気もする。もし、彼女が着飾って、顔に笑みを貼り付けて、私を見たら?
それは、私の求める彼女ではない気がする。
私は今、初めて苦しいかもしれない。
彼女は、ずっと苦しかったのだろう。
私がいくら傷つこうが、苦しもうが、彼女を救えるのなら。
この屋敷に、賭けてみようと思う。
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全く、どこの誰だか知らないが、嬉しいことをしてくれるねえ。
もし娘たちが王子の目にとまれば、夢の遊び放題の生活さ。すべてをかっさらっていきそうなシンデレラも閉じ込めた。
もし出てきても、あいつは暗い。王子も嫌になって、美しく明るい娘たちに恋をするかもしれないし。
全く、上々だね。どこの誰だか知らないが、嬉しいことだ。どこの誰だか知らないが。
まさか?いや、そんなことはないだろう。いや、まさか…?
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あら、お母様の喜ぶ声が聞こえるわ。お姉さまたち、うまく王子様の心を射止めたのかしら。
できれば、3人揃って出て行ってくれると嬉しいわね。
はあ。王子様、か。とても素敵な方だったわね。私にメロメロになって。
でも、ごめんなさい。私はただ、息抜きがしたかっただけなの。
妖精さんが、このままでは一生行けないような、素敵なところに連れて行ってくれた。
私はこの思い出を胸に抱いて、ひっそりと死ぬわ。
そう、死ぬの。お姉さまたちを送り出して、死ぬ。
悪くないと思うわ。もうこの家は借金だらけ。どうせ返済なんてしてくれないのだから、全てが終わったら、命を絶とうと思う。
この世界は、そこまで酷くないと思う。
それでも、もう終わりにするわ。王子様と一緒に、幸せになっているあの人たちなんて、見たくない!
そろそろ、かしらね。ふふふ、お父様、お母様。もうすぐ会えますよ。
継母さん、お姉さまたち、さようなら。どうぞ、お幸せにね。
王子様も、どうぞ国を豊かにしてください。
さようなら。
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ああ、違う。この娘たちはたしかに美しいが、彼女ではない。もしかしたら、似ているかもしれないと思うけれど。
私は彼女の顔をはっきりと覚えていない。だから、面影なんてわからない。
あの悲しそうな瞳なら、この目に焼き付いている。けれど、彼女たちにそれはない。明るく、傲慢で。優しさよりも、見返りがほしいというような。
そんな悲しい醜さしか、彼女たちには、見えない。
嗚呼、あなたは一体、どこにいるのですか?
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王子様。思った以上に美しい人だわ。是が非でも、この人を思い通りにしてやる!
母さんは気づいてないみたいだけど、あの女、絶対にシンデレラだわ。ふ、彼は彼女に惚れた。なら、真似をするだけ。
優しい声を出して、優しくねぎらって。優雅に微笑んで、指の先まで気を抜かない。
あなたに会えて幸せよ〜って、アピールするの。
…なんでこいつ、私なんて眼中にないみたいな顔してんのよ!
許せない、許せないわシンデレラ!あとで、いじめてやる!いや、殺してやるわ!
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きれいな人。どこか遠くを見るような表情をして。
きっと私に見惚れてるんだわ。
ねえさんはなんか怒ってるけど、きっと私に取られて悔しいのね。
フフ、大丈夫よ。しっかり養ってあげるから。
じゃあ、一気に落としましょう。ふっと体をもたれて、自然に唇を奪うのよ!
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な、王子が身を引いた!?あの子の美貌を前にして!?くそ、やはりシンデレラがあの娘だったのか!
こんなこと、あっていいものか!
あのような女に、王子を取られて良いものか!
殺してやる、殺してやる!
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なぜだ?急に上に登って行ったぞ?
なんだか、嫌な予感がする。まさか、まさか。あの階段の先に、彼女がいるというのか。
あの女、何をする気だ?
ついていこう。ついて行って、助け出してやる。
だから、なんとか、なんとか、間に合ってくれ…。
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足音がする。あの人かしら?あの、継母。
私を殺しに来た?
ふ、愚かな王子。なぜ興味を示そうとしなかったの?あなたの愛する女が、あなたのせいで殺されようとしているわよ。
今更、抵抗しても遅いかしら。
それでも、私はアイツラの手に掛かるのだけは御免よ!
嫌だ。嫌だ。それだけは、絶対に許容できない。
誰か、助けて。お父様、お母様!
嫌よ、嫌だわ。こんなところで、死にたくない。私は、幸せになりたいの。
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「お前、お前のせいで、私達はチャンスを逃したんだ!死んでしまえ、シンデレラ!」
あの女が言っている。
シンデレラ。死んでレラ。それが、君の名なのか?
許さないぞ、お前たち。
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痛いわ、やめて。そんな、こんなに痛いの?
誰か、助けて…。
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くそ、このやろう。なんで、なんでそんなにきれいなんだよ!くそ、その顔を、憎悪で塗ってやる!
!?
何をする、私の背中を掴むのは誰だ!?
王子、王子か!クソ、離せ離せ離せ!
嫌だ、こいつは私が殺してやる!やめろ、離せ!
❇❊❇
ああ、可哀想に。震えて、泣いて。
痛かっただろう。私も剣の訓練をして、怪我をしたことがある。痛くていたくて、いっぱい泣いた。
君は、その何倍痛いのだろう。どれほどつらい思いをしてきた?
助けてやる。私の、僕のことを好きにならなくてもいいから。
幸せに、これからは、幸せに。
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救世主が、現れた。私を、絶望の淵から救い出してくれた。
ありがとう。あなたは、あなたは。
王、子、様?
なんで、そんなに必死になって、私を救うの?私はあなたを、愛することなどできないのに。
優しく、抱きしめて。痛いところに、優しく触れて。
もう嫌なの。傷つくのは嫌なの。きっとあなたは、私を置いて行ってしまう。
お母様のように。お父様のように。
私の愛した人たちは、みんな私を置いて行ってしまうんだわ。
嫌だ、行かないで。
❇❊❇
息子が、美しい娘を連れて帰ってきた。
何があったのか、彼女は怪我をしていた。そしてそれ以上に、心に傷を負っているらしかった。
可哀想にの。王子を信じることなどできないだろう。
まあ、いずれは氷が溶けるだろう。そう思っておったのだが。
あの娘、レラといったな。
レラは王子と結婚してなお、どこか遠慮していた。
そしてある日、わしにこう言ったのだ。
――王子様が、私を置いていってしまうのだと思うと、怖いのです
いやはや、なんというか、可愛らしいというか、バカバカしいというか、なんというか。
そんなに心配することはない。わしもあれも、とてつもなく頑丈なのだ。病気だろうが事故だろうが、そう簡単には死なないだろう。
ましてや、あれはレラを愛しているから、レラを捨てるなどということは、絶対にないのに。
あいつはあいつで、レラは私を愛していないのです。しかし…。などと抜かしておった。
馬鹿者が。鈍いのだ。
若いというのは羨ましいと思ったが、アホらしくもある。
まあ、それはそれで、綺麗だがな。切ないというのは、時にとても美しい。
それに拘るのもいいとは思うが、しかし、せっかくハッピーエンドなのだから、甘んじていれば良いものを。
全く、仲を取り持たなくてはならなくなったではないか。
しかし、孫は可愛い。
うむ、こういうシンデレラも、悪くはないんじゃないかと思う。