98 ベットの上の病人
「ドリル様!」
「え? ゼン?」
あれ?
部屋の中には立派な天蓋付きベッドが鎮座していて。
そこに金髪の女性らしき人が寝ているけど……その横にある椅子に座ったまま、こちらを振り返っているのは……ドリル嬢だね……。
ドリル嬢は俺がいる事に驚いているみたいだが、見る限りでは元気そうだ。
「何故ゼンがここに来ているの? 爺?」
ドリル嬢が椅子から立ち上がって、部屋の入口あたりにいる俺達の方へと歩いてくる。
部屋には世話係と見られる、お屋敷内で見た事のあるメイドさんが数人と、一人の白い服を着たおっさんが……。
なんだあいつ、なんであんなに……。
「ドリエール様、実はゼン殿が――」
俺は執事さんの顔の前に手のひらを出してセリフを止めた。
執事さんは驚いたが、俺の意図に気付いて言葉を止めてくれた。
「ゼンが? どうしたのよ!?」
ドリル嬢は俺と執事のやりとりに少し苛ついているようだ。
というかすっげぇ元気そうだな……金髪ツインテールの髪先のドリドリも、元気よくビョンビョンしているし。
あー、そういえば執事はお嬢様を助けてくれと言ったが、ドリル嬢とは言ってなかったな……。
……勘違いしちゃったかぁ……。
まぁドリル嬢の様子を見るに、ベッドで伏せっている女性はすごい大事な人っぽいから、このまま助けるのも吝かではないのだけど。
部屋には人がいっぱいいるし、まだ入口の扉を開けっぱなしなので護衛もこちらを見ている。
そして何より……。
「その先を言うなら無関係の人間を外に出してくれ執事さん」
「畏まりました、ドリエール様お耳を拝借」
執事さんは苛ついているドリル嬢に耳打ちをしている。
ドリル嬢はそれを聞いて、ハッとした表情をして俺を見てから、再度執事の方を真剣な表情で見ている。
執事がそれに対してコクリッと何も言わずに頷きだけを返すと。
ドリル嬢は部屋の中に振り返り。
「皆、部屋を出て行きなさい」
そう命令をした。
メイド達は戸惑っていたが、ドリル嬢が再度命令すると入口から廊下へと出ていく。
だがしかし、白い服を着たおっさんだけは動こうともせずに。
「急に何を言い出すのですか! アイリーン様が大変な時に専属医師の私が離れる事が出来る訳がないでしょう!? それにその男は何なのです、治療の邪魔なのでそいつこそ外にお出しくださいドリエール殿! 貴方は姉君が大事ではないのですか!?」
と、早口で捲し立てる白衣のおっさん。
あんた医者だったのね……なんかこいつさぁ、俺にすげぇ悪意を向けてくるんだよね。
しかも今は、ドリル嬢とその関係者にもその悪意が向いている気がする。
俺の〈悪意感知レベル4〉がそれをすっげー感じているんだ。
表面上は医者として振る舞っているけど……こいつは……。
うーん、取り敢えず口は挟まないでドリル嬢にまかせるか、俺を受け入れるかはこの屋敷の主であるドリル嬢次第だしな
「後でお呼びしますので今は部屋を出ていってください×××医師」
お願いをしているけど実際は命令であるドリル嬢の言葉。
しかしおっさんは動こうとしないので、ドリル嬢の目配せで動き出した入口の護衛兵に強引に部屋の外へと連れていかれた。
おっさんは両腕を護衛兵に抱えられて運ばれながら、なんかすっげー喚いていたね。
自分がいないとアイリーン? さんでよかったっけ? まぁそこに寝ている人が助からないぞとか。
後は、その人には俺が絶対に必要なんだとか……言い方がすげーきもかった。
日本にいた頃にニュースで見た、アイドルに対するストーカーの言い分に似てる気がして、すごい粘着度を感じたね。
そうして部屋の中には、天蓋付きベッドで横になっている金髪女性とドリル嬢、そして俺と執事さんだけになって扉も閉められた。
うーん、俺の〈気配感知〉には入口の外以外の場所にも隠れている護衛がいるのを感じているんだけど……。
まぁいいか、俺が聞かせたくなかったのは、あの見も知らんおっさんだけだしな、他の人らは……毒見の時とかに会っていて知り合いだしね。
……まぁあれは毒見じゃなくて小さな酒宴だったけど……。
ドリル嬢が真剣な顔で俺を見ると。
「高レベルの〈光魔法〉を使えるというのは本当なのね? 今更冗談でしたとか言い出したらさすがに貴方と言えど……縁を切る事になるわよ?」
執事は会話に参加するつもりがないのか、俺とドリル嬢の側から数歩下がった。
「ええ、それなりの力は持っています、冗談で貴族のこんな事に首を突っ込んだりしないですよ」
「そうよね……あそこに寝ているのは私のお姉様なの、どうか助けてあげて……ゼン……」
ドリル嬢が俺の前に来て、俺の胸の洋服を掴みながら縋るようにお願いをしてくる。
その目には涙が滲みだしていた。
そんなに患者の容体がひどいのだろうか……俺はドリル嬢の手を丁寧に俺の服から離させる。
そしてベッドの横へとドリル嬢を伴って近づいていく。
掛布団のせいで顔しか見られないけども痩せているし、呼吸が荒く息切れも起こしている金髪の女性は、近づいてきたドリル嬢に気付くと、布団から片腕を出してドリル嬢へと伸ばす。
細いというか痩せた手だね……。
「ご、めんね、ドリーちゃん、私、今度こそ、もう、駄目、かも……家族の皆に、愛しているって、伝えて、ね」
「馬鹿な事を言わないでくださいお姉様! これもいつもの発作ですよ! すぐ……医者に手当して貰えば……すぐ治る……いつもの……」
いつもというくらい頻繁に倒れて、そして医者が見ると持ち直すのか……。
「いつも、より、心の臓が、おかしいの、これは……せっかく、公爵家の役、に立てそう、だったのに、ね……」
「お姉様は、生きていてくれるだけでいいのです! だから!」
ふーむ、姉妹の会話が終わるまで待った方が……いや、もしもがあるからな。
俺はいまだに二人だけで会話を続けている女性とドリル嬢を無視し、手を寝ている女性に向けると、〈光魔法〉を使う。
そして回復は元より解毒や呪いの解呪など、ありとあらゆる可能性を潰すべく回復系の魔法を使いまくった。
かなり魔力を籠めて念入りにね。
ちなみにドリル嬢はベッドの上に乗り出していて、女性の伸ばした手を両手で握って顔を近づけて会話しているので……女性共々俺が魔法をかけた事に気付いてはいない。
「足もまた上手く動かせなくなったし、胸はまた急に痛くなるし、これはもう駄目だと思うのよドリーちゃん」
「私は諦めません! 回復魔法を使える者が来てくれたんです、だから諦めないでお姉様!」
「回復魔法は……前に一度教会の偉いお方に来て貰って掛けて頂いたけど……治ったと思ったらまたすぐに戻っちゃったじゃない? 私は不治の病に侵されているのよ……ドリーちゃん」
「そんな事はありません! 絶対に! 絶対に私やお父様が治療法を見つけてみせますから! この貿易港なら色々な情報が入ってきます! いつか……いつかきっと……」
ドリル嬢は女性に縋り付きながら泣き始めてしまっている。
「こんなに小さいドリーちゃんにそこまでさせて御免なさいね……お父様にも感謝しないと、でもやはり私はもう……」
「アイリーンおねえざばぁ……」
ついに本格的に泣き出してしまったドリル嬢。
それをヨシヨシと頭を撫でて慰めている女性はドリル嬢の姉なんだっけか?
……家族愛だねぇ、素晴らしい。
ちなみに俺は治療が終わったんで執事にそれを伝えてから、部屋の中にあるソファーに座らせて貰い、彼女達の涙を誘う会話を邪魔しないように見守っている。
ふーむ、教会のお偉い人の回復魔法で治ったけど再発する病気ねぇ?
んー? 色々と魔法を使ったが呪いやらの感触はしなかったし……どちらかというと……。
ああうん、執事さんにあの女性の症状を詳しく聞いてみるか……。
……。
……。
俺が執事との話にウンウン頷いていると。
姉妹の会話が終わったのか、ドリル嬢が顔をあげてふり返って俺を見る。
「ゼン! 何で爺とそんな所でのんびりと会話しているのよ! 早くお姉様に回復魔法をかけてあげてよ! 低レベルな魔法ではどうにもならないのよ……」
いまだに女性から頭を撫でられているドリル嬢の、その嘆きの籠った怒声に俺は……。
「もう回復の魔法はかけ終わりました」
と一言で返事していくのであった。
「え?」
「え?」
ベッドに横になっていた女性がムクリと上半身を起こし、ドリル嬢と共に二人して驚きの表情を俺に向けてくる。
成程、確かにその唖然とした表情は似ているかもしれないね。
息が揃っていて仲の良い姉妹だな。
「ええぇぇぇぇぇぇ!」
「え? え? あら? あらまぁ……」
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